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難攻不落の黒竜帝 ――Reload――  作者: 遊木昌
序章
97/231

《ギフト》と呼ばれる力の顕現


 八雲を手にしたトレファが今まで無いほどの焦りを見せる。

 それは、既に視界に捉える事が難しいほどの速度を手にしたローグの猛攻が原因であった。

 右側面から蹴りが来る。――と、身構えてもその時には攻撃が到達している時であり、次の攻撃にローグが移っている時でもある。

 反応が2手ほど遅れているトレファは、もはやローグの攻撃を避ける事も防ぐ事も出来ない。

 する事が許されない。一撃一撃が尋常じゃないほどに重い上に、その速さは神の如き――瞬速――


 「く……クソッ! ……クソがァァァァァァ――ッ!!!!」


 吠えるトレファの顔面にローグの膝蹴りが叩き込まれ、透かさず頭上から地面へと叩き付ける拳によって、地面に縫い付けられる。

 上空から地面へとトレファを叩きつけ、その破壊力で地面が隆起する。

高濃度な魔力によって、地脈が影響を受ける。

地面へと縫い付けられたトレファの体が刺激を受けた地脈によって、まるで噴火でもしかのように地面の中から吹き飛ばされる。

 空へと吹き飛ばされ、その無防備なトレファをローグが全力の魔力で蹴り飛ばす。

蹴りの威力、高濃度な魔力の2つが合わさった一撃に、トレファは失神仕掛ける。

飛ばされ、地面を数回跳ねて転がる。どうにか立ち上がって、口の中の異物を吐き出した。

土と血液の混ざった泥のような物質、数本の歯が折れる。しかし、八雲の魔力で直ぐに治療がされる。

 魔力の総量で言えば、圧倒的にトレファが優位な立場である。

そんな圧倒的なアドバンテージを有しているのにも関わらず、そのアドバンテージは生かせている気はしない。


 (それほどの差が……あるのか?)


