決意
いつもと違う日に投稿します。良かったら、お付き合いください。
ディアーヌ妃が懐妊した。
ただ一人の王子が生殖不能になったことに対し、王が新たな世継ぎを作ろうと頑張った結果なのだろうか。それとも、不幸に見舞われた息子をどう支えてやるべきか悩む夫に、正妻が同情して、夫婦のきずなが強まったせいなのだろうか。きっと後者だと俺は思う。
そして月が満ちて、第二王子のアルフォンスが無事に生まれた。俺は、ごく素直に、弟の誕生を喜んだ。
これで王にならずに済む、と。
ジルを王妃にしたくなかった。子供ができないのを、俺の代わりにジルが責められるなんて、耐えられるわけがない。
俺の生母である、アデル側妃が伯爵家から宮中に上がったのは、単に多産系の血筋だっただけではなく、こうした事態に備えるためだ。
伯爵家出身の側妃腹の王子ならば、筆頭公爵家出身の正妃腹の王子より先に生まれていたとしても、王位継承の対抗馬にはなりえない。
俺は、十歳の時に立太子の礼を済ませてしまっていた。しかし、その二年後にかかった熱病を理由に、廃太子になればいい。
母の実家のブラン伯爵家も、野心は全くない様子だった。ディアーヌ妃のアンジュ―筆頭公爵家を敵に回してまで、俺を王にして、甘い汁を吸おうとする貴族も見当たらなかった。
俺は臣籍に下って、ジルのトゥールーズ公爵家に婿入りする計画を立てた。
ジルに女公爵になってもらい、俺は夫として家と領地を守る。
俺の体のことを、ディアーヌ妃が、実の姉のソフィア・トゥールーズ公爵夫人に話したかどうかは分からない。
自分の娘の未来の夫が種なしだと知ったら、大抵の母親は遠ざけようとするだろう。しかし、ソフィア公爵夫人の俺に対する態度は、それまでと変わらなかった。
公爵の夫を追いやって、自ら領地改革を進めてきたほどの胆力のある女性だ。腹に何を抱えているか、当時は全く読めなかった。
今から思えば、婚家での領地改革の大義名分として、「王太子の婚約者の生母」の地位が必要だったのだろう。改革が成し遂げられた後、どうする気だったのかは分からないが。
俺は、「良き王子」でいようと決めた。ジルの隣に立ってよいと認めてもらうために。
それまで自分の身を守るためにだけ演じてきた王太子の役を、もっと徹底的に務めることにした。
だが、そんな俺の幼い計画は、頓挫してしまった。ソフィア公爵夫人の不審な病死によって。
そして、ジルの実父のクソ以下の公爵が、後妻におさまった愛人とその娘を連れ、トゥールーズ公爵家の本邸に乗り込んできた。
父とディアーヌ妃は、トゥールーズ公爵家でジルが虐げられている事実を知ってすぐ、王宮に引き取り、保護しようとした。
しかし、クソ以下の公爵は、それを拒絶した。表向きの理由は、「ジル自身が実父とまた離れたくないと懇願しているから」というふざけたものだった。
実際のところは、王太子の婚約者として、未来の王族として、ジルが自分より高い地位になるのが嫌だっただけだ。
「この俺に屈辱を味わせ続けた女の娘が、未来の王妃になるなど、あっていいわけがない」
酒に酔ったクソ以下の公爵が、そう何度もほざいていたと、メイドとして潜り込ませた「王の目と耳」の一人が証言した。
俺は、奴らから名誉も命も、何もかも奪ってやることにした。
憎しみだろうと何だろうと、ジルに強い感情を抱かせようとする俺以外の人間など、許せない。
王命を拒否した時点で、いいや、王太子の婚約者を傷付けた時点で、奴らは反逆者だ。そんな連中に慈悲など必要ない。
十二歳の少年の、けなげな決意だった。




