倭の最高位戦力《Ⅰ》
倭の最高位戦力――
それは、《皇帝》にのみ与えられた総称ではない。
倭の最高位戦力とは、倭に席を置く。1名を除いた皇帝が有する圧倒的な強さから呼ばれ始めた――別称である。
皇帝と呼ばれる騎士が、その領域を逸脱した皇帝以上の騎士だと言う事を指す際に使われ。
その領域に達した者達とそうでない者達を分けて区別するのに、使用されたのが起源だと言われている。それほどまでに、最高位戦力とその他ではとてつもない差が存在している。
そう言った皇帝内での格差から、最高位戦力などの区別された言葉が生まれては消えてを繰り返す。
――現在、そんな倭の最高位戦力に数えられる人物は数名存在する。
1人目、円卓の聖騎士団団長――メリアナ・C・ペンドラゴン――
2人目、黒焔騎士団団長――橘黒――
3人目、■■騎士■■■■■――■■■・■■■■■■■――
以上の3名が、倭の最高位戦力として名を馳せている。故に、他国の皇帝達に最も警戒されている。
基本的に、国同士での争いや異形の襲撃で、皇帝などの騎士が動く。
だがしかし、その大規模作戦の範囲内に倭の最高位戦力が確認された場合のみ各国の王達は自国の最高位戦力を下がらせて、総戦力の露見を恐れる。
皇帝の実力は、それだけだで自国の軍事力へと直結する。
その為、現在でも小国を含めた各国で、皇帝の存在を秘匿した情報戦が水面下で続いている。
倭には、《戦闘区域》と呼ばれる区域が存在する。実際は、皇帝や騎士の魔法で壊滅的な破壊の跡が残る区域の事であった。
が、その周囲一帯を大規模作戦時などに、異形との戦闘で全力を出して構わないと言う区域に定めた。
それによって、倭の住民は《生活区域内》で限られた区域での生活を余儀なくされている。
だが、実際の所――生活が苦しいと言う話は一切無い。それもこれも倭全域の庇護を請け負う円卓の聖騎士団の活躍があってこそであった。
生活区域、外の農耕や牧畜などの生活に必要不可欠な食料生産の為の区域――《農業区域》
生活区域、地下の機械製造などの生活必需品の生産を請け負う――《工業区域》
これらの区域を1つの騎士団が守り続けれるのもひとえに、彼女の存在があった。
「――ここで、終わらせる」
跳躍から、体を捻って前方から襲い掛かる男の攻撃を躱わす。
失った肉体が自分の思い通りに動いていることを確認しながら、メリアナが聖剣を抜剣する。
横から振られる聖剣の刃を男は魔力を纏わせた素手で受け止める。
魔力の稲妻を弾いて、男の真横へと流れる。
この僅かな行動で、メリアナは目の前の人物が自分よりも高い技量を有している事を見抜く。
「……相当強いわよね? でも、戦闘技術だけでしょ?」
メリアナの発言に男の眉が僅かに動く。
その発言から読み取れるのは、メリアナは戦闘技術では劣るが――魔力では勝っている事を裏付ける発言であった。
そんな発言に平静を保てなかった男の動きが少し鋭くなる。確実に、メリアナを殺しに掛かる。
その動きは、メリアナにとって手に取るように分かる。皇帝として戦った経験がそのままメリアナの力となっている。
故に、負けず劣らずともメリアナも相当な剣の腕であるのは必然であった――
「少しだけ、鋭くなったよね? でも、それって――駄目な鋭さだよ」
イタズラっぽく笑って、メリアナが魔力を纏わせた聖剣で男を薙ぎ払う。
最早、その場に黒の居場所はない。メリアナ1人で、この男と戦えているのだから。
そう、メリアナが黒へと視線を向ける。しかし、黒はメリアナとは異なる考えを持っていた。
「――前を見ろ、バカが」
油断したメリアナの頬を掠めた男のバタフライナイフが床へと落ちる。
そのバタフライナイフを黒が拾い上げて、初めてメリアナのすぐ真横に男が迫っていたのを自覚した。
先程までの速さは、力を抑えていた――
もしも、黒が割って入るのが遅れていたら、メリアナの首筋にナイフが突き刺さっていただろう。
その事実を噛み締め、メリアナが歯軋りする。
「ごめん。もう、油断しないから……」
「おう、頼もしいな。こっちは、魔力がねーから……全力で、抱っこしてくれよ?」
「うん、良いよ。私が、全力で抱っこしてあげる。だから、私も――全力で、抱っこしてよね!?」
踏み込む2人の動きに反応出来ず、男の防御が崩される。
その上、速さを上げた男の動きを超える速度を2人は発揮しながら、男の攻撃を捌き続けつつダメージを与える。
格段に2人の動きが良くなっている。それも、徐々にその速度は増していく。
その事実に、男は初めて2人に対して――焦りを見せた。
「――黒くん!!」
「はい、よッ!!」
メリアナの振るった聖剣が大気を切り裂き、男の魔力防壁と障壁を粉砕する。
その僅かな隙きを狙って、黒の放った漆黒の魔力が男の脇腹へと突き刺さる。
防御が崩され、その上から体を突き抜ける漆黒の稲妻が大ダメージを容赦無く与える。
どんなに強固な鎧で体を覆い隠しても、肉体へと受けたダメージは消せない。
ましてや、黒が研ぎ澄まして放った魔力の一撃は、並の皇帝ですらまともに喰らえば大ダメージとなる。
そもそもの魔力の操作技術と魔力練度の時点で、黒と他人との差が存在する。
「一撃で、とは行かなくとも大ダメージであってくれよ?」
「大ダメージ……クリティカルとかの方が嬉しいかな?」
男が脇腹を押さえて倒れる。しかし、そのままうつ伏せのまま黒の左手肩を手刀で切り裂く。
咄嗟の事に黒とメリアナは反応が遅れる。
が、その姿を見て直ぐに認識を2人は改めた。
やはり、強い。どうしようもなく、圧倒的なレベルで――
2人が改めた認識の通り、男は服に付着した砂や泥を払ってから、笑みを浮かべたまま2人に新たに取り出したナイフの刃先を向ける。
「少しばかり、焦りましたが……さぁ、第二ラウンドと――参りましょう」




