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難攻不落の黒竜帝 ――Reload――  作者: 遊木昌
序章
62/231

不気味な男


 空から飛来した皇帝2人を前に、ローグは物怖じしない。否、する訳が無い。

 何せ、彼らはただの紛い物に過ぎない。本物の皇帝とは決定的に異なる。

 力の本質もその身に宿る力の使い方、極限まで高め、極める事を止めた。中途半端な軟弱者達――


 それが、ローグの認識――


 「ローグ先輩、裏切っちゃ行けないッスよ。自分達の手を煩わせるのもッスけど」

 「まぁ、俺らの出番だからな。ボコボコにぶっ殺して、グランヴァーレの女とガキ共で遊んで帰ろうぜ」


 ゲスのような笑みを浮かべ、チャラチャラとした皇帝2人がローグへと歩み寄る。

 傍から見れば、その魔力に威圧され一歩も動けないローグに余裕の2人が歩み寄っている様にも見える。

 だが、事実は異なっている。ローグの肩に馴れ馴れしく触れた1人の顔色が変わる。


 「間合い――だぞ?」


 その言葉の後に、2人の皇帝にだけ感じ取れる凄まじい魔力の揺らぎにその場から勢い良く後退する。

 2人して滝のような汗を流し、息を荒く心拍数が跳ね上がる。


 「――何を遊んでいる」


 何が起きたのか、ウォーロックには理解出来ない。だが、遠くから見ているイオには――見えた。

 ローグの肩に触れた皇帝2人へと、一瞬で増幅させた魔力を威嚇として見せる。

 そして、その場から退くと同時に魔力を元の状態へと抑え込む。

神業の如き魔力制御にして、見た目からは想像出来ないローグの繊細な無駄のない動き――

 それを見ただけで分かる。皇帝だからと言って、鍛錬を休む事も手を抜く事もしない。

 努力を惜しまず続け、鍛錬に鍛錬の果てにその頂きに達した。


 「おい、教えてやるよ。本物の皇帝が、どんだけ強いかをな……」

 「「ナメんなよ。……お払い箱の皇帝が――ッ!!」」


 2人の皇帝が地面を蹴って肉薄する。間合いなど構いやしない。

 単純な魔力攻撃を両サイドから叩き込む。皇帝に選ばれ、それ相応の実力として認められた自負が彼らにはあった。

 そして、その自負は今しがた――崩れ去る。


 「優しいな……俺は、赤子じゃねーぞ?」


 2人の攻撃を片手でそれぞれ受け止める。そのまま2人を地面へと押し倒し、一気に集めた魔力を男達へと振り下ろす。

 ローグの魔力で障壁を瞬時に造り出し、衝撃を一点に抑え込む。

 顔へと叩き込まれた魔力の壮絶さは衝撃波の規模でおおよその予想は付くものである。

 しかし、ローグがワザワザ衝撃波を抑え込む為に、障壁を展開した。

 その意味をイオの隣で固唾を飲んで見ていた《トットノーク》が語る。


 『障壁で、内側に力を抑え込んだ。障壁が無かったら、私達に被害が及んでいた……』

 「トットノークも、そう思ったの?」

 『えぇ、私達魔物(ギフト)は純粋な魔力よ。だから、分かるの……余計にね』


 円形状に天へと伸びる障壁が、その障壁で持ってしても抑え込めず。障壁を突き破って力が空へと吐き出さられる。

 雷鳴のような轟音の後に、漆黒の稲妻が雲や大気を切り裂く。

 誰もが空を見上げる。その魔力の濃さに、その魔力の凄まじさに――


 叫ぶウォーロック。ローグの目の前で、2人の皇帝は顔を真っ赤に染める。

 鼻は折れ曲がり、口からは大量の血液が噴き出る。とは言え、やはり皇帝。

 先程の攻撃が如何に強力であっても、一撃程度では死なない。

 死なないが、動く事は叶わない。

それは、彼らを切り札としていたウォーロックの敗北が濃厚になった証拠であった。

 

