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難攻不落の黒竜帝 ――Reload――  作者: 遊木昌
1章 機械国家の永久炉――【仕掛けられる『皇帝』への罠】
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ビフトロ・マイスター《Ⅰ》


ビフトロへと進軍する()であった。


国1つ潰すには十分過ぎる規模の軍団の前に、熱を持った蒸気が壁のように立ちはだかる。

前の人物の頭部で、後ろの者達はその姿を認識出来ない。だが、声は聞こえた。

機械的で、時折蒸気が漏れる音が木霊していた。



『ウォーロック・ザムザインによって、無理矢理戦わされている者達は投降しろ。さすれば、殺さずに制圧する。だが、自分の意思で蹂躙を楽しむ者は……即座に、殺す――3分だけ、待とう』


初めは、誰も彼もが笑った。

薬の影響か思考力が落ちているのだろう。そんな彼らは、3分は動かない蒸気の化け物へと向かって平気な素振りで進む。

死への恐怖など何一つ無い。既に感情の欠落が起こり始めた彼らに恐怖と言う感情は薄れに薄れ、争いを楽しむ悲しき異常者――


幸いにも(・・・・)、彼は自らの意思でその《異常》を選んだ。

ただの娯楽の為、金銭の為に戦っている。自国を守る為、大切な家族を守る為――ではない。

殺しを楽しみ、見返りとして報酬を貰う。傭兵のような物と似てはいるが、根本的な部分に人間性は無い。――イカれた連中であって、救いはない。

イシュルワで、真っ当な考えを持った軍人は、揃ってウォーロックの実験体にされた。


それ故、この地に集う者達は――右も左も心の底から悪人ばかりである。



「……そうか、なら容赦はしない」


機関車のような汽笛が聞こえ、兵士達は吹いて笑った。

汽笛が子供の遊ぶおもちゃのようで、戦いに似付かわしくない。

声を上げて笑って、手を叩いて歯をむき出しに笑った。――が、途端に笑い声が消える。


パタリ――と、声が消える。


声が聞こえなくなって、可笑しいと後方で笑っていた兵士が目を開ける。

すると、眼下