ただの茶番
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「正式にご夫婦になられるって何よ!その女は死んだんじゃないの!?」
「死んださ。トゥールーズ公爵家嫡女ジル・トゥールーズはな。今俺の腕の中にいるのは、ジル・クルパン。元平民の、クルパン子爵家の養女。そこにいるニコの義理の娘だ」
平らな声で、俺はジルの異母妹に告げた。
「はあ!?」
「じい。これからの出来事を確認しておくぞ」
醜く顔を歪ませたジルの異母妹から、視線を再びニコに移して、俺は言葉を続けた。
「俺はそこの女に唆され、婚約者のジルに毒杯を飲ませ、ジルは死亡。しかし、その直後にジルの無実の証拠が出てくる。本当は誰よりも婚約者を愛していた俺は、ショックで発狂。王太子としての責任を果たせなくなったと見なされ、廃位される。代わりに辺境伯としての地位を与えられ、療養の名目で、王都から追放」
「な!廃位!?追放!?どうしてよ!?そんなシナリオ、無かったはずよ!」
本当に、品位のない女。今一体何時だと思っているのやら。こんなに大声で喚くなど、令嬢としての教育はどうなっているんだ?
そもそも、シナリオってなんだ?
少し苛つきつつ、俺は続けた。
「追放され、辺境伯領への護送中、俺は殺してしまった婚約者とよく似た、銀髪で背の高い平民の娘を偶然見かける。精神に異常をきたしていた俺は、婚約者が帰ってきてくれたのだと思い込み、その娘を無理矢理、拉致。『共にいられないのならば、今度は一緒にあの世に行く』と騒ぎ出す。見張り役の家臣達も困惑し、その娘を侍従の子爵の養女として、俺と結婚させる。そして、哀れな娘を犠牲にして、狂った元王太子だけは、いつまでもいつまでも幸せに暮らしましたとさ、という感じだな」
「殿下、いえ、辺境伯閣下。ご自身だけでなく、ジル様のことも幸せにしていただなくては困るのですが。王妃殿下ともそうお約束されたはずですよ」
さらに目つきを険しくして、ニコは俺を窘めた。
「約束なんて、必ず守れるものではないだろ。しかし、すごいよな。王妃殿下も。自分の生んだ息子を王位につけるためなら、姉の唯一の忘れ形見であるジルを、俺なんかに売り飛ばしちゃうんだから」
そう。すでに根回しは済んでいた。王妃腹の第二王子、俺の異母弟のアルフォンスに、王太子の座を譲り渡すことを条件に、辺境伯の地位とジルを、俺は国王夫妻にねだったのだ。
もちろん、ジルの逮捕、処刑なんてただの茶番。
公式的には、ジルには死んでもらわなくてはならなかったのだ。