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難攻不落の黒竜帝 ――Reload――  作者: 遊木昌
1章 機械国家の永久炉――【仕掛けられる『皇帝』への罠】
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黒だけの戦い《Ⅱ》


簡潔に結論だけを求めるのであれば――黒は、強い(・・)


鮮血を口から吐き出して、膝を付いて倒れたのは黄である。

予想外な事に着面した様な顔で、少しずつ現実を理解し始める。

そして、徐々に驚きは笑みへと変わる。

膝をついている黄の隣で、黒が待っている。


「おい、立てよ……この程度で終わりか?」


そう言葉にして尋ねる。黒としても予想外だったのか、頭を掻きながら残念そうに項垂れる。

ゆっくりと頭を起こして、見上げる黄に目を向けた。


そうして、雰囲気を一変させる。


とてつもなく、冷たい眼光――

冷酷さその物である黒の冷たい眼は、紫色の光を薄っすらと灯しながら仕方なく。そんな手付きで、黄の胸ぐらを掴んで無理矢理立たせる。

抵抗する間も無く。黒の拳がその体を容赦無く後方へと吹き飛ばす。

地面を何度か転がって、勢いを殺してようやく体勢を立て直す――筈なのに、黄の視界に飛び込むのは黒のつま先であった。



バッッギィィッッ――!!



まるで、猛スピードで迫る鉄骨に正面から勢い良く殴られた様な衝撃が黄を襲う。

殴られた箇所は当然として、全身に伝わる衝撃の凄まじさに再燃する闘争心が黄の乾いた心を更に満たす。

飛び掛かって、互いの間合いが交差する。

肉薄して、2人の腕が互いに攻撃を防ぐ。ビタッ――と、2人の動きが停止する。

腕を同時に離して、透かさず間合いを取る。離れる間際に蹴りで漆黒の稲妻を黄が放った。

それを読んでいたのか、同出力の稲妻で相殺される。相殺した衝撃と魔力の中から飛び出した黒が強烈な一撃を叩き込みに来る。


――クソッ、避け切れないか……。


両腕をクロスして防ぐものの魔力による強化が施され、爆発的に破壊力を増した黒の蹴りはそう簡単には防げない。

慣性で黄の体が風を切って行く。大気を切り裂き、風切音と共に空中を飛行する。

飛行――とは言っても、桁違いのパワーで蹴り飛ばされただけに過ぎない。


そして、その黄に平然と追い付く。真っ黒な影を横目に、黄は笑った。



「……バケモノじゃん……黒ッッ!!」


どうにか体勢を変えて、黒へと噛み付こうとする。

並走して、黄が勢いに逆らった事で、高度が僅かに下がった。

その瞬間を狙って、真横から抉るように繰り出された殴打が斜め下の地面にクレーターを形成する。

立ち込める砂埃、岩や土の中に一瞬で埋まってしまう。

クレーターの中心、土砂からどうにか起き上がってから後ろへと下がる。


クレーターの中心で、2人は向かい合う。


血、唾液、砂利の混ざった物を口から吐き出して、口内に感じた違和感であった異物(奥歯)を乱暴に手で抜いてその場に捨てた。

体の数カ所と口か ら立ち昇る白色の蒸気が引き抜いた奥歯の治療と内蔵の治療を行っている事を知らせる。


ほぼ無傷な黒に対して、ボロボロな黄とでは戦いは見えている。

――そう、認識するのは雑魚(カス)の考えである。



「天地、(とどろ)け――アルファカイウス( )……」


完全顕現した黄の魔物(ギフト)――アルファカイウス。

骨と肉、ボロボロな布切れを纏ったツギハギのその体はホラーその物。

ホラーゲームのラスボスのような見た目で、小さい子を泣かせるだろう。


そして、その異様な見た目以上に異質な魔力が周囲に満ちる。


形勢すら逆転する可能性は、充分にあり得る。それが、魔物と言う力である。

騎士にとって、魔物(ギフト)は異形との戦いで切り札としての認識が強い。

だがそれが皇帝となれば、その認識は大きく異なる。



1人で、大国を潰せる。その理由として、この《完全顕現》した魔物の力があるからと言われている。

黒やメリアナのように、その者が有する純粋な(戦闘力)でも大国を潰せる者は――秘匿(・・)されてはいるものの存在はする。


そして、完全顕現した魔物を用いれば――多くの皇帝が、それ(世界征服)を成し遂げる事が可能とも多くの学者達によって理論上で語られた。

それほどの力を黄は、切り札(魔物)を惜しみ無く披露するが、黒は依然として使用する素振りを見せない。


「ほら、僕は力を使ったよ? 黒は――使わないの?」

「……黄、使って欲しいのか?」

「――は?」


黒の問い掛けに、額に血管が浮き彫りになる黄の引き攣った笑みに、黒が笑みを浮かべてさらに問い掛ける。


「前回は、そっちが加減してくれたろ? だから、今回は俺が手加減してやるよ……。ほら、かかってこい(・・・・・・)