 「……み、認めぬ。私は、認めぬぞ! 私は、こんな結果何ぞ。断じて、認めぬッ!!」


 杖を地面に叩き付け、怒りを爆発させる。

 ローグからしてみれば、こうなる結果は見えていた。皇帝と呼ばれる者達が多数存在するのがイシュルワという国。

 しかし、蓋を開ければ中に入っていた皇帝達は、その殆どが中身が空っぽなハリボテである。

 満足に戦う事を止めて、多人数による集団戦に固執した戦い方しか知らない者達。

 自分の実力に見合った地位を獲得する事無く。ただ、上からの指示で皇帝に成り代わった――紛い物。


 「そりゃ、そうさ……。お前が集めた皇帝と呼ばれる奴らは、所詮、名前だけの分際だ。知ってるか? この言葉を――」


 ――皇帝なら、勝って『当然』

 ――皇帝なら、一掃して『普通』

 ――皇帝なら、不可能は『あり得ない』


 ローグが生き生きとした表情で、膝を屈するウォーロックの肩に触れる。

 不気味な笑みを浮かべ、耳元で囁く。自分が創り上げた組織の力を持ってしても、この男には勝てない。


 何故ならば、そもそも皇帝は勝って――当然なのだから――


 ローグが今回のグランヴァーレ侵略行為の首謀者として、ウォーロックの身柄をイオ達グランヴァーレへと引き渡そうとする。

 が、そこである違和感に気付く。なぜ、機械兵器の足止めをしている仲間がこちらに来ないのかと、トゥーリもガゼルも自分に勝るとも劣らない実力者。

そして、あの場には黒竜帝が居る。

ローグがその違和感に気付くよりも先に、ウォーロックの胸ポケットから着信音が響く。

項垂れて、現実逃避をしているウォーロックの代わりに、ローグがその電話を取る。

それを合図に、遠方からローグの体をピンポイントで、グランヴァーレの外壁へと吹き飛ばす力が着弾する。

 瓦礫を押し退けて、這い出たローグの前に黒服の男がウォーロックを回収しに来た。


 「お前は――」

 「やぁ、ローグくん。久しぶりだね」


 その者の名前をローグは知っている。

 真っ黒なコートにフードを深く被った男の姿は、イシュルワで何度か面識があった。

 その何度かの面識で、必ずと言って良いレベルでウォーロックの隣でこちらを見て、フードに隠れた下の顔は笑顔であった。


 「一人で人前に出なかったお前が……。何でここに居るんだ? 観光にしては、洒落た服じゃねーな」

 「私の目的は、この国の結界を無効化するだけです。その後の事は、私の管轄外ですから」

 「ふざけるなよ? どれだけの人が死んだと思ってやがる。管轄外だ? 知るかよ……テメェもウォーロックも同罪だ。ここで、叩き潰す」


 ローグが間合いを詰めようと一歩を踏み出すよりも先に、男が動く。

 人差し指をローグへと向ける。ただ、それだけでなのに――動けない。

 ここで、ハッキリとさせられる。自分と男との明確な力の差を――


「やめた方がいい……。それは、自分が今、一番わかっている言葉だと思うのだが?」


 ――一体、何者だ。


ローグのその問い掛けに、男はフードを取ってイオとローグの前で、その顔を晒す。


 「そう言えば、ローグくんの前で名乗ってませんでしたね。あれだけ、合っているというのに……私は、《クラト・アーズヴィア》と申します。今は……イシュルワの客人という扱いですかね? まぁ、私にとって、所属など細かい事は、どうでも良いので――」

 「……そこのじいさんを唆して、グランヴァーレを攻めさせたのはお前だな?」

 「はい、そうです。ですが、侵略行為そのモノが目的ではありません。侵略行為に対して、その対処をした皆さんの迅速な対応(・・)を見る事が、私の目的です」



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