当然の結果《Ⅲ》
朝早くに家族が宿にしているホテルへと戻って来た黒が、妹の碧や従者の藤乃に朝から叱られる。
勝手に動いて、勝手に戦う。それも、現在の倭を守護する守護者とも呼ぶべき人物と争ったのだから。
一歩間違えば、倭との市民が全員敵にすらなりうる。その状況でも黒は平然としている。
右の頬を碧が、左の頬を藤乃の2人につねられながら黒は着替えを済ませる。
「どうだった? 円卓の聖騎士は――」
「強いな。それも、2年前よりも断然な」
「当たり前だ。皆、必死に明日を守る為に、戦っているんだ……」
梓が扇子で口元を隠して、鋭い眼光で正面の黒を見詰める。
胴着と漢服が混ざったような袴姿が橘家の正装であり、腰の豪華な炎や花の刺繍が施された帯は、その者の竜人としての地位を表されている。
帯が長く豪華であればあるほど、その者の地位は高いモノとして扱う。
真っ黒な生地に紫陽花と蝶々の刺繍が施された漢服姿の梓は、金色の炎に赤と青の色鮮やかな花の刺繍が施された帯を固く結ぶ。
その横で、真っ白な漢服に黒色の炎が刺繍されている。そんな服を子供のように嫌がる黒に、梓は額を指で突っつく。
「文句を言うな……今日が最後になるかもしれない。なら、先祖の加護に、縋ってもいいだろ?」
「まだ、死ぬとは限らねーだろ?」
「昨晩の一戦で、よくそんな事が言えるな……私は、これ以上孫が死ぬのは見たくない」
「……まぁ、戦うとなれば。この装衣は、最高に動きやすい。それに、不思議と気が引き締まる」
黒色の帯に金色と青色の蝶々の刺繍が施された帯を梓はイタズラに固く結ぶ。
碧や茜達が見守る中で、黒と梓は揃ってホテルを出てメリアナの待つ聖騎士団の本部へと目指す。
タクシーか何かで、本部へと向かおうとしていた梓の前で、黒が梓を呼び止める。
振り返った梓の前に、高級感漂う1台の車が止まる。
「ご丁寧に迎えまで、用意してくれるとはな」
「黒、気付いていたのか? 監視されている事に――」
黒の遥か後方で佇む人影に、梓は目線だけ向ける。
その視線に気付いてか、人影達は木の裏や建物の影に隠れる。
息を潜めながら、彼らは黒を見ている。当の本人は、そんな事を気にする素振りすら見せない。
ただ、普段通りの自分を貫く。それが、良い結果にならなくとも――
車が到着した場所は、色鮮やかな花で溢れている。
一帯を囲む花々と中央に建てられた大きな噴水の広場を眺める。
メイド服姿の使用人と思われる者達が数名、黒と梓の到着に気付く。
車で迎えが来たので、てっきり出迎えもあるものと思っていた。
――が、出迎えは1人として訪れない。それ所か、広場の更に奥に建てられた巨大な真っ白な城の内部から巨大な魔力が蠢いているのを黒と梓は肌で感じ取る。
巨大な魔力が城の外へと漏れる。触手のような魔力が1本1本自我を持った様に動きを見せる。
黒と梓の目前まで、触手が伸びる。実際は触手が動いている訳では無い。
だから、端から見れば噴水の前で2人にして固まっている状態である。
少しマヌケに見えるかもしれないが、騎士や魔力に精通している者達であれば、その巨大過ぎる魔力の威圧感に耐えれはしない。
その場から逃げるように走って逃げ出すだろう。
「元気そうだな。メリアナ――」
ただ1人を除いて――その者は、彼女の魔力を前に笑みを浮かべている。




