泣いたとしても
「バラしてやる…」
蚊の鳴くような声で、イカレ女がつぶやいた。
「ん?何をだ?」
俺はにこにこ笑ったままで、訊ねた。
イカレ女が、きっ、と目を光らせて、怒鳴った。
「処刑場で、集まった人間に、みんなバラしてやる!あんたの悪行の全てを!ヒロインのこの私を陥れたってこと、全部!共犯のその悪役令嬢も、あんたも、地獄に落としてやる!処刑なんてされてたまるものですか!!」
勘違いをしているイカレ女に、俺は言ってやった。
「なあ、だれがいつ、公開処刑なんて人倫に悖ることをするなんて言った?お前らクズ親子は、明朝、王宮の裏庭の片隅で、始末されるんだ。外遊中の国王陛下夫妻や、他の王族の立ち合いも、当然なし。取るに足りないことは、ちゃっちゃと済ませるに限るからな」
「と、取るに足りないこと!?な、な、何様のつもりよ!!あんた!」
「発狂した、元王太子様のつもり」
イカレ女の問いに、俺は即答した。
「ついでに教えてやるけど、ジルは、この一件について何も知らないぞ。こんなこと知ったら絶対に止めに来るだろうよ。そんな怖ろしいことはお止めくださいって。…お前らのためじゃなく、他ならぬこの俺のために」
腕の中のジルを見つめて、俺は微笑みを深くした。
「う、嘘つくな!じゃあ、なんで、この女を私と一緒に無視したり、悪口言ったりしたのよ!?この女は全て分かっていた上で、あんたに合わせる演技をしてたんでしょ!?こっそり舌を出していたんでしょ!?」
五年も一つ屋根の下に暮らしておいて、異母姉のことを何も理解できていないらしいイカレ女は、またしてもジルに指を突き付けた。
「ふん。あの涙が演技だとしたら、ジルは歴史に名だたる大女優になれるな。いや、海千山千の化け物貴族どもをも手玉に取る、最高の王妃にか。どちらにせよ、この俺がいる限り、そんなことは起きないが。…看守、二度も未来の辺境伯爵夫人に指を突き付けた、この無礼なイカレ令嬢を、もう檻に連れて行っていいぞ。ずっと引き留めて悪かったな」
二人の女の看守は、なぜか途惑った様子で、顔を見合わせていた。どうやら、今までの話を聞いて、だれが正しいのか分からなくなっているようだ。
俺は、安心させるために、いつもの王太子らしい笑みを浮かべて言った。
「大丈夫。君たちは王室の命に忠実に従っているだけ。彼女らの刑死には、何の責任もない。ただ忠実に職務を果たしていれば、君たちも、君たちの家族も、笑っていられるんだよ」
ひっ、と女の看守の片方の喉が鳴った。分かってくれたらしい。青ざめた顔で、二人してイカレ女を両側から押さえつけた。
「今度こそ本当にさよならだ。次は、分相応に虫にでも生まれ変わるんだな。ヒロイン様」
「呪ってやる!!クソ王太子!!人でなし!!ヒロインの私じゃなく、悪役令嬢なんかを選ぶなんて、どうかしてるわよ!もうこの世界はお終いよ!あんたのバグのせいで!」
引きずられるようにして、イカレ女は連行されていく。何も分かっていない馬鹿な女に、俺は何の気なしに言った。
「お前との五十年より、ジルとの三十分を選ぶに決まってるだろ。たとえ、そのせいで、明日俺の世界が終わるとしてもな」
イカレ女が、大きく目を見開き、わっと泣き出した。
「畜生!!畜生!!こんなクソゲーのシナリオ、誰が考えたのよ!!私に謝りなさいよ!!ちゃんと攻略方法通りに行動したのにいい!!」
俺は先ほど頭に浮かんだ考えを訂正することにした。女は泣いているときが最も面白い、という考えは間違っていた。つまらない女は、泣いたとしても、やっぱりつまらない。
まだ続きます。テオドールがジルに恋着した理由と、その後を書きます。




