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難攻不落の黒竜帝 ――Reload――  作者: 遊木昌
序章
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心が哭く《Ⅱ》


車椅子に乗って、2人は湖の近くへと向かう。黒の両親と梓、妹達が遠くで見守る。

カーディガンが風に揺れ、未来の栗色の髪が吹き抜ける風に揺れる。


「キレイだね。黒ちゃん……」


未来の言葉に黒は反応しない。未来の誘いに反応して、すぐに梓達が総出で2人をデートへと送った。

が、あの一言以降、黒は反応がなかった。不安そうな梓達だったが、未来だけは違った。

未来の言葉に、黒が初めて反応した。


「隊の子から聞いたんだ。この湖で、みんなで写真を撮った話や……。黒がボートの上でふざけて落ちた事や、みんなでバーベキューした事」


不意に、未来は涙を流し始めた。本当は、初デートでこの場所に来たかったからだ。

黒にとっての大切であった彼らと来た。この場所に、黒だけの大切になった自分の2人だけで来たかった。


――こんな最悪な形ではなく。もっとロマンチックに来たかった。


膝を抱えて、今まで以上に未来は泣いた。嗚咽を我慢しきれずに、黒の横で泣いてしまった。自分の手で拭っても未来の頬から涙が流れる。

すると、横の黒が未来の頭に優しく手を置いた。


「……アイツら……も、泣いていた。……俺と違って、戦いへの……恐怖と不安から…泣いてた」


黒の頬から一筋の涙が溢れ落ちる。未来の前で、黒が湖へと手を伸ばす。

車椅子から身を乗り出すように、手を伸ばす。そのまま無理に立ち上がろうとした黒が車椅子から前のめりに倒れる。

未来がすぐに黒へと肩を貸す。


「……なぁ、教えてくれ。何で、俺だけだったんだ?」


黒が日の光を反射する湖に向けて、手を伸ばし続ける。溢れる涙が滝のように流れている。

未来の肩からスルリと抜けるように、地面へと倒れた黒が未来の手を振り払う。

自分だけが生き残り、仲間がなぜ死ななければならなかったのか――

その理由を知る由もない未来に、声を荒げて尋ねる。何度も何度も地面叩いて、未来が黒の体を強く抱き締める。


「何で、俺だったんだよ!!! なぁ、神様よ。何で、俺だけだったんだ!?」

「黒ちゃん落ち着いて!! 黒ちゃん、お願いだから落ち着いてよ!!!」


――なぜ、なぜ何だ。と、黒は吠えるように、いもしない神様へと声を挙げる。

黒の体を抱き締める未来には、黒が自分を許せないのだと理解できた。

黒にとって、初めての仲間と呼べる存在。帝国では味わえない、竜人族以外の種族とのコミニュケーション。

帝国の中でもトップクラスの力を持っていた黒にとって、力も魔力も雲泥の差があるのに《対等》な友人達は心の底から嬉しいものであった。


「俺は、アイツらと……約束したんだよ。絶対に、守るって……守るって約束したのに!!!」

「うん。苦しいね……ツラいよね」


未来が自分の胸に黒の頭を当てて、更に強く抱き締める。黒も未来の腰に腕を回す。

以前とは比べ物にならないほどに、痩せ細った細い腕を未来は肌で感じる。


「……約束したのに、俺は守れなかった。何が、竜人だ。何が、橘の最強だよ……。大切な者を守れないなら、こんな(魔物)いらない」

「でも、黒ちゃんは……。みんなの『想い』は、守れたよ」


未来の『想い』と言う言葉に黒は顔を上げる。目と鼻の先に未来の優しい顔があった。

聖母のように、黒をその優しさに溢れた眼差しで包み込む。未来も心のどこかで思っている。

荒んでボロボロに傷付いた黒の心に漬け込む様な事でしか、自分は黒に振り向いて貰えない。卑しい悪い女なのだと――

きっと、あの事件が無ければ黒の心は自分に向くことはない。黒にとって、自分が一番にはなり得ない。


――それでも、黒を抱き締めた。


「……最後に、みんなが黒ちゃんに託した想いを思い出して」


脳裏に甦る。予想外な異形の出現によって、破壊された養成所に巻き込まれ。

傷付き、倒れた仲間達の顔や悲痛に歪んだ声が黒の心を締め付ける。

が、黒の肌から感じた未来の優しさと暖かさによって、トラウマが僅かに和らぐ。

そして、3人から託された『言葉』を思い出した。


「……やるべき事があった。ありがとう……。未来が居たから、向き合えた」

「ううん。私も、自分の思いに正直になれた」


未来が黒の頬に触れ、涙を優しく拭って黒の唇に自分の唇をそっと当てる。

唇を通して、未来の魔力が感情と共に黒へと流れる。黒も初めから気付いていた。

自分の側に居れば、きっと仲間達のように必ず傷付いてしまう。

だが、彼女は決して離れないと頑なであった。ならば、守れば良い。


――決して、彼女が傷付く事のない。力と地位で、彼女を守れば良いだけだ。


圧倒的な力と経験から、彼女を襲うどんな悪意や脅威から自分が盾となる。


「……アイツらの夢を叶える。側で見ていてくれるか?」

「うん。どんなに、遠くても絶対に黒の側を離れないよ。だって、私は彼方の事が大好きだから」


痩せ細った体を魔力で、無理矢理叩き起こす。大慌ての未来を手で静止させる。

未来も真剣な眼差しで、黒を信じた。

冷たい湖へと足を入れ、研ぎ澄ました魔力を心臓から腕へと流し、指先に集中させる。


「お前ら、見てるか? コレは、俺自身の決意の証だ。もう、2度と忘れない為の証だ――」


遠くで見守っていた両親や妹達が駆け寄る。未来と同じく止めに入ろうとしたのを梓が静止させる。

ただ、信じようとだけ言って、梓と未来は黒の背中を見詰める。

黒が息を吐いて、瞳を青く染める。目尻から空気中の魔力に反応して、僅かに青い稲妻が大気を走る。

指先に込めた魔力を一気に暴発させ、黒の全身から魔力が漲る。

黒を中心に、湖の水が勢い良く押し退けられる。そして、黒は声にして名を呼ぶ。

自身の中に宿った相棒へと、長い眠りから呼び覚ますかのように――



「……天地、(かしず)け。――《バハムート( )》」




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