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難攻不落の黒竜帝 ――Reload――  作者: 遊木昌
1章 機械国家の永久炉――【仕掛けられる『皇帝』への罠】
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天地、揺るがす王の力《Ⅲ》



さぁ、上げて行こうか――


テンションの高いDJやライブなので、ノッて来た時に心の声が出てしまう。

そんな時に出てきそうな言葉だが、この場では違う。


さぁ、上げて(・・・)行こうか――


魔物の力、莫大で強大な力に呑み込まれて狂った宿主が制御出来ない力によって限界まで力を引き出してしまう状態――

いわゆる、暴走状態に近い物である。


ただ、普通の暴走とは違うのは――周辺の呼応した魔力によって、他人の魔物に影響を与えた。


黄、黒の無意識で生み出された高濃度魔力領域によって、遠く離れたハート達にその影響が及ぶ。

危険、頭で理解していてもその力に抗えない。


ハート、未来、ルシウス、心の4人が意識を取り戻して暴走状態寸前で一歩踏み留まった瞬間――






天地が揺らいだ――






爆発的に高まった魔力が、太鼓の音色などではなく。

本物の地震、津波、台風、ありとあらゆる災害を引き起こした。

周囲の魔力が呼応して、魔力が互いに共鳴して周囲の人物に体感的に地震を錯覚させる。

――のではなく。文字通り、地震を起こした。


一帯の魔力がそうさせているのか、2人の魔力に呼応して災害が巻き起こる。


魔力によって変色してしまった真っ黒な竜巻が草原の地盤を容易くもぎ取って、抉られた地表から同じく変色した湧き水が勢い良く噴き出した。

噴き出した水柱を落ちる漆黒の雷が水分を瞬く間に蒸発させ、真っ白な蒸気に変える。

災害と言ってもその次元は、自然災害の粋を超えている。



暗雲の空に禍々しい魔力を纏って、両手を広げる男が一人――



全て、その手で『破壊』『滅亡』『絶滅』させる為に舞い降りた 。

圧倒的な力を有する暴君が、横に広げた手と手を勢い良く叩き合わせた。

パンッ――と軽快な音が響き、拝む様に合わせた掌から真っ黒な球体が生まれる。


あれは、ヤバイ――


その光景を目にした多くの騎士や人々が口を揃えた。

誰が見てもその攻撃は、体感したことの無い。

恐怖と共に押し寄せて、すべてを平らげるような化け物の姿が浮かんだ。


未来、ルシウス、心の3人を安全と思われる場所にハートが投げて捨てて、一人で2人の下へと走った。

戦いの邪魔をする訳では無い――が、結果的に邪魔をした事になる。

それでも、これほどの被害が出ている中で、衝突すれば辺り一帯が木っ端微塵になるのはハートが誰よりもよく知っている(・・・・・)


