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難攻不落の黒竜帝 ――Reload――  作者: 遊木昌
序章
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後悔は無い《Ⅱ》


 人形の群れがただの木偶の坊へと様変わりする。鬼のような形相で、2人は進む。

 もう一方が進むと、その後から更に奥へともう一方が足を踏み入れる。

 まるで、競い合うかのように、人形を蹴散らす。蹴散らす速度は、止まること無く上昇する。

 互いに互いを鼓舞するかのように、2人の攻撃の手は止まらない。

 砕けて胴体から落ちた人形の腕を拾った黒が、ヌンチャクのように腕を振り回し次々と道を塞ぐ人形を蹴散らす。

 

 「それ、貸してよ」

 「どうぞ、運動不足にはもってこいだろ?」


 隣のルシウスへと黒はボロボロになった腕を投げる。2人の間に割って入った人形を2人の連携で直ぐに消す。

 投げ渡されたヌンチャクをルシウスは人形の首へと巻いて、そのままヌンチャク諸とも人形を地面へと突き刺す。

 イソギンチャクのように地面から出ている下半身を手刀で切り落とし、黒へと投げ渡す。

 先ほどよりも長くなったヌンチャクならぬ三節棍を手にして、黒は瞳をギラ付かせる。


 「新品か? えらく気が利くな」

 「自信作だ。サンドバッグなら、視界に収まらないほどあるぞ?」


 三節棍を振り回し、前後左右の人形を蹴散らす。だが、黒の扱い方が雑なのか直ぐに人形の手足が砕けて壊れてしまう。


 「ダメだ。脆すぎる」

 「黒くんは、扱いが雑なんだよ。……昔からね」


 ルシウスの丸々と太った体型からは、予想も付かない華麗な身のこなしで次々と人形の体を吹き飛ばす。

 一足先に出口の大扉へと到達したルシウスが一息付いてから、黒へと向き直る。

 出口の前で、黒は出口に背を向ける。


 「全員、倒すのか?」

 「あぁ、ここには1体も残さない。構わず、出てくれ……外で会おうぜ」


 ルシウスが出口へと出て、テーブルで目を丸くした梓と目が合う。

 血だらけなのに、なぜか嬉しさが溢れるルシウスを見ている梓が中での様子を尋ねるよりも先に、大扉が全開する。


 「……柔らかいベッドで、寝てーな。全身が悲鳴を上げてる」

 「まぁ、でも久しぶりの運動は気持ちいいだろ?」

 「……だな」


 テーブルを倒して、梓が黒の元へと駆け寄る。全身の傷や黒の現在の状態を見て慌てる。

 だが、それよりも2年の時を経て、黒が出てきた事が何よりも喜ばしかった。


 「2年程度じゃ、年取らねーか」

 「馬鹿者……。お前が産まれるよりももっと昔から、私は老化しておらん。この、馬鹿者が」


 梓が涙を流して、黒の胸を軽く叩く。が――、梓の一撃は黒に致命傷を与えた。

 口から吹き出した大量の血液が何よりもその一撃の威力を物語っていた。

 いや、正確には――《橘の霊域》の効果の恩恵を受けなくなった黒が、梓の小突き1つで倒れただけである。


 《橘の霊域》の力は、内部での傷や致命傷が例外もなくダメージとして認識されない物である。

 が、霊域から一方でも出た時点でその恩恵は効果を失う。

 故に、全身満身創痍以上のダメージを負っていた黒にとって、赤ん坊のビンタ程度でも致命傷となり得る。


 「「くくくくくく、黒ぉぉ!!!??」」


 梓が大慌てで、結界術で黒の時間を止める。ルシウスが担架を持って来ようと人を呼びに大慌てで通路を行く。

 一人残った梓が自らの顔に手を当てて、涙目で黒の回りを歩く。

 従者の藤乃と文乃の2人と、その後ろから救護バックを手にした従者が走る。

 担架へと黒を手早く乗せ。結界の中で、藤乃と文乃が応急措置を施す。

 知らせを聞き付けた橘家の従者があちらこちらから顔を出して、冷静さを失って人一倍取り乱している梓を宥める者とそうでない者達が総出で黒の治療へと当たる。

 2日間と続いた黒の絶叫が、屋敷全体に木霊する。医務室の外では、祈る様に妹の2人が涙を流していた。


 「……倭への連絡はいかがいたしましょうか?」

 「しなくて良い。……万が一の時は、私がする」


 歯軋りする梓が自室に飾られた家族写真を手に取る。自分と自分の息子夫婦に抱かれた黒と双子の《橘白(たちばな しろ)》の笑顔が梓の涙を誘う。

 父親に抱かれている白は満面の笑みを浮かべ正面を見ているのに対し、母親の腕の中でおしゃぶりを口から落として泣いている黒――

 あの頃から、黒は泣き虫であった。何かある度に泣いて、双子の白も泣き出してと大騒ぎの毎日であった。

 そんな生活が、一変した。全ては、2年前のあの日から――

 どこで、選択を間違えたのだろうか。()を失って、梓以上に傷を負った黒の母親に万が一の連絡などしたくなかった。



 「……神様……どうか、あの子をお助けください」



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