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難攻不落の黒竜帝 ――Reload――  作者: 遊木昌
序章
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八雲


 意識を覚醒させた黒がベッドから起き上がる。

 誰も居ない空間へと手を伸ばして、力強く拳を握り締める。


 「待ってろ……全部終わらせて、君に会いに行く」


 薄着で、部屋を出て行く。

部屋の前で待っていた聖騎士の1人が黒の肩を掴んで、2年間の恨みと称して殴り掛かる。

男は、黒ならば避けるだろうと認識していた。しかし、黒は避ける事も防ぐ事もしない。

 だが、その拳が黒に到達する事はなかった。それは、黒の瞳に宿る強烈な憎しみと怒りに満ちた《憎悪》の瞳に、腰を抜かしたからだ。


 「ん? 大丈夫か?」


 黒が普段通りに戻って、腰を抜かした男に手を伸ばすが、男はその手を払って逃げていく。

 少し傷付いた黒だが、2年前の自分のした事を考えれば妥当だと認識していた。

 そのままの足で、ゆっくりと進む。目指すべき場所は、1箇所――

 この城の最下層にあるとされる――宝物庫。


 「そこに、八雲(ヤグモ)がある――」


 黒の真横から声がした。黒が反応するよりも先に、その人影は黒の首筋に軽く切り傷を与える。

 手に持ったバタフライナイフを器用に回しながら、黒の周りを一周する。


 「もう、出てきたのか? ナドレやロルトの周辺を嗅ぎ回ってた犬が、我慢できなかったか?」

 「君が、1度死んだ時に……彼女が君に干渉してきた。そこで、奪えれば問題はなかった。けど、君の親衛隊は……恐ろしく腹立たしいね。僕は、深手を負ったよ」

 「そりゃ良いな。お互いコンディションは最悪だ。これで、2年前の決着が付けれる」


 黒が睨む。これまでの怒りを込めた瞳で、闇に隠れるその者を――

 怖い怖い――と、笑って男は消える。

 後に残ったのは、怒りを抑え込む黒だけ――。深呼吸をして、心を落ち着かせる。

 そして、目的の宝物庫へと続く階段をゆっくりと進む。


 ――長い階段を下る。全てが石で出来た石階段をゆっくりと進んで、見えてきた巨大な扉に手を伸ばす。

 錆び付いて朽ちた筈の扉が、黒の魔力に反応してかつての色を取り戻す。

 湿気などで錆び付いた扉の表面が剥がれ、錆の下から現れたのは――金色の扉。

 幾つもの難解な封印や結界などの術式、魔法や物理攻撃を遮断する防壁と障壁が何重にも重ねられる。

 その一つ一つを黒は、丁寧に解いて行く。絡んだ糸を解す様に、絡まらないように1本1本丁寧に解いていく。


 「……コレで、最後だな」


 最後の封印を手印で解除し、扉を開ける。

 内部は殺風景――。宝物庫と聞いて財宝を想像した泥棒や盗賊はこの先を見て、肩を落とすだろう。

 厳重な封印や結界が施されているのに比べ、何一つ残っていない宝物庫の内部。

ただ、木製のテーブルに木箱が1つあるだけの不思議な空間。

 しかし、その木箱が黒の求める秘宝の1つにして、倭の秘密――八雲(ヤグモ)であった。


 「なるほど、流石は《八雲》だな」


 木箱の中身は、至ってシンプルなただの一振りの刀。それも、何の変哲もないただの刀。

 しかし、その刀身を鞘から抜いた黒には分かる。この八雲が《妖刀》と呼ばれる八雲であると――


 「やっぱり、見た目より――中身だな」


 手にした八雲の刀身に視線を落す。徐々に目覚め始め、刀身からドス黒い魔力が漏れ出ていく。

 黒の手へと魔力が伸びる。まるで、死人の細い腕のように、生者の持つ輝きを欲する死人が刀身から手を伸ばす。

 既に、死人と化しているのに関わらず、その者達は死人として自覚しない。

 その為、八雲を手にしている間柄――。生者である黒へとその(輝き)を寄越せと怨嗟の声を発する。


 これが、八雲の能力――


 3代目八雲が鍛えた。世に出てはならない妖刀――。

 八雲の歴史の中で、最も歪で刀匠自ら八雲を手放した唯一無二の刀剣。

 その能力は、刀剣と鞘に施した結界術式や封印術式の効果を持ってしても押さ込めない。――無尽蔵な魔力であった

 その無尽蔵な魔力は、持ち主に絶大な力を与えると同時に――魔力による《精神破壊》が付いて回る。極めて強大な力を有した刀。


 そして、妖刀から聞こえる怨嗟の正体は、この八雲に取り込まれたかつての持ち主の魔力――

 持ち主の精神破壊する怨嗟の声は、八雲に取り込まれた際の持ち主の断末魔であって、死人化しても八雲の力に魅入られた愚者の叫びとも言われている。

 ――が、実際は無尽蔵な魔力が実力問わずに持ち主へと際限無く魔力注ぐ際に聞こえる魔力の振動が、ただ怨嗟の声に聞こえるだけと言う呪いなど存在しないただの作り話であった。


 「……仕組みさえ知ってれば、この怨嗟の声も可愛く見えるかもな」


 八雲を鞘へと収め、宝物庫を後にする黒が振り返った際に、自分の前で拳銃を突き付けたナドレの姿が見えた。

 声を掛けるよりも先に、ナドレの弾丸が黒の眉間を狙う。

 後方へと仰け反って、手に持った八雲が落ちる。ナドレが透かさず八雲を奪って、宝物庫から逃げる。

 ナドレの苦しそうな顔を見て、黒は自分の仕組んだ事がどれだけ人を苦しめているのか目の当たりにする。

眉間からの流血を止め、宝物庫の外で隠れていたメリアナが黒へと歩み寄る。


「コレで、作戦は成功?」

「あぁ、ナドレなら……戦争を止める為に、多少なりとも強引な手に出る。そう仕向けさせたのは、俺だ」


黒は、ナドレ、ロルト、トゥーリ、ガゼルの4人に八雲に関する情報に嘘を仕組んだ。

その結果、ナドレは黒を信用できなくなり、自分の信じる正義と倭の為にと戦争の決め手となる八雲の強奪を決行させる様に黒は自分の言動で仕向けさせた。


「後は、ナドレが八雲を奪われれば(・・・・・)――俺達の戦争が始まる」



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