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難攻不落の黒竜帝 ――Reload――  作者: 遊木昌
序章
36/231

闇に乗じて


 セラが眠る宿を囲むように、黒ずくめの衣服に身を包みながら闇夜に乗じる集団。

 宿を囲む建物の屋根から僅かな灯りの灯ったセラの部屋へと襲撃の合図が送られる。


 「へぇー、今時闇夜に乗じて襲撃とは……暗殺者ですか?」


 合図を送った1人の腕を力のままへし折る。鈍い音が聞こえ、呻き声と共に周囲の暗殺者達が突如として現れた黒に驚きを隠せないでいる。

 それもそのはず、既に宿の内部へと侵入した仲間からの合図を確認したばかりであった。

 気付かれたのならば、何かしらの合図の1つや2つはある筈だ。だが、それがない上で黒は彼らの前に立っている。

 宿の内部では、顎や顔を強打され気絶させられた者が絨毯の上で倒れている。

 当然、潜入組に問題が生じても合図など出せはしない。合図を送るよりも先に黒が元を叩いた。

 そして、闇に紛れた彼らの前に、闇に乗じて逆に襲撃しに来たのであった。


 「……このまま何もなかった。その条件を飲めば、見逃す。あぁ、違うな。これじゃ交渉じゃないな――」


 暗殺者の面々が身構える。だが、黒が両手を広げれば、彼らの持っていた短刀や拳銃が黒の足下に落ちていた。

 取られたと認識するよりも速く。一瞬にして、目の前の暗殺者から武装の全てを奪う。

 まさに神業のような早業に、布で顔を隠しているとは言え驚いている事は目に見えて分かる。

 黒の足下に山のように重なった武装を奪おうと、単独で特攻を仕掛けた1人の後に数人が続く。

 そんな彼らを後ろから見ていた1人の男が制止するように声を挙げる。だが、遅かった――


 「気持ちは、分かるぞ。でも、後ろで様子を見ている先輩達を見て学べよ」


 黒の振り上げた足が仕掛けてきた数人をまとめて叩く。建物の屋根を転がって、下の路地へと落下する。

 落ちた先にはゴミでもあったのだろう。ゴミ袋のようなクッションの上に落ちる音が聞こえる。

 それでも残る暗殺者達は、素手であっても構えは崩さない。一瞬でさえも気を緩めない。

 それだけ、黒を警戒している。元より暗殺程度で倒せる相手とは思ってはいないだろう。

 だが、絶えず襲撃を警戒させる事で精神的な負荷を与え続ける。

 それこそが彼らの目的であるだろうと、黒は予測する。ならば、こちらから出向けば済む話――

 精神的な負荷を与え続けるのが彼らの目的であれば、黒が逆に彼らに精神的な負荷を与える。

 手に負えない強敵に対して、勝てないと分かっている上で戦わざるを得ない。

 そんな彼らに黒は自分から間合いを狭める。


 「分かっているとは思うが……念の為に。もう一度、言っておく――」


 最奥から一瞬で黒の背後を取った一番の実力者と思われる男の死角からの一撃をヒラリと避ける。

 一同が驚愕する中で、作業の手順書にでも記載されているかのように慣れた手付きで、まるで作業をするかのように相手をする。

 決してダメージは無く、子供と戯れるように丁寧に優しく。相手の肘、首、脇、腰、膝、頬、二の腕、指先と順に乗って軽く触れる。

 たったそれだけで、この場で一番の実力者を地面に這いつくばらせる。

 腕立て伏せでもさせるかのように男の背中に手を置く。動けば、死ぬ。その事実を突き付けられている。

 男の背中に伝わる黒の掌の感触から、全身に悪寒が広がる。


 「さて、この条件を飲まないなら……こうしよう」

 「……何を、させる気だ」


 男の背から黒の手が離れる。その一瞬の隙に、その場から退こうとする男の両足を黒の手刀が薙ぎ払われる。

 鮮血が飛び散り、鋭利な刃物で一瞬にして膝下から切り落とされた足が屋根へと落ちる。

 激痛に呻き苦しむ。そして、冷酷な黒の瞳が影の中で僅かに青く光る。

 たった一撃で、男とその部下達に告げる――警告。


 「逃げたきゃ、逃げろ。でも、それならこっちは本気で追跡するぞ。カーチェスとかと同じだ。逃げれば逃げるほど、その車体は壊れる。脇目も振らずに、命懸けで逃げろよ? 全員、漏れ無くボッコボコにしてやるからよ……」


 黒の口角が上がる。真夜中でも黒の不気味な笑みが脳裏に焼き付く。

 暗い筈なのに、黒の姿や表情がくっきりと見える。


 恐怖――が、全身の細胞1つ1つに語り掛ける。逃げれば、死ぬ。臆せず仕掛けても、死ぬ。

 逃げても、戦っても結末は決して変わらない。心のどこかで、期待していた。

 この場にいる全員が、魔力を失った黒に勝てると僅かに期待していた。

 時間を掛けて、じっくりと戦えば魔力が底をついてからが勝負だと。

 弱々しく膝を屈する黒に、その心臓に武器を振り下ろすだけだと思っていた。

 実際に、黒を目の当たりにして――痛感する。


 「……あぁ、魔力とか関係ないんだ。そもそも……それ以外も、最強最悪何だ」


 膝から崩れ落ちて、1人の暗殺者が自ら喉をかっ切る。自らその命を終わらせて、これから利用される恐怖に負ける。


 「「「――うわぁぁぁぁッッ!!」」」


 次々と自ら死を選んだ部下をただ見ているしか出来なかった。そして、自分だけ残して全員が死んだ。

 が、黒はそれすらも許さない。残る手持ちのアンプル全てを使って、急激に魔力を補充する。

 そして、神の如き所業で、自死した暗殺者を生き返らせる。

 傷1つ治療された自分の姿に目を丸くする彼らを見て、黒は笑みを浮かべた。


 「俺は、出来れば人は殺したくない。俺らは、騎士だ。人々を守り、異形から守るのが使命だ。だから、お前達の今後の妨害もすべて返り討ちする。だから、これは契約だ」


 黒の凄まじい眼光が、その場を支配する。


 「――倭へと向かう道中は、俺だけを狙え。他を狙えば……問答無用で殺す」

 「分かった。我が王に、そう告げる」

 「この条件を飲むのであれば、お前らの皇帝と好きなだけ戦ってやるよ。全部、片付けばだがな」


 黒がアンプルの残骸を真横へ投げる。姿を隠していた皇帝と思われる人物の足下に落ちて、液体が靴に付着する。


 「――契約だぞ。お前達が、倭へ進む道中は私の部下を襲い掛からせ続ける。だが、我が国家は……皇帝だけは出さない。そして、他の者達の命は保証する。お前だけを殺す為に――な」


 姿の見えない皇帝を睨む。気付けば、刺客として迫っていた全ての暗殺者の影もない。

 これで、少なくともこれからの道中で民間人とセラとこれから合流する者達が死ぬ事はない。

 すべての敵を黒へと向ける。そうすれば、余計な心配が減る。そして、魔力頼りだった黒自身の鍛練にも繋がる。


 「さて、寝るか……」


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