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難攻不落の黒竜帝 ――Reload――  作者: 遊木昌
序章
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世界を統べる《Ⅱ》


 現在、黒は7号車と後方の車両に留まっている。

 前方の3車両は乗客の避難場所。最低でも、5号車以上先で戦っては行けない。

 余波で、避難した乗客に被害が出てしまう。


 「――来たか」


 遥か後方から、凄まじい空気の破裂音が木霊する。力を込めて、踏ん張る黒だが――

 開けられた壁から吹き抜ける風が黒の頬を撫でる。そして、音を置き去りにした高速の突進が7号車の屋根を黒諸とももぎ取っていく。

 鉛のように重い空気に押し潰され、大量の血を口から吐き出した黒がそのまま地面に叩き付けられる。

 凄まじい破壊力を秘めた突進は砂塵を発生させ、地面を簡単に抉るほどの強力な一撃で黒を地面と屋根の瓦礫に挟み込む。


 「――ッ! くそ……ッ!!」


 どうにか抜けだそうと踠く黒だが、再び風が黒の後頭部を撫でる。

 黒の横を吹き抜けていった風に連れられ、後方から地面を抉りながらこちらへと迫る見えない何かが黒の背中へと迫る。

 身動きが取れない黒を容赦ない一撃が全身にダメージを与える。

 骨、肉、細胞の一つ一つに強烈な一撃が刻まれる。

 地面の下の固い筈の岩盤ですら、意図も容易く掘り起こす。掘り起こされた地面諸とも黒が空へと打ち上げられる。

 あまりの威力に意識を失った黒に迫る更なる追撃を避けることも防ぐ事も出来ない――


 がら空きの胴体にめり込む強力な蹴り――。一点に集中された魔力が、黒へと接触するよりも先に爪先から放たれる。

 爪先に込められた魔力、先ほどから蓄積した加速による突撃の2つが合わさった一撃。

 並みの防御力が無ければここで終わっていただろう。

 衝撃で目を覚ました黒が、いつの間にか8号車の屋根へと頭から叩き付けられる。

 屋根を貫通して、下の座席をクッションにしてギリギリの状態で起き上がる。

 正直な所、この座席が無ければ今頃は地中深くに頭から突き刺さっていたかもしれない。


 「破壊力……満点だよ…」

 「嬉しいですね。素直に、褒められるのは――」


 8号車へと降り立った男が黒とは別の座席に腰を下ろす。体から漲る魔力の凄まじさに、目の前の相手が皇帝であった事を思い出す。


 「なぁ、イシュルワの皇帝様よ。名前を聞かせてくれよ……名前も知らない奴に殺されちまったら、あの世で誰に殺されたか自慢出来ねーだろ?」

 「聞かないものだと、勝手に思っていました。まぁ、名前を聞いておくのはいい心掛けですよ?」


 男が脚を組む。黒を見下す様に、自分の名前と冠する称号を誇らしく告げる。


 「機械国家(イシュルワ)が皇帝【城狐社鼠(スレイ・クルフゥイデ)金剛角(ノガン)】の称号保持者――」


 「《アディス・モルディーク》です――」


 金剛角(ノガン)――


 風の噂程度には、情勢関係に疎い黒ですら耳にした事があった。

 凄まじい固さを持っており、その防御力を生かした突進は鋼を紙切れの様に貫くと噂されていた。

 それこそが、【金剛】と呼ばれている由縁であった。

 だが、そんな称号に影響を与えた防御力(硬さ)よりも厄介なのがアディスと言う男の小癪な戦い方である。

 相手に補足されないギリギリの距離から、魔力による推進力を組み合わせたミサイルのような突撃攻撃――

 生半可な防御は太刀打ち出来ずに、逃げる事が不可能な範囲外から成す術なく。その突撃の餌食となる。

 それが、先ほどからの攻撃の正体であった。風を切り裂き、どんな障害であっても進路上の全てを破壊する。


 脅威的な破壊力を持った――闘牛。


 「へー……金剛角か。これで、合点がいった。あの凄まじい攻撃性能、が称号の由来か?」

 「まぁ、そうだね。私ぐらいの強者になれば……戦い方1つで名が付く。見に覚えがあるだろ?」


 アディスの不適な笑みを他所に、血と唾液を床へと吐き出してから口元の血を拭う。

 1歩、アディスへと踏み込む黒だが、アディスの速さには敵わない。

 2歩目へと踏み込むよりも先に、アディスの魔力によって倍以上に加速した速度から放たれる拳が座席諸とも黒を容易く薙ぎ払う。

 直ぐ様瓦礫に潰され、身動きの取れなくなった黒へとアディスの猛攻が降り注ぐ。

 床を転がって、降り注ぐ猛攻から逃れる。肩や腕に木片が突き刺さっていたのを乱暴に引き抜く。

 血の付いた木片を投げ捨て、前方から助走しながら突っ込むアディスに蹴りのカウンターを食らわせる。


 「ふぅー。……来る方向とタイミングさえ分かれば、カウンターなんざ簡単なんだよ」

 「……良いのが、入りましたよ」


 床を踏み抜くほどの脚力で、一瞬にして黒へと肉薄する。身構え、防御する姿勢を見せた黒だが――アディスの攻撃の前では、やはり甘かった。

 アディスのその拳には、纏わせた魔力が先ほどよりもさらに濃縮される。

 そして、魔力の《濃度》が一定値を超えた事によって魔力がハッキリと視認できるレベルへと昇華する。

 その時、淡い色の魔力が一瞬で黒色の稲妻へと変化する。色の変化の後に続いた一撃が黒の防御を容易く貫く。


 腕をクロスさせて、何とか耐えようとする。だが、アディスの魔力の前に黒の柔な防御は紙切れ同然である。

 防御を無理矢理剥がされ、無防備な胴体に2、3発直撃する。


 「――ッ!!」


 声すら出ないほどの威力に加え。アディスの加速された攻撃性が加わる事で、衝撃が肉や骨を越えて内臓全体に響く。

 膝を折って、床に手を付いてしまう。あまりの激痛に全身に力が入らない。

 既にアディスの突進を正面から数発受けておりながら、最初の爆発によって奥の手レベルであった《再生魔法》も1度使っている。

 2度以降の連続した再生魔法は、非常にリスクが高い。ただでさえ、回復したとしても勝てる確証は皆無――


 「おや? 立てないのかな?」

 「……ッ……腹でも、下したかも知れねーな」

 「流石なのか……単なるバカなのか。この状況でも、よくそんなふざけたセリフが吐けますね」


 首を無理矢理掴んで、アディスが黒をその場に立たせる。その状態から強烈な膝蹴りが黒に激痛を与える。

 内臓、骨、肉が強化と魔力を纏わせた攻撃で激痛で呻き声を更に挙げる。

 意識を失いそうな猛攻の中で、黒の微かな意識が昔の思い出を走馬灯として見せる。



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