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難攻不落の黒竜帝 ――Reload――  作者: 遊木昌
1章 機械国家の永久炉――【仕掛けられる『皇帝』への罠】
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終戦《Ⅰ》


目を覚ましたローグは、自分の視界に飛び込む真っ白な天井に自分の死を受け入れた。


「死んじゃいねーよ。バカか」

「……橘、さん……?」


ベッドから起き上がって、ローグがまず先に目にしたのは白衣の黒である。

テーブルにトレーを雑に置いて、その中に空の注射器を3つ投げ入れる。

容器の中身は魔力を回復させる薬、魔力アンプル――


「さて、こんなもんかな……」

「魔力の回復、か……!? まさか、まだ……戦いが続いてるのか!!」

「いや、治療に魔力を使ったからだ――お前(ローグ)、ガゼル、田村(たむら)。……あ、あとルシウスか」


起き上がろうとするローグの腹部に黒が注射器を射し込む。

急な痛みに、ローグの顔が歪む。

直ぐ様、黒が注射器を抜いてローグをベッドに再び寝かせる。

鎮痛剤と睡眠薬の2つをトレーに戻して、黒の指先が方陣を描く。


「大したもんだよ。……新領域に覚醒して、すぐに装填(ギア上げ)するとは俺でもしなかったぞ。その点だけは、負けるよ」

「……褒めてるんですか?」

「いや、後先考えない。そんなお前に、アドバイスだ――」


トレーの上に置かれた空の注射器を黒が手にとって、別の薬品を容器に入れる。

その薬品は劇毒と思える程に不気味な色をしており、毒だと言ってくれた方が良いほどに体に良くない色合いをしていた。


「コレは、毒じゃねーぞ。まぁ、お前にとっては《毒》だな」

「……マジ、ですか」

「まぁ、それだけ状態が悪いって事だよ。てか、俺が施術してる時点で気付けよ」

「……あぁ、確かに……」


まぶたを閉じて、会話の途中でローグの目がトロリと緩む。ゆっくりとまぶたが下がり始めて、次第に意識が途絶える。

初めの睡眠薬が効いたのか、目を閉じてすぐに寝息が聞こえる。

そして、すぐにローグの体からトリスメギスが現れる。

それに呼応して、黒からはバハムートが顕現する。


「言葉が通じるかは、分からんが……《トリスメギス》でいいんだよな?」

『――バゥバゥ』

『うむ、そうだと言っているぞ』

「……やっぱ、分かるんだ」

『当然じゃ、妾は魔物(ギフト)。この者と同種なのだからな』


エッヘン――と、自慢気に胸を張る幼女を横目にトリスメギスへと向き直る。

しょんぼりしている――。それが、トリスメギスを前にした黒の印象であった。

薄々感じていた魔物との信頼関係の高さ。それが、ローグの今回の覚醒で大事にならなかった要因である。

ローグの肉体が満身創痍だったにも関わらず。肉体と精神のバランスが保たれ、魔物の暴走が起こらなかった。


「ローグを、守ったんだな?」

『――バゥッ』

『――うむ』

「じゃ、俺が余計なお世話をする意味はないな。このまま安静にしてれば、元の生活に戻れる。ただ……国の再建で忙しくなるから元の生活には戻れんな」

『バゥ、バゥバゥッ!!』

『頑張る。宿主が――だそうだ!』


書類に必要事項を書き足して、投与した薬品の種類と分量を医療関係者が見ても分かるように書き残す。

暴走の危険性は少ない。――とは言え、絶対の保証はない。

暴走時の対応マニュアルを近くを通り掛かった女医に渡して、病院を後にする。

イシュルワの脅威が消えた事で、ビフトロとイシュルワの争いで閉じ籠もっていたいくつもの小さな都市や街が難民の受け入れを行った。


その1つがここであって、数多くのイシュルワ国民が避難している。

小さな都市であるものの病院は、それでも他の都市と同レベルの環境。

設備に至って言えば、イシュルワよりも規模も清潔さも違っている。

イシュルワは、上位階級の者だけがトップレベルのサービスを受けれていた。

イシュルワの下層で生きていた人達は、この都市の普通のサービスや気遣い1つに驚いていた。


難民を受け入れる余裕もありながら、他国の事情など構わず。全ての怪我人と難民を受け入れる。

――その中で、下層部出身の大勢の者達が極度の栄養失調と薬物による身体の毒素の中和が随時行われる。


黒の応急処置で、ある程度の住民は救われた。が、それはあの場での時間稼ぎにも等しく。

今後の生活に支障が出る可能性がある者は、ここで治療を受ける手筈となっている。


