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難攻不落の黒竜帝 ――Reload――  作者: 遊木昌
序章
66/231

魔力の濃度と性質


 クラトを貫いた攻撃の余波が、地盤をスポンジケーキの様に抉る。

 全身を漆黒の魔力が激痛を与える。久しく感じていなかった強烈な痛みに、クラトは自分の中で沸き立つ興奮を抑え切れないでいた。


 「そうだ……その力だ。でも、キミじゃ――ない」


 2撃目へと間髪入れずに踏み込む。だが、クラトもローグの行動は読めている。

 一撃で倒れはしない。ならば、2撃、3撃と続けなければ意味はない――と、ローグは判断している。

 今の攻撃が偶然の産物では、クラトの前には立てない。その事だけが、ローグの思考を支配する。


 踏み込む爪先に電流が走る。その先は、未知の領域――

 それでも、この男は血反吐を吐いてでもその道を進むと決めた。


 「奇跡の1発で、終わらせないで下さいよ? ローグくん――!!」


 踏み込んでから、2撃目を与えようとするローグの攻撃を蹴りで正面から弾く。

 全力を込めた1発を不発に終わらされ、焦るローグを前にクラトが深呼吸するように告げる。

 何を考えているかは差だかではない。が、ローグの焦っていた気持ちを落ち着かせたのは他ならないクラトである。

 そして、クラトの策に自ら乗っかるローグが深呼吸をして、全身に力を巡らせる。


 クラトとローグの2人が全身から溢れる程の魔力を滾らせる――


 ローグが踏み込むと同時に、クラトもまたその場から踏み込む。間合いを詰めてから、漆黒の一撃を浴びせる。

 その事だけを意識して、ローグは再びクラトへと拳を放った。だがしかし、クラトもまたローグの恐れる領域側の人物であった。

 紛れを引いたローグとは異なり、自らの意思でその漆黒を生み出した。

 ローグの漆黒の魔力を上回る出力の魔力で、正面からローグを吹き飛ばす。


 「たった1発、紛れ程度を引き当てた程度……ローグくん。君は、確かに才能がある。でも、その本質を知らない――」


ローグが吹き飛ばされた先で起き上がり、再び魔力を拳へと集中させる。

 クラトの言葉通り、偶然の域では不完全。ローグの意思では到達しなければ意味はない。

 魔力を一点に集中する。呼気を整え、震える拳に全てを乗せる。


 「だから、本質(・・)を理解しろ――」


 クラトの気配すら感じさせない一撃が、ローグの脇腹に突き刺さる。

 肉、骨、細胞の一つ一つに漆黒の稲妻が走る。その凄まじい痛みに思わず呻き声を挙げて、地面に倒れる。

 胃の内容物が吐き出され、視界が涙で濡れる。


 「もう一度、言うよ? 本質を理解しろ――」


 クラトが魔力を一旦解除する。それは、かんぜんに戦う意思の無い事を表していた。

 なんのマネだ――と、尋ねたローグに微笑みながら応える。


 「これが、私の目的ですよ。私は、ある一定水準の領域まで、この世界の皇帝達を引き上げる。その為に、様々な国で暗躍し……時には人を殺めた。だが、その積み重ねが今のローグくんを強くする」

 「何を言っている?」

 「……分かりませんか? この世界は、黒竜帝の様な《異次元な強さ》と《観客の心を掴む魅力》を秘めた皇帝が少ない。倭の《最高位戦力(皇帝)》を除く。全ての王が脆弱だ。だから、他国の侵略を恐れ、国交を断絶して、国お抱えの騎士と共に引き篭もる。それは、私の――俺の(・・)望む世界じゃねーんだよッ!!」


