星の水女学院《Ⅱ》
巨大な講堂――
そこに集められた全校生徒、揃って女性である。
当然と言えば当然だが、よくよく考えれば教員で男が自分だけと言うのもおかしな学校だ。
法律的なルールで、教員の男女率的なのは無かったのだろうか。そう、不思議に思える。
「……考えても、意味はないか」
「最近、黒ちゃん考え事多いよね? ……大丈夫?」
「大丈夫じゃねーよ。日神の下で、教師だぞ? 問題、起きそうだな……」
日神の紹介の後に、舞台裏から渋々未来に連れられて壇上へと上がる。
講堂には大勢の生徒が集まっている。1階席はもちろんの事、2階席や3階席にも人が集まっている。
それだけ大規模な学校なのだと壇上に立って、思い知らされる。
生徒の眼差し、込められた期待――。ゆっくりと静かに伝わる好奇心と興味本意で向けられた魔力。
未来は何一つ抵抗する事なく。生徒の魔力に当たり、感知を受ける。
――が、黒は未来の隣で講堂の中の魔力を1つ残らず片手で握り潰した。
片手を上げて、日神の急な教職の理由などの説明の途中でも関係なく。
黒の手が、講堂の魔力を黒の魔力で上書きした。
「……黒? 僕の説明の途中だったんだが?」
「悪いな、日神――。説明するよりも実際に見せた方が良いだろ?」
「――勝手にして」
「……了解」
日神からマイクを受け取って、挨拶代わりの魔力をお披露目してから黒の話が始まる。
自分達が聖王との協力関係の構築の為、北欧領域に来た事や――その協力確保の為に、北欧最大の養成所で生徒の基礎能力の向上を目的としたカリキュラムの実施。
長ったるい話で生徒に説明して、まるで倭と北欧の同盟関係を他国に見せ付ける為に行われているようにも聞こえる。
「――流石は、黒だよ」
「アドリブで、嘘ばっかり……生徒さんが、かわいそう」
「じゃ、未来は本当に教師になってくれるの?」
「うん、私のできる範囲だけどね――」
黒のアドリブによる適当な説明が終わって、黒と未来は袖から裏へと消える。
その隣で、未来が黒の脇腹を小突く。
仕方ないとは言え、誰にも相談しなずに打ち合わせに無かった事をした。
そんな黒へとお仕置きを込めたこちょこちょで、未来は鬱憤を晴らす。
その姿を日神に見られ、未来は顔を赤らめて黒から少し離れる。
「おや、お熱いね……お邪魔だったかな?」
「いたんなら、声をかけろよ。日神――」
「……えへへ、恥ずかしい所、見られちゃったね」
表向きは、教員――。だが、実際は聖王がカバー出来ない場所への支援であった。
これから起こり得るであろう。
北欧内の内戦の際に、被害が限りなく0になるようにするのが黒と未来の役目である。
当然、シャウ、聖王から聞かされている学長の日神も完全にバックアップへと回る。
だが、相手は日神や未来と同じ――皇帝である。
この中で、一際強い。聖王、シャウ、黒の3人でもすべての被害を抑えれる訳では無い。
「……だから、生徒を少しでも鍛えておけばいいんだろ? 自分の身は、自分で守れ――だろ?」
「可能な限りでは、守りたいけどね……護る――この一点に置いて、2人に勝てる皇帝はいない。……僕の勝手な意見だけどね」
「ううん、守るよ……私と黒ちゃんで」
「まぁ、未来に言われたらやるしかねーしな。何より……少し、気になる気配がある」
黒が足を止めて、背後から漂う異質な魔力を感知する。
講堂内の魔力は先程握り潰して、存在するのは黒の魔力程度だけである。
にも関わらず、黒とは別の魔力が講堂内から感じ取れた。
そんな異質な魔力を2人は、感じ取れていない。
それに気付いて、黒もその先を口にする事は控えた。余計な心配後を増やして情報を増やすのは得策ではない。
「「――気配?」」
「……いや、ただの気の所為だ。悪い」
3人がそのまま生徒の集まる教室へと向かう。
未来、黒が担当するのは全校生徒の魔力基礎や体術基礎――
そして、黒は上級生への薬学、魔法学、魔法戦闘技術などの魔法に関する座学や実践――
未来はと言うと、同じく上級生の体術の応用や体に関する使い方であった。
比較的、未来は大人数の生徒を相手にする座学や実践が多く。黒のような1クラスを相手にするというのは少ない。
「黒、自分よりも少し若い学生に手を出すなよ? 未来が怒るし、僕も怒るよ?」
「……手、出さないでよね?」
「あぁ、分かってる……ホントに、分かってます」
日神、未来と分かれて必要な書類や教本の類を手に持って用意されたデスクから離れる。
職員室には、やはり女性しかおらず。隣のデスクの未来も早々に訓練棟へと向かってしまう。
「これから、1ヶ月か……1年……大変だな」
『面倒事が片付けば、晴れて開放される。これからだろ? 頑張れよ。宿主』
「他人事だ思ってるよな? まぁ、いい……行くか」
重い足取りで、教室の扉を開ける。
大学などで、見るような少し斜めに教卓を見下ろす感じの部屋に黒の肩が下がる。
――女の視線が多い。
当然、女子校なのだ。多いに決まっている。
だが、講堂の時のような隣に見知った顔がないと言うのはどうにも不安になる。
そんな黒の姿を見て爆笑するバハムートにイラ立ちながらも、教卓に荷物を置いて軽い自己紹介を終える。
「まぁ、今日は初の顔合わせだ……特に何かを進める事はしない。それに、次回は君たちがどれだけ魔力について知ってるか聞きたいからな」
生徒達の沈黙が痛く。未来や日神のように他人に教える事が上手いわけでもない黒には――この沈黙が辛すぎる。
薬学、魔法学は教えられる。とは言え、相手に伝わった教え方ができるとは思えない。
「教え方の正解とか、教えて欲しいぞ……」
幾度と愚痴が溢れる。
魔法を極めた――知識を得た。この解釈は、正しい。何一つ間違えてはいない。
とは言え、教えれる自信など有りはしない。
その事にグチグチ不満を溢しながらも、教卓の前でこの教室での生徒の名前を見る。
そして、生徒へと視線を向ける。
どこか遠慮気味な生徒達と警戒するような視線と魔力を感じる。
当然と言えば当然だろう。昨日の今日でド派手な戦いを間近で見ていた。
その上、その一人で侵入者として走り回った人物が、教師として教鞭を振るうのだ。
状況に納得が行かない方が、正しい――
すると、恐る恐る手を上げて質問をする人物が現れた。