「……後悔、すんなよ?」



魔物が切り札となり得る。と言うのは――騎士(・・)の場合である。

皇帝であれば、それは切り札ではなく。戦略兵器(・・・・)となる。

そして、皇帝同士の戦いでは奥の手(・・・)にはなり得ない。

皇帝同士の戦いでは、魔物の完全顕現(・・・・)はデフォルトである。

使わなければ、勝負にならない――一部の異常者(・・・)を除いて。
















魔物と共に地面を駆ける黄だが、一瞬でその顔が青ざめる事となる。

危機をいち早く察知したアルファカイウスが、宿主である黄と急接近した黒の間に割り込む。

そして、その身で危険信号を放っている黒の一撃の強大な威力を少しでも殺す。


衝撃の後、放たれた漆黒の稲妻がアルファカイウスの胴体をを貫く。

完全に余波が魔物の強大な力でも打ち消す事が出来ず、背に隠れた黄の片腕に黒の放った魔力が掠める形で到達する。


僅かな魔力であっても、その質と濃度は段違いである。

それも魔力が常人よりも遥かに多く、桁違いの魔力濃度を武器に漆黒の魔力を操る(この男)であれば――尚の事。


「……ッ!?……ッゔ――!!」

『――ゥゥッ……ォォォ……』


漆黒の魔力が高濃度な魔力を用いて、初めて誕生する(感覚を掴む)――


その濃度が元から桁違いであれば、漆黒の魔力の濃度は更に高まる。

黒の持ち得る莫大な魔力を惜しむ事なく投入し、濃度を更に跳ね上げる。

そんな化け物染みた漆黒の魔力であれば、他の漆黒の稲妻とは比べ物にならないレベルであるのは当然である。


それが、放たれた――


片腕を庇って治療を行う黄と共に、その場から飛び退いたアルファカイウスが、自身の受けた傷を見る。

その箇所は真っ黒に焦げて、肉と骨の一部が溶け落ちている。

口から鮮血を噴き出して、手を地面に付けたアルファカイウスの肩に黄が触れる。


魔物であれば、宿主と同じく魔力で肉体が回復する。

少し違うのは、治療ではなく《再構築》である。焼け焦げた腹部が直ぐ様消えて、跡形もなく構築される。


――魔力さえあれば、魔物は半永久的に戦える。


魔力の源流である魔物は、完全に顕現したとは言っても魔力を糧に顕現している。

魔力を用いれば、宿主のように肉体を再構築できる。体の殆どが魔力な魔物であれば少量でも肉体を再構築できる。



とは言え――場合によっては、黄を守る為にアルファカイウスは力を意図的に抑える。

鎖から解かれたとは言え、決して断ち切れない。強い信頼関係が構築されている。

そんな2人の強い関係、ゆえの完全顕現がある。


魔物であれば、肉体を奪って自由となれる。それでも、一部の魔物は宿主の身を案じる。

宿主の生命を優先して《完全顕現》状態を解除して、力の一部を宿主の身を守る状態である《半顕現》へと切り替える。

完全顕現が解かれる主な要因が――コレである。





だがその状態(完全顕現)は、言ってしまえば諸刃の剣でもある。

絶大な力のであるがゆえに、一歩間違えればその身を危険に晒す。


魔物(ギフト)》と呼ばれる絶大な力を宿主の意思で操り、一部の力を残して外側に顕現させる。


それが、《半顕現》――


であれば、完全顕現はその逆に当たる。

魔物の力を完全に外側へと顕現させる。故に――《完全》顕現――


2種類とも、疑似的とは言え。宿主と魔物で2体1の構図を作り出せる力ではある。

だが、完全顕現の力には宿主の意思など一切関係ない。

魔物自身の意思に全て委ねる事で、これまで宿主の身を案じて抑えられていた絶大な力に加えて、魔物本来の力が制限される事なく加算される。



魔物を完全体として、この世界に顕現させ共に戦う。



《メリット》があるとすれば、先程述べた。

宿主の肉体的な高負荷を考量して、落ちる筈の出力が低減される事である。

さらに、完全顕現中に魔物が扱う魔法などの魔力攻撃には、宿主の魔力が一切使用されないと言う点である。

宿主の魔力と魔物の魔力は別々となり、魔物の攻撃で宿主の魔力は消費されない。

消費されるとすれば、肉体の再構築などぐらいである。


