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クラゲと電柱が出会う場所  作者: 江本紅
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風鈴がないたころ

風鈴がないたころ、私は祖母のうちの縁側にいた。


スイカをほおばりながら、のんきに明日は雨かななんて考えていた。


そんなとき、あの曲を聞いた。なんて曲かはもう思い出せないけど、妙にサビだけが耳に残っている。そのほかのメロディがどんなだったか、わからないけど。スイカの種を間違って飲んでしまうほどの少しの感動と驚きが6歳の私に走った。


ボーカルの声の重厚さとギターとピアノの融合。なんだかわからないが、その調和性といったものが心の芯を刺激した。


22歳の夏、同じようにスイカをほおばるが、やっぱり何の曲か見当もつかない。高校時代には歌が下手すぎて軽音部に入るのをためらい、そのままずるずるここまできた。いつか誰かが文化祭か何かで演奏するかな、と淡い期待を持つも、誰もやってくれっず、約20年ほどたってしまった。


祖母はとうに他界したので、あの曲がCDなのか、ラジオだったのか、はたまたテレビから流れてきた音なのか、わからなくなってしまった。


まああの曲がわからなかろうが、わかろうが、人生にはなんら問題ない。重要なのは、時折何かの節目にこの曲が耳からリフレインしてしまうことだ。夏が多いと思う。きっと、風鈴がないたときに聞いてしまったのだから、身体が覚えているのだろう。とすると、何回も聞いたと考えられるが、そうではないのが不思議だ。


もはや聞くこともできなくなった曲の出どころがつかめず、もんもんとした日々を送っている昨今の大学4年の夏。


今日も暑い。


気温は30度を上回ったそうだ。


うだつような暑さの中、レポート資料を借りるために大学に行ったはいいが、限界だ。思わず、近くのカフェに入ってしまった。なるべくお金は使いたくないが、これはいたしかたない。アイスコーヒーでも飲もう。少し涼んだらまた大学に行こう。


アイスコーヒーを無事に受け取ると、窓側のよく外がみえる一人席に向かった。これなら時間を忘れて涼むこともない。あと、単純に人のことを観察するのが好きだから、いい暇つぶしになるだろう。アイスコーヒーの氷をかき回しながら、忙しなく過ぎていく人々をボーっと眺めた。


アイスコーヒーの氷があらかた溶けてきたとき、ふいに聞き覚えのあるあのメロディが耳から聞こえてきた。耳の内側じゃなくて外側から。


誰かの鼻歌だ。これを知っている人はどんな人だろうか、そう思ってアイスコーヒーの氷から顔を挙げたら、知っている顔の人だった。

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