虚しかった
俺は、ずっと、自分が何者なのか、分からなかった。
俺は、ガリア王国第十七代国王、フランソワ二世の長男として生を受けた。
母は、ブラン伯爵家出身の側妃、アデル・ブラン。優しい女だったが、俺が五歳の時に、病気で亡くなった。
生母が側妃として王宮に上がる七年前、父はもうすでに正妃を迎えていた。筆頭公爵家の次女であるディアーヌ妃だ。
国王夫妻の仲は、結婚当初から良好だったが、なかなか子宝に恵まれなかった。周囲からの期待と失望の視線に、ディアーヌ妃は悩まされ続けていたという。
貴族だけでなく、一般の国民からも世継ぎを心配する声が高まっていき、父はとうとう側妃を娶ることを決めた。
白羽の矢が立ったのは、多産系の血筋と名高く、代々の忠義者とされたブラン伯爵家の末娘だった。そしてわずか二年で、母は俺を産んだ。
ディアーヌ妃は、女として正直、面白くはなかったと思われる。それでも、俺も母も、ディアーヌ妃から嫌がらせを受けたことは一度もない。真に誇り高い女だったのだろう。
嫌がらせをしてきたのは、母に嫉妬した、伯爵家や子爵家出身の女官たちだ。
『側妃様は、多産系の血筋ゆえに幸運をつかまれただけの方。王子殿下も、身の程をわきまえた行動をなさって下さいね』
『お可哀想な王子さま。お母様の血筋のせいで、一生蔑まれ続けるんだわ』
『殿下、ご結婚なさる時はお気をつけて下さいませ。高貴な身分で、健康なご令嬢を正妃に迎えないと、国王陛下の二の舞になってしまいますわ』
こんなことを言い続けられてきたせいか、それとも、もともとの性質だったか、俺はかなり歪んだ子供になった。侍従のニコがいなかったら、俺は母の仇討として、王宮の女官たちに毒を盛っていただろう。
母を失って以来、ちょっとしたことで暴れだしたり、急に塞ぎ込むことが目に見えて増えた俺は、ニコに相当心配をかけていたらしい。
気晴らしにと、ニコの子爵領の牧場に連れ出していってもらったことがある。
そこで、たくさんの鶏が卵を産むのを見て、俺は、こう思った。
この子たちと俺は同じだと。
毎日毎日、ただ卵を生むために食事をもらい、つがうだけ。今ここにいるのは、どんな鶏だってかまわない。ただ、健康で、たくさんの卵を産み落とせば。
王子、王子、と多くの人間に傅かれていても、俺は所詮、ただ血をつなぐだけの存在。ここにいるのはどんな「種」だって良い。何者だって良い。
ひどく、虚しかった。
ヤンデレ王子の問わず語りです。まだ続きますので、どうかお付き合いください。




