罪と罰
ベッドからメリアナがゆっくりと起き上がる。
長い艶のあるブロンドヘアに綺麗な緑色の瞳は、以前までのような淀んだ色合いは消えていた。
「……何して、るの?」
驚くメリアナが自分の頬に触れながら、事の重大さを実感し始める。
梓が支えようと手を伸ばすよりも先に、黒が血を吐き出して前のめりに倒れる。
健康体となったメリアナとは真逆に、真っ青な顔に真っ白な肌はとても元気にしていた男とは思えない。
メリアナが腕に刺さっていた点滴を抜き取って、両サイドの配下と医者に黒の介補を指示する。
「――黒、しっかりしろ!」
「黒くん! 意識を手放すなッ!!」
別室で待機していた医師達が黒へと施術を始める。
額の汗を拭ったメリアナと梓が壁に凭れかかる。
一瞬の迷いもなく。黒は、自分の全魔力を引き換えにメリアナの失われた肉体を再生する。
魔力を失った。黒――
肉体を失った。メリアナ――
二人共、2年前の戦いで生き残り、その後の人生を激変させる代償を背負った。
メリアナの中では、コレは罰なのだと諦めていた。倭を救えず、大勢の同胞を死なせた罰なのだと――
しかし、黒は違った。
失った魔力の源《魔物》を補う為に、肉体に常人の域を遥に逸脱した薬による――魔力の超過摂取を用いて、自らを化け物の領域へと踏み留まらせた。
そして、回復可能なメリアナの肉体を自分の魔力全てを注ぎ込んで、メリアナを再生させた。
「俺から……メリアナに対する。謝罪だ」
ベッドの上で、メリアナ以上の姿で黒は笑った。
妹や従者の前で、黒は淡々と計画を説明する。まるで、手順書に書き記された説明文を読むかのように、淡々と言葉を並べる。
「……すいません。私と黒くんの2人にしてもらえますか?」
メリアナの願いを聞き届け、梓が子供達を連れて部屋を去る。
涙を堪えながらも、耐え切れずに頬から滴り落ちる。
説明は、簡潔にまとめられている。きっと、意味を理解出来たのは――梓とメリアナだけだ。
だから、メリアナにしか止められない。黒が行うとしている計画――戦争の意味を。
「……それは、黒くんだけが背負うべき罪じゃないよ。私も背負うよ」
「いや、メリアナにはその先を任したい。絶対に成功させるが、この世に絶対って言葉が無いのは2年前で理解している。だから、俺にもしもの事があったら……メリアナが、倭を救ってくれよ」
黒を説得出来ないと分かったメリアナは、黒の回復を待たずして、自らの聖剣を手渡す。
「死んだら、殺すからな。絶対……」
「分かってる。だから、メリアナも死ぬなよ?」
メリアナの聖剣を黒は手に取る。そして、メリアナが持ってきたアンプル7つを摂取し、爆発的に膨れ上がった魔力が途端に消える。
そのまま消えた魔力と共に意識を手放した黒をメリアナが抱き締める。
ただ、この先に待っている。黒が味わうべき地獄を予感すると、震えて泣いてしまいそうになる。
だから、胸の奥にしまい込んでいた筈の感情が込み上げる。
「……助けて、未来ちゃん」