 ローグが、声音と口調を変化させたクラトの異様な雰囲気に、脳裏に焼き付いている倭の皇帝がチラつく。

 頭を振って、余計な雑念を振り払う。その隙きを突かれて、防御上からクラトの攻撃がローグを襲う。


 「何もかもが、足りねーんだッ!! なぜ、ここまで王達は脆弱なのか! なぜ、倭を除く全ての皇帝達は脆弱なのか!! 答えは、シンプルだッ!!」


 無に等しいほどの魔力であった。が、気付けばその魔力は、よく燃える素材に炎が燃え移ったのように一気に勢いが強まる。

 漆黒の稲妻がローグの腕を貫く。片腕を捨て、再び魔力を集中させる。

 だが、今度は漆黒ではない。紫色の段階を1つ落とした魔力が、クラトの頬を叩く。


 「確かに、魔力の濃度は申し分ない。が、お前が吸収すべき所はソコではない!! 言った筈だ……本質を見抜けとッ!!」


 クラトの拳へとがローグへと直撃する。以前として、クラトの放った攻撃の全てが黒色の魔力を纏っている。

 既に数発ともろに食らっており、そう何発も耐え切れはしない。

 震える足腰に、自分の限界を予感する。そして、自分の実力全てを出し切ってもこの男には指一歩届かない。


 「見抜け、本質をッ!!」


 耳元でギャンギャンと、クラトの声が響く。本質だの濃度だの、見抜けだの――不愉快極まりない。


 「……うるせーよ。本質だったか? それが、何だよ――俺は、俺のやり方で極めるんだよ」

 「――ん?」


 クラトが一歩、踏み込んだ足を止める。そして、その直後にローグの飛び蹴りがクラトの防御を破壊する。

 ローグのつま先から、黒色の魔力が現れる。それを見て、ようやく本質を捉えたのだと理解した。

 歓喜するクラトだが、ローグは本質など見抜いたつもりはなかった。

 ただ、魔力の全てをぶつけたまでであった。この後の事など忘れて、全てをぶつけた。


 「本質? 知るかよ。俺の全てを一撃一撃に込める。外せば死ぬ。防御? しねーよ、全力で攻撃にだけ意識を向ける(・・・・・・)ッ!!」

 「そうだ。それだ、全力(・・)だ。魔力は、1点に研ぎ澄ます事で真価を発揮する。産まれた時点で、量こそは決まる。だが、量など関係はない。ただ、自由に扱える量が決まっているだけだ」


 クラトがローグの猛攻を捌きながら、やや興奮気味に話を続ける。


 「黒竜帝が良い例だ。あの男は、量で全てを捻じ伏せる。デメリットや制限をその膨大な()で黙らせた。だが、濃度は黙らせても――本質は不可能だッ!!」


 クラトがローグの一撃を無防備なまま受け止める。腹部を貫く漆黒の稲妻に全身を焼かれる。

 だが、ローグは気付いた。この男の目的が――それは、自分と同じであった。


 「「楽しもうぜ。この領域(ステージ)をッ!!」」


 クラトは、自分の実力を知っていた。だからこそ、黒竜帝のあの悲しい強さに気付いた。

 黒竜帝は、その膨大な魔力量で最強と呼ばれた。だが、その本質は違った。


 (まさか、魔力量でただ……デメリットを誤魔化しているだけ? では、未だに成長の余地がある!?)


 だが、現実は残酷であった。幾ら自分が魔力を注ぎ込んで、濃度を変化させた所で、その魔力は所詮《濃い》だけであった。

 あの域に達するには、何かが足りない。姿を隠し、気配を消して、倭の帝2人を四六時中観察した。

 そして、手に入れた。あの皇帝が到達した領域の前提条件を――


 「魔力の濃さ、それは色の濃さだ。だが、青を幾ら濃い青にしても、所詮は青だ。紫も叱り……ただ、魔力の《性質》を研ぎ澄ませば、どうだ? どんなに量を食べても、旨味の少ないモノは食えた物ではない!! が、その魔力の性質を変化させれば――魔力は、至高の美味へと昇華する!!」

 「何を言っているのか、分からねーが……。つまり、調味料を厳選するよりも――食材を厳選しろって事だろ?」


 ――もう、互いに互いの言葉の意味が分からない。


 だが、自然とクラトの魔力の謎が分かった。それをローグは意識した状態から無意識の状態で繰り返した。



 「さぁ、最後まで――エンジンを回せッ!! ローグ・スターッ!!!!」

 「うるせぇよ……怒鳴らなくても、聞こえてんだよッ!!!!」

 

 

 

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