説得
いつもと違う日に投稿します。よろしければ、読んでください。少し長いです。
父とディアーヌ妃にすぐさま全てを報告した。
嘘をついてきたのはトゥールーズ公爵家の害獣どもの方であり、俺が言わせたわけではない。
それから公爵領と隣接するナヴァル王国に、クソ以下の公爵が鉄の密貿易を持ちかけられ、ひどく乗り気でいることも報せた。
武具や大砲の材料となる鉄を、ひそかに隣国に売るなど、売国行為以外の何物でもない。
後妻の娘を王太子に近づけさせつつ、敵対する隣国に鉄の密輸出を行おうとすること自体がおかしな話だ。あのクソ以下の公爵は、金に困り果てて、目先のことしか考えられなくなっていたようだ。
事がばれたら、いよいよジルの身が危ないと、俺は父に訴えた。売国奴の娘として、愛してもくれない家族と一緒に裁かれるなど、あんまりだと。
「お前はそれで良いのか?」
父は憐れむような、怖れるような目で俺を見た。
「構いません。俺は王位よりも名誉よりも、ジルとの時間が欲しいのです」
俺は笑ってそう言った。
父は、いやそうではなくてな…、と言いかけたが、結局は黙ってしまった。
「あの子を、姪のジルをどうする気ですか…」
ディアーヌ妃が震え声で聞いてきた。
「幸せにします」
俺は即答した。
意外にも、父よりディアーヌ妃の方が、説得に時間がかかった。
どうやら、王立学園での俺の振る舞いを理由に、ジルとの婚約を破棄させたかったようだ。
その上で、自分の息子であるアルフォンスの地盤を固めるために、姪のジルを王位継承権のない養女にしようとしていたのだ。王国内の有力な貴族、あるいは同盟国の王族や皇族に嫁がせるために。
俺は正直、ひどく焦っていた。何故なら、横恋慕してきたメディナ帝国の皇太子マフムートが、ジルを正妃に欲しいと父に申し入れてきていたからだ。
そのことをディアーヌ妃が知り、親切半分、役得半分で話を進めようとしていた。俺のただ一人の妻より、後宮に多くの妾を抱える皇太子の正妃の方が、より幸せになれると信じて疑わなかったのだ。
俺はディアーヌ妃にこう囁いた。
「俺は子供をもうけることができません。だから、王太弟には必ずアルフォンスが冊立されます。しかし、俺は長生きはするつもりです。いざアルフォンスが王位を継ぐときに、弟の周りに甘い汁を吸おうとする、おかしな虫がついていなければいいですね。その時、王妃殿下もかなりのご高齢になられていらっしゃるでしょうから。」
「もし、俺が何らかの理由で急死したとしても、アルフォンスは何事もなく、王位に就くことができるでしょう。しかし、口さがの無い、邪推しかできない人間というものは必ずいます。『血塗られた玉座に座った』などと言われ、弟の心や名に傷がつかないか心配です」
ディアーヌ妃は、誇り高い、姪思いの優しい女性だ。だが、それ以上に母親だった。
「幸せにする、その言葉に嘘はありませんね」
何度も念押ししたうえで、結局は、俺にジルを売ってくれた。
後は、トゥールーズ公爵家の害獣どもを嵌めるだけだった。どう料理してやろうかと思案していると、イカレ女が俺に訴えてきた。
「お姉様が、私の妊娠に気づいたみたいなの。この間、ひどく睨まれて、すっごく怖かったわ。そうしたら、いつも飲んでる朝食後のお茶から、ひどい味がして…。きっと、お姉様が何か入れたに違いないわ。私たちの赤ちゃんを流産させようとしているのよ。…ううん、もしかしたら、私とお母様まで始末しようとしているのかも。どうしよう。テオ様、怖いわ」
大嘘を吐きながら、震えるイカレ女に、俺は王太子の笑顔で告げた。
「報せてくれてありがとう。何も心配いらないよ」
奴らから墓穴を掘った。きちんと埋めてやろう。俺はそう決めた。




