ビフトロ・マイスター《Ⅱ》
本名――ルシウス・L・ビフトロ――
四大陸の巨大国家の1つに数えられる。グランヴァーレ周辺都市の1つ、蒸気都市《ビフトロ》にて生を受ける。
生まれた時点で、都市の中で最も高い魔力適正と魔力量が話題となる。
幼少の頃からよく食べて、よく眠っていた。そのふくよかな体も既に小さい頃には出来上がっていた。
両親からの提案で、ビフトロ周辺都市の1つにあった小さな魔術学校ではなく。
当時、最大規模であった倭の巨大な養成所への転学が決まる。
親元から遠く離れた異国の地で、黒やハート、数多くの仲間と交流を深める。
中学生にして、同世代よりもふくよかな体は健在であった。――が、その身体能力は同世代には引けを取らない。
ふくよかな体からは想像も出来ないレベルに、高い身体能力があった。
とは言え、この才能は生まれ持った物ではなかった。
異国の地であったがゆえ、周囲との違いを認識してのルシウスなりの生存戦略であった。
例え、ビフトロではトップレベルの魔力があっても――倭は違う。
到底、追い付く事も差を埋める事すら不可能なレベルの雲泥の差があった。
天と地、それ程までに高い差が生まれていた。
――だから、王の世代には特別体術などの基礎戦闘力の才能に恵まれた者が多かった。
才能と言っても、殆どが努力を積み重ねてその力を手に入れた。
たった1人の男によって、生まれた差を少しでも埋める為に――多くの候補生は鍛錬を重ねた。
それが、王の世代には身体能力が高い者が多い理由である。
この事を踏まえて、現実を見るのと見ないとでは――見える景色は大きく異なる。
ローグ自身も今起きている事に、その目を疑っている。
とてつもない爆発――それは分かる。
周辺一帯を吹き飛ばす事すら可能なレベルの大爆発で、ウォーロックの体を消し飛ばす狙いだったのだろう。
目の前の標的は、硬い。文字通り、戦艦級の耐久性能であった。
ならば、その硬さを上回る火力で覆せば良い――
言葉にするのは簡単で誰でも出来る事である。出来ないから難しい事で、それを現実に出来ない事だからこそ――彼らは、皇帝と呼ばれるのだ。
放たれた一撃は、ウォーロックの硬い肉の鎧を高熱で溶かしていく上に、間髪入れず爆風で肉を削ぎ落としに掛かる。
鎧の内部で守られて、余裕であった筈のウォーロックから余裕の笑みが消える。
爆風と高熱の二段構えで、一瞬で肉の鎧が削り取られる。
ウォーロックを守ってくれる鎧が消えて、本体であるその上半身が陽の光に晒される。
「――お前が、ウォーロックだな」
肉体の再構築よりも速く。ウォーロックの右頬にルシウスの拳が叩き込まれる。
頬の肉が――メキッと、音を上げて顎の骨、鼻骨が拳一つで砕ける。
脳内にに響き渡る骨の容赦なく砕ける不気味な音が、ウォーロックに恐怖を刻み付ける。
永久炉の効果で、肉体の再構築よりも先に本体の肉体再生が優先される。
それにより、再生を上回る速度で放たれる殴打の猛攻に、ウォーロックは晒され続ける事となる。
魔力切れなのか、はたまた魔物の過剰使用による負荷からの回復の為かは分からないが、一時的に魔力の使用が制限されている。
その為、ルシウスは漆黒の稲妻による内部攻撃を使用しない。
その隙に、ウォーロックは肉体の再構築を図ろうとした。
――が、それ以上に脅威となるのが。ルシウスの猛攻の凄まじさである。
先程よりも更にヒートアップした打撃は、漆黒を纏っていなくともただの打撃の数倍は破壊力があった。
ルシウスの鬼のような怒りの形相に加えて、様々な感情が一撃一撃に込められる。
倒す為でも、殺す為でもない。――苦しみを与える為に。
ルシウスの全力の打撃は、機関銃の射撃音に匹敵していた。
上半身の骨という骨が砕け、肉という肉が千切れる。血管と言う血管が破れ、内出血が止まらない。
さらに、再生治療されるので地獄の苦しみはルシウスの体力が尽きるまで続く。
されるがまま――ウォーロックの上半身が、強風に揺れ動く布のように抵抗すらしない。
ただ、風に揺れるカカシのように嵐のような猛攻によって、ウォーロックは確実にダメージを刻み込まれていた。
例え、再生されて全身の傷がなかった事にされようともルシウスの一撃は肉体へと刻み付けられる。
永久炉とて、魔力が永久でも炉自体は人工物である。それ自体は、永久ではない。
ルシウスの猛攻の中で完全に治療が終わり、一呼吸置いたルシウスへとウォーロックが攻勢に転ずる。
しかし、ウォーロックの動きを見切ったルシウスの脳天目掛けて振り下ろされた拳が下半身の肉塊にヒビを与える。
「おい、もう一度再生しろ……次は、完全に消し飛ばす」
グヌッリュリュリュッッッ――!!
ウォーロックの全身に再び肉塊による強力な鎧が再構築される。
今まで以上の大きさに加えて、鋼を上回る強度がウォーロックの体を包む。
イシュルワ軍は壊滅し、残る標的はウォーロック唯一人となる。
巨大戦艦レベル大きさを持った戦車のような下半身に加えて、肉の鎧を纏った巨大な人型の上半身――
先程の攻撃で、ウォーロックは完全なイメージを掴み取った。
ルシウスや黒、ローグ達の漆黒の稲妻や魔力を決して通さない。そんな硬い意思すら感じさせるレベルの硬度の獲得――
鋼の肉体と防御だけでなく。攻撃へと転じれる様に上半身は人型となってその硬度を利用した攻撃への転換――
先ほどでの形態が、《幼体》と例えるのであれば。この形態は《成体》である。
完全形態となった事で、硬さはこれまでの比にならない。その上、高い魔力量は健在である。
皇帝ルシウス単騎では、厳しいのは目に見えている。
ルシウスの規格外な魔力攻撃も打てて、2発が限界である。
その魔力攻撃も外殻を剥がす程度で、効果を示さない可能性もあり得る。
「――あぁ、ワクワクする」
危機的状況なのは、以前として変わらない。
なのに、心の片隅ではこの危機を楽しんでいる。まるで、自分の限界を試したい好奇心に溢れた子供の様に――
「さぁ、次の領域に、僕を……連れて行ってくれ――」