「クソッ、間に合わない――」


空気を蹴って、勢い良く跳躍してもその攻撃を止めることは不可能と悟る。

それでも、体は動いた。これ以上の被害は――ただの破壊者である。


「アイツは……破壊者になっちゃいけない。破壊者は――俺だけで、十分だ」


紫色の光を薄っすらと灯して、距離はかなりあっても直線状に見える黒へとハートが手刀で制しに掛かる。

――が、ハートよりも先に頭上から黒を襲う魔力が降り注いだ。

極太魔力砲が、これでもかと巨大なクレーターを形成する。

寸前で避けたハートがその威力の高さからせっかく稼いだ2人との距離が大きく離される。

そして、最大出力で放たれる魔力が黒を焼き焦がす。


「ボケーって、突っ立てると……単なる的だぞッ!! このまま……焦げ肉にしてやるよ――ッ!!」


黄が叫んだ。コレが最後の魔力だ――と言わんばかりに、魔力の過剰酷使によって体が限界を迎えた。

血涙、鼻血、吐血――体が痙攣を起こし、意識が朦朧とする。

それでも、黄は全力で黒へと魔力を叩き込む。


時間にして、約『27秒』――

今の黄が《完全顕現》と《再装填》の能力の同時使用が可能なおおよその時間である。

それを直感で理解した黄は、早々に決着を急ぐ為に死に物狂いで魔力を叩き込む。

この30秒にも満たない僅かな時間で、黒にトドメを刺さなければならない。

既にあの天変地異のような状態は完全に影も形も無くなり、ただ空から降り注ぐ魔力砲だけが轟音を響かせる。

だが、それも出力が落ち始めているのも目に見えて分かる。


が、間に合わない――


魔力の量からしても、最後の攻撃が終わる。

全身から魔力が抜ける感覚と共に、走る激痛が黄の体から自由を奪う。


ハート、ルシウス、未来、心の前で――


上空で両手を広げて、満足そうな笑みを浮かべる。

3人の目に、黄の笑った顔が映った。

かつての様に、明るく笑った黄の笑顔である。


そんな笑みを見て、ルシウス、未来、心は駆け出す足を止めれはしない。


ほとんど同じ位置に立ったハート、ルシウス、未来、心の4人――

言葉は必要なく。横目に視線を合わせただけで、それぞれが向かう先を理解し、同じ目的の為に動いた。

大穴となって、湧き水が溜まり始めた巨大なクレーター。

後に湖となりそうな大きさの穴のなかで、焦げ臭い男が紫色の眼光を妖しく光らせた。

瞬間、大穴から黒色の影が飛び出した。


漆黒の魔力を全身に身に纏って、空で満足そうな黄へと黒がトドメにかかる。

誰が見てもあの黒は異常である。

もはや、意識はない。ただ本能が()をキケンだと判断し、その対処に体が飛び出した。


4人の狙いが合致する――


声を上げずとも彼らは既に動いている。

心が走りながらも拾った小石に魔力を纏わせ、一定の間隔を空けつつ全力で、空に向けて投擲する。

ビタッ――と、魔力によって空中で止まった小石の上を3人が猛スピードで踏み付ける。

踏んだ衝撃を受けて、小石が割れると同時に3人の速度が急激に上昇する。

小石に付与した特定条件下で発動する――《強化魔法》によって、3人はとてつもない速度で空を駆け上がる。

普通の速力では、辿り着けない場所でも――3人それぞれの魔力による強化と心の条件強化の恩恵で、狙いの場所へと到達する。

そして、未来の魔力で創り出した2本の光剣を全身を使って黒へと向けて投擲する。


今の状態の黒が、未来の光剣に気を取られる事はない。


ダメージを受けるにしても、それよりも黄への対処を優先する。

故に、魔力を抑えに抑えたルシウスとハートの2人を認識できない。

2人が、動く際に溢れた魔力を光剣の魔力で誤魔化し、完全に黄だけに向いた黒の意識の隙を突いた。


突如、魔力感知の範囲に巨大な魔力が2つ出現する。

黄から離れる黒を横目に、ハート、ルシウスが安堵する。

これで、黒が黄にトドメを刺す絶好のタイミングを逃した。



邪魔は、しない。


ハートが目を閉じて、2人に謝罪した。

自分の心の未熟さ弱さ、2人の対決の邪魔をした事に深く謝罪する。

それでも、あのまま見過ごす事は出来なかった。


「……ハート、邪魔したのか」

「……」

「……クソ……もう、終わりだ(・・・・)


黄の背面から突如として出現した刃が黄を差し貫き、そのまま退いた筈の黒もまとめて貫いた。

4人が驚愕し、鮮血を吐き散らした黄、黒が真っ逆さまに落ちる。

ハート、ルシウスが2人を抱えて着地する。


背面から狙われた黄はもはや風前の灯火であり、黒もまた似たような状態となる。

手の施しようが無い状況に4人が『絶望』に染まった所に、白を纏った何者かが現れた。



『双方、刃を収めよ――』


ハート、ルシウスが飛び上がるように反応する。

構えるよりも先にその者は2人の間合いへと飛び込み、片手で2人の肩に触れた。


『戦う意思はない――』


そう言って、まるで力を抜き取ったかのようにルシウスとハートが崩れる様に膝を突いた。


『邪魔が、入ったようだ――』


「あぁ、俺が……2人を止めたんだ」


『お前、がか――』


力を失ってもハートは勝てないと心底思い知らされた相手でも、怖気付く事なく言葉を投げ掛ける。

相手が何者であっても、邪魔する相手との戦う覚悟はしていた。


相手が、どんな化け物でも――


感情の一切を感じさせないその者と話を続けるハートは自分が2人の邪魔をしたと告げた。

だが、その者はハートの行為を「邪魔」とは言わなかった。

2人の命を助ける為に止めに掛かるのは、邪魔とは言わない。

ただ、2人の戦いに干渉する行為を――邪魔、と定義した。


『ゆえに、お前達の行為は――』

「邪魔じゃないと?」

『あぁ、それにこの結果は見えていた――』

「……2人が、戦う結末をか?」

『そうだ。黄や彼女らは――』


「「戦う為に、蘇った――」」


黒、黄が言葉を口にする。

その者の治療のおかげなのか、まるで戦う前の状態に逆戻りしたように2人は完璧に癒えていた。


傷も魔力もすべてが元通りとなる。


そんな状況で、黄と黒は目線だけをその者(・・・)へと向ける。

黄、黒、ハートの3人だけが見抜けたこの者との圧倒的な――力の差。

魔力が、魔物が、戦闘技術が――などの言葉で片付かない。

文字通り別次元の力を感じた。否、何一つ感じられない。


ただ、視覚情報でそこに居る。

存在はすれど、それ以外の情報は何一つ掴めない。

それは、黒と黄を治療した力が――魔法ではない事を証明している。

そして、ルシウス、ハートを触れただけで無力化したのも魔力や魔物の能力でもない。


得体の知れない存在を前に、3人は平常心を保つのに必死であった。





『では、私は立ち去る――』


「目的は……何だ?」


黒の問い掛けに、その者は足を止める。そのまま静かに黒へと振り返って、自分の口元に人差し指を立てた。


「……なるほど、それを聞いたらいけないんだな」


黒の言葉に、頷くと共にその者は黄の隣に立った。


『彼は、私が送り届けよう――』

「……」

「……」


沈黙を貫く黄と黒の横で、ハートが腕を組んで黄へと尋ねた。

あの瞬間、自分達が邪魔をしなければ黄の目的は少なくとも果たせた。

その邪魔をした自分を許せるか? と――


「戦う前から、邪魔が入るとは思ってたよ……でも、君達が止めに来るかは半々だったよ。だって、君らが死ぬ可能性もあったからね――」


光に呑み込まれて、2人の姿は消えた。

ただ、最後の黄の一言がハート達には届いた。



『許す、許さないじゃない。……僕らは、今も昔も――友達だろ?』




黒の癒えた筈の体に、痛みが走る。

心の奥底に癒えない痛みが、内側から薄れる事なく痛みが広がる。





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