負荷による制限、魔力。この2つ縛りが解かれ、魔物本来の力を十全に発揮する事が可能となる。


その場の状況を覆せる圧倒的な《魔力》《力》が、何者に縛られる事無く世に放たれる。


だが、デメリットが存在しない訳でもない。


1つ目の《デメリット》――それが、最も大きいデメリットでもある。

それは、完全顕現の解除は宿主では不可能(・・・・・・・)と言う点である。

顕現した魔物が宿主の中に戻るか否かは、魔物の意思次第と言う事になる。

そして、さらに付け加えとすれば、完全に外側へと顕現する魔物の力はそれだけでもリスクがある。


それが、宿主が魔物頼りだった場合――


魔物が外に出た際に、宿主の力が大幅に減少すると言う点が存在する。

黒のような高い魔力量、強大な魔物の力――それらに頼ったままな者であれば、とことん弱い奴は弱くなる。

その上、魔物と宿主の硬い信頼関係や繋がりが無ければ、顕現が解除されず。

魔物が宿主を殺して一切の縛りがない力を世界が壊れるまで振るう。


2つ目の《デメリット》――

魔物の力を行使して生まれる筈の出力に対する負荷が消えたとは言え、半顕現以上の肉体的な負荷は依然として発生する。

完全顕現した所で、魔物の力で生じる負荷から完全に開放される訳では無い。

完全顕現で軽減されるのは、魔物が振るう力の行使による負荷軽減だけである。


魔物を完全に制御するのに必要な《肉体》と《精神》――

2つの内の1つ《肉体的な負荷》は消えずに逆に増大(・・)する。


倭での戦い――トレファVSローグで見せた様に、人生初の完全顕現などであったように肉体的な負荷は存在する。

そして、顕現させる際に宿主は魔力を必ず消費する。完全顕現の発動時の魔力は――宿主持ちであるからだ。


完全顕現が肉体的な負荷の限界を超えて、魔物が危険だと判断すれば《完全顕現》は解除してしまう。

逆に言えば、魔物が危険だと判断しなけば――完全顕現は、絶対に解除されない。

肉体的な負荷は増大し、顕現が解除されれば肉体的な負荷、顕現で消費した魔力の反動が押し寄せる。

発動すれば、絶大な力が振る事が出来る。だが、解除してしまえば――ピンチに陥りやすい。


これが――完全顕現のリスクである。



――が、黄はリスクよりもチャンスを狙った。


肉体的な負荷は増大する。

だが、この場で《アルファカイウス》との2対1の状況は黒にとって不利な状況なのは見れば分かる。

そして、半顕現よりも完全顕現で攻守共にアルファカイウスの超火力で押し切る。


黒の高出力な魔力攻撃は、アルファカイウスの火力で相殺対応させる。

フリーとなった黄が攻撃の一点にだけ集中して攻め続けれる。

宿主とは違って、魔物は魔力でどんな傷でも肉体を再生する事が可能。


例え、黒の魔力攻撃で消し飛んでも時間さえあれば、直ぐに再構築する。

さらに、完全顕現中であれば消費する魔力は抑えられる。発動時の魔力消費はデカいが、その分のお釣りは戻って来る。


――高い防御、宿主と魔物(2人分)の魔力、有限であるが状況的に見れば無限にも等しい魔物の再生力。


砕けてもすぐに立て直す完璧な盾――《アルファカイウス》の存在は、今の黄には相当デカい。

さらに言えば、黒は体術よりも魔力に長けている。黄と黒とでは、肉体的なスペックに僅かな差がある。

絶大な魔力量、強大な魔物の力を有する黒と対等に戦うには、リスクを捨てての《完全顕現》が最適解――なのは、間違いない。


こちらの一撃は、入りさえすれば黒もただでは済まない。

魔力量は大きく劣るものの完全顕現状態のアルファカイウスのバックアップがあれば、消費が抑えられた黄の連携で十分攻め切れる。


脳内シミュレーションを終えて、黄が完治した腕を揺らす。

アルファカイウスが立ち上がって、準備が整った2人を見て2人の王の世代が前へと向く。




「さぁ、遊ぼうぜ――(黒竜帝)

「あぁ、胸を貸してやるよ。俺の……もう一人の(好敵手)――」



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