「もう、イシュルワは大丈夫だな……。これで、四大陸の2国家が潰れた。エースダルとは、友好関係を築けた――後は……」

「――えぇ、これで我らが北欧の世界です」


黒の前に、純白に身を包まれた聖職者風な装いの者達が集まる。

足音1つ立てずに、黒の間合いギリギリに接近する。そして、多くの聖職者と思われる者達が黒を取り囲む。

並の聖職者ではない――。そう黒が認識したと同時に、一人の聖女が手に持った大鎌の刃を黒の首筋に近付け、刃で優しく首筋を撫でる。


「……お元気ですか?」

「……お元気ですか? じゃねーよ。この状況で、うん元気。なんて言う訳ねーだろ……《シャウ・ラン》」

「そうでしょうか? でも、橘様は元気そうですよ。それに、黒竜帝であれば――抜け出せますよね?」

「……何が、目的だ? (あかつき)拉致って、今度は俺か?」

(かなめ)さんを連れて行ったのは……我慢、出来なくて……キャッ……恥ずかしい」

「うん。もう良いよ……その大鎌しまって」


首筋から感じる金属の冷たさと死神のような冷酷さが伝わる。背筋がひんやりと冷たくなるのは、恐怖ではない。

彼女の奥深くからこちらを見詰める――魔物(・・)の存在感である。

黒やメリアナ、(しょう)(あかつき)とは違う。

シャウ・ランの魔物(ギフト)は、不気味や恐怖と言った異質な存在感を持っている訳では無い。


もっと、別な存在感を放っている――


「それで、要件は何だ? 大所帯で来たんだ……それなりの用だろ?」

「はい、既に未来(みらい)様にはご相談済みです。が、橘様にはお伝えしておりませんでしたので――」

「未来には、こんなマネはしてないよな?」

「えぇ、逃げません(・・・・・)から」

「つまり、俺が逃げる様な用事って事か――」


黒を取り逃さない様に、殺気マシマシの大鎌で脅しに来た。

それだけで、今の黒に不利益を持たらす。と言うのが容易に分かる。

だが、1つ気になる点もあった。――未来にも事前に話している。と言う所である。

この一点に、黒は疑問を抱いた。


「未来は、人質か?」

「いえ、お二人への正式なご依頼です。……未来様は、快く了承して頂きました」

「へぇ~、増々嫌な予感がする」

「であれば……みなさん。結界の準備を――」


未来が、快く引き受けた案件を黒では断る。そう、シャウは判断していた。

だから、ここまで大掛かりな準備をして事前に未来には了承を得ている。


未来が受けた。つまり、断れば未来一人になる可能性すらある。


未来の身を何より優先的に守る黒にとって、未来を信用できる仲間達や召喚獣などを護衛に付けない訳が無い。

仲間達や召喚獣が必要ない場合は、黒自身が近くで寄り添っている時だけである。

つまり、この場でこの話を断れば――未来は、一人になる。

(ヤマト)の団員を即座に呼ぶ事も可能ではある。が、そうなれば倭の守りや帝国の守りが弱まる。


――シャウが、未来を無傷で守れるとは考えれない。


黒にとって、未来は自分の命よりも大切な存在である。そんな彼女を一人には出来ない。

特に、安全が確保出来ていない。皇帝が隠れている国家や都市には――


聖職者の面々が瞬時に構築した結界の内部に、シャウと黒の2人が入っている。

強固な結界が何重にも重なって、2人を閉じ込める。

外の聖職者の表情は、布で隠れて見えない。

だが、方陣を描いた右手と手印の左手の発汗と震えから見ても限界ギリギリ――だと、判断出来る。


「そろそろ、要件を言ってくれないか? あの子達、相当無理してるだろ?」

「やはり、分かりますか……」

「後輩か、部下かは知らないが――腕は、良い。後は、自信だけだな。経験不足って所が、マイナスだ」

「総評では、どうですか?」

「言ったろ? 経験不足が、マイナスだ。が、それ以外は――筋が良い。教えた相手が、良いんだろうな」

「……やはり、合格です」


はぁ――。マヌケな声が黒の口から聞こえる。


シャウが大鎌下ろして、結界の解除を命じる。その事に困惑しつつも彼女達は結界を解除する。


「……脅しでは、良くありませんからね。それに、今の(・・)橘様なら逃げない。そう思いました」

「勝手に決め付けるなよ。こんな話をしてる内に、逃げたらどうする?」

「――追います。全力で、追いかけます」

「目が怖いな……」

「はい、私の国……北欧領域《オリンポス( )》の繁栄と未来の為ですから――」




北欧領域――その名を聞いて、黒の眼光は青く色付く。



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