新たなステージ
ローグの隣で、トゥーリは頬を引っ張っていた。
不機嫌なローグ以上に不機嫌なトゥーリが、ローグの頬を無言で引っ張る。
「……トゥーリ、痛い」
「うるさい。この、考え無し……」
トゥーリが頬を膨らませて、ローグの頬を引っ張っている。
ローグはトゥーリの抗議的な目を見ずに、横を向いている。先程から、ずっと横を見ているのでトゥーリが頬を引っ張ってこちらを向かせようとしている。
「二人共、仲良いね。羨ましいな」
「ガゼルが止めに入らなかったら、本気でウォーロック様を殺してたでしょ?」
トゥーリの問い掛けに、黙秘を貫く。そんなローグの姿にトゥーリとガゼルは溜息を溢す。
現在のイシュルワは、国内部の争いがいつ起きても不思議はない。
現トップの言いなりとなったイシュルワに反抗するのも、ローグを筆頭にした武闘派――
トゥーリとガゼルの2人はローグよりの派閥だが、国の中で争う事には反対であった。
「にしても、トゥーリの話じゃ……民間人は狙わないって話だったよね? 違う?」
「あのじじいの事だ。黒竜との密約を破ったんだよ。まぁ、それなら、こっちが手を出す口実になるがな」
「ガゼルの言う通りよ。密約は存在する。でも、ローグの言う通りかもしれない……ウォーロック様が密約を破った」
トゥーリが端末を叩いて、黒竜と密約を交わした皇帝階級の騎士を呼ぶ。
そして、その者の発言を確認した上でローグは動く。既に、ウォーロックは黒竜帝と言う《皇帝》を殺害する事しか考えていない。
その為、自分の元に集まった皇帝や騎士達――全戦力を以て潰しに掛かる。
「ローグ、気持ち悪いほどに良い笑顔だね。何か思い付いたの?」
「あぁ、考えてみれば……密約を破ったのは、じじいの方だ。んで、俺らはまだ守っている。なら、黒竜に恩を押し付ける事が出来る。そうすりゃ……復活した黒竜と真っ先に戦争の約束を取り付ける!」
「ローグ……。もしかして『お前の危機を助けてやったから、俺を一番に戦わせろ』とか言う気?」
「あぁ、そうだよ。俺の事を良く分かってるな。トゥーリは――」
ローグが部屋の扉を押し開ける。木製の長テーブルの上に、パンや果物、肉や酒と言った食材を散乱させた。
何とも汚いテーブルにトゥーリの視線が向いて、頭を抱えながら「後で、掃除しなきゃ」と独り言を呟く。
隣でガゼルが、トゥーリのそんな姿に憐れみを感じつつもローグの隣に付きそう。
これ以上、トゥーリにストレスを与えない為にも、ローグとその下に集った戦士達が暴走しないようにブレーキ係に勤しむ。
隣の部屋へと移動したトゥーリを他所に、ローグが自分の下に集まった戦士達に戦いの準備をするように命ずる。
目標は、黒竜帝を狙う。ウォーロックの親兵達である。
例え、同郷の同士であっても、ウォーロックとローグでは思想が異なる。
ウォーロックが利益や保身の為に動くとしても、ローグは誇りや娯楽の為に動く。
ローグは、ただ単純に黒竜帝と戦いたい。全力で、邪魔の入らない所で真正面から堂々と――
「……あのじじいには、分からねーんだよ。アイツとの本気の戦いだけが、俺を――俺達を次のステージに連れて行く。半端な戦いじゃ……意味がねーんだよ」