 トレファが思考を巡らせるのに対して、ローグは昂る鼓動を抑える。

 呼吸を整え、地面を軽く蹴る。そして、一歩を――踏み込む。


 瞬間的に爆発させた魔力によって、トレファの認識の外から攻撃が迫る。

間合いの確保、トレファが行ったまばたきのタイミングを狙って攻撃を与える異次元な戦闘技術。

 一瞬以下の隙き狙って、ローグは攻撃を続ける。

避けようが、逃げようが、ローグの攻撃はトレファを捉え続ける。

 両腕を交差させ、迫り来る拳に対して防御する構えを取る。だが、ローグの一撃はその程度の防御は意味を成さない。

 防御した両腕の骨が一瞬で砕け、強力な打撃の後に肉体を貫く漆黒の魔力の追い打ち――

 細胞、骨、肉――。どれ程硬度を魔力で高めても、その倍を上回る力で、ローグはトレファに大ダメージを与える。

 骨が砕け、両腕が垂れ下がる。完全に防御を失ったトレファな顔へとローグの蹴りが刺さる。

 漆黒の稲妻がトレファの頭部から全身へと流れ、肉体内部から細胞レベルで大ダメージを与える。


 「クソ……がッ!」


 地面を蹴って、ローグから距離を取ってから腕が完治する時間を稼ぐ。

 時間稼ぎを狙うトレファを追い掛けるローグが、指先に魔力を集中させる。

 ローグの追撃から逃れようと、魔力で強化した脚力で力一杯地面を蹴る。

 空高く飛び上がり、大気を蹴ってその場から後退する。――が、ローグは狙っていた。

 飛び上がるその時を――上空へと逃げるトレファを。


 「自分から、狙って下さいって言う奴は……バカだ」


 漆黒の稲妻がレーザービームとなって、トレファの半身を焼く。

 八雲が手から落ち、魔力の供給が断たれると危惧したトレファが八雲を口に咥える。


 「もしかして、その刀無しじゃ俺と戦えないか? いや、あっても変わらんな」

 「黙れ……ゴキブリの分際で……」


 トレファの肉体が再生し終えたと同時に、トレファがローグの前から退く。

 戦ってもこちらの不利が続くと思ったのだろうか、ローグを視界に捉えたまま驚くべき速度で逃げる。


 「はぇー……速いな」


 しかし、ローグは驚きはしたものの追い付ける速度では無い。そう――判断した。

 漆黒の魔力が両足を黒く染める。高濃度な魔力が一点へと集中され、凝縮に凝縮を重ねる。

 すると、その魔力が集まる部分が色を変化させる。まるで、皮膚の一部や布の一部が黒色に染まってしまったかのように――


 「いいねぇ、いいよぉ~《トリスメギス》……お前の力を俺が使ってる感覚――」


 地面を蹴った際の衝撃が、途端に消える。

僅かな砂埃だけが上がるだけで、ローグはトレファへと瞬時に落ち着く。

 振り上げた真っ黒なその腕で、トレファの頬へと振り下ろす。

 大気に伝わる漆黒の稲妻が空を切り裂き、海水の蒸発が速まる。

 そして、宿主であるローグの力に呼応して、トリスメギスの力が高まる。

 異形を薙ぎ払いながら、次々と海水が灰一色に染まる。

 その様子を見守る騎士や聖騎士の面々は、ただただ皇帝の力に圧倒されるだけであった。

 既に、騎士の8割が退却を済ませている。メリアナの通信機に届く仲間から通信を聞いて、メリアナは次の指示を飛ばす。

 その理由は、彼女の焦りを見れば尋常ではない事が伺えた。


 「急げ、急げ……もう、限界だ。ローグくんの体が、魔物(ギフト)に耐え切れなくなる……」


 木々を縫うように駆け抜け、戦う場所を変え続ける2人に追い付こうとメリアナは必死に走る。

 そして、その時は来たしまった――


 「ゲホッ! ゴホッ――!?」


 咳に交じる血液、そして体が悲鳴を挙げ始める。体の内側から、今までの戦いで負った傷以上のダメージがローグに押し寄せる。

 魔力の行使による負担、戦闘によって負った傷が一斉にローグを襲う。

 海へと真っ逆さまに落ち始め、逃げていたトレファがその好機を逃しはしない。

 体の異変に気付くのが遅れ、今までの負担が押し寄せる。だが、ローグはそんな事を気にする余裕はない。

 海面で跳ねて、上手く海水の上に立った。しかし、真横へと迫ったトレファの打撃を食らう。

 ミシミシ――と、骨が軋む音に続いてトレファが纏った魔力が肉体へとダメージを与える。

 パワーに押され、海面を何度も跳ねる。

 そのまま追撃へと動いたトレファによって、ボールを蹴る子供のようにトレファがローグを幾度も蹴り続ける。

 ローグの苦悶に歪む表情を見て、トレファが残虐な笑い声を上げる。

 そして、八雲を振り下ろす。巨大な斬撃がローグの無防備な体へと迫る。


 「消えろ……ゴキブリがァァァッ!!!!」


 トレファが悦に浸っているのを邪魔するように、メリアナが斬撃とローグの間に割って入る。


 「……間一髪だね。それで、生きてる? ローグくん」

「……大分、ギリギリだ。このままだと、死ぬかもな」


 ローグの手を掴んだメリアナが、片手で振るった聖剣で斬撃を弾いて見せる。

そんな彼女を睨んで、体を怒りで震わせるトレファが八雲の魔力を更に引き出し、無数の斬撃を四方八方に放つ。

 その全ての斬撃が、まるで、メリアナを狙うように軌道を変化させる。

 それに気付いたメリアナが、ローグの魔力が急激に変化したのを感知したトゥーリへと投げる。


 「――2人は、逃げてッ!」


 逃げる2人の背に向けて、再び放った斬撃をメリアナは同出力の斬撃で相殺する。

 メリアナに幾度も邪魔され、計画が狂いに狂った事を根に持つトレファが八雲の魔力をさらに引き出す。

 周囲一帯に広がる魔力の波動が、大気を震わせる。海が荒れ始め、陽の光が雲に隠れる。


 「邪魔をするな。虫けら風情がッ!」


 八雲を振り下ろし、高出力の魔力がメリアナへと迫る。

 ――が、メリアナの前で魔力が霧散する。

 驚くトレファを見て、メリアナは小悪魔のように笑う。


 「魔力、返すね――」


 聖剣の剣先を向けて、霧散して消えた魔力と同出力の魔力砲が雲を吹き飛ばす。

 空に開かれた雲の隙間から陽光が差し込み、メリアナを照らす。

 その美しさ、彼女の気高い心を写し出しているかのようだ。

 聖剣を空へと掲げ、大気中の微細な魔力残滓が視認される。それほどまでに、大気中の魔力が一か所へと集う。

 吸い込まれるように、彼女の元へ――メリアナの元へと集まる。


 「残滓程度集めた所で、何一つ変わらん!!」

 「そう、思って時点でアナタの負け……」


 聖剣を横に振る。軽く振った程度で、魔力残滓が光の刃を形成しトレファの体を真横から突き刺す。

 聖剣を指揮棒のように扱いながら、彼女の瞳が青く色付く。そして、光の刃が生み出した嵐の中からトレファが飛び出す。

 それを追撃しようと追う刃をものともせず、メリアナに手を伸ばす。

 あと一歩という所で、メリアナが瞳の色を青から赤(・・・・)に変化させる。

 その意味に気付いたトレファの鳩尾に、めり込むメリアナの拳が骨を軋ませる。



 「だから、言ったでしょ? 負けって――」




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