当然の結果《Ⅱ》
ルークの魔力を纏った刺突は、剣先から高濃度な魔力を放出する。
紫色の稲妻が黒の真横を抜け、巨大な岩に穴を簡単に穿つほどの破壊力。
人の体であれば、爆散する事間違いなしだろう。
が、そう何度も簡単に放てる代物ではないのは明白――
「……一撃に、相当な魔力を使ってんだな。疲れたか?」
「それが、どうした? お前を殺す為なら……魔力など、捨ててやる!」
踏み込んだルークに合わせて、黒が退く。――が、想像以上にルークの速度が黒を上回る。
どれほど退こうとも、一瞬の速度には叶わない。ルークの速さは黒以上であるのは間違いない。
しかし、速度が速かろうとも――黒は、避け続ける。
まるで、手の届かない黒の動きに苛立つルーク。だが、徐々に黒の瞬発力にキレが無くなる。
足がもつれ、横へと傾いた黒の顔面にルークの蹴りが直撃する。
紫の稲妻が顔から全身へと流れ、黒の肉体を稲妻が貫く。黒が顔を押さえて、鼻から流れる血の量を確認する。
「戦いで、逃げるは《弱者》か《敗者》の2つに1つだ。さて、お前はどっちだろうな?」
「たかが、1発当てた程度でイキがんなよ。……景品のおもちゃでも当てた小さなガキか?」
「……口は、回るみたいだな。黒竜――帝ッ!!」
挑発に乗ったルークの一閃を紙一重で躱わし、カウンターでルークの整った顔へと拳を叩き込む。
紫色の稲妻がルークの全身を貫く。雷鳴にも似た轟音が周囲へと響く。
周辺には人の気配は当然のようにない。その事を再確認するように周辺を魔力で探る。
気配が無いのを確かめてから再び真正面から迫るルークへと拳を突きだす。
しかし、ルークもまた相当な手練れの1人に数えられる騎士、2度も黒の間合いに無策で踏み込むバカではない。
「学習しろ、猿が――」
真後ろへと回ったルークの一閃が、黒の首筋を捉える。
「学習しろ、猿が――だったか?」
一閃を指先で止める。剣の剣先を人差し指と親指で摘まむ事で、一閃の魔力が集まり切る前に攻撃を潰す。
一瞬、青ざめたルークが視界に捉えたのは笑みを浮かべた黒の指先であった。
ルークの目前で、指を鳴らす。周囲の微細な魔力が黒の響かせた音に反応して、巨大な衝撃を発生させた。
後方へと飛び退くルークが口から滴り落ちる血液を拭う。口内に広がる血の味に、さきほどよりも表情を険しく変える。
「屈辱か? 魔物を失った俺に、ボコられるのは?」
「あぁ、屈辱だ。だが、この私が本気を出せば――一瞬で、ケリが付く!」
踏み込むルークの一閃は、先程よりも洗練されている。本能的に命の危機に体が反応した。その場に背中から倒れる事で、胴体を狙った一閃を躱わす。
ルークは、そんな黒を見逃さない。
「――血の気が引いた。そんな、顔をしているぞ? ルークさん」
「……教えてくれて、どう――もッ!!」
ルークの2撃目を避ける為、その場から身を翻す。しかし、ルークの横殴りに放たれた魔力の塊に黒は地面に縫い付けられる。
全身に力を込めて、拘束してきた魔力を破る。――が、間に合わない。
横に一閃、ルークの放った斬撃が黒の胴体を2つに断つ――
「――ルーク、そこまでだ。お嬢様がお呼びだ」
上空から、女性の透き通るような声が響く。
ルークの放った斬撃が別の斬撃で弾かれる。丁度、黒の真正面に突き刺さった細剣がルークの斬撃を2つに分けた。
黒と対峙していたルークが舌打ちし、素直に剣を鞘へと戻す。黒がそう気が付いた時には、ルークの影は無かった。
「黒竜帝……メリアナお嬢様がお呼びだ。くれぐれも、今回のように好き勝手に出歩くな。己の立ち場を理解しろ――」
地面に突き刺さっていた細剣が何かに吸い寄せられるように、上空へと飛んでいく。
ボロボロになった体と心を安定させるように、黒は昇る朝日を見詰める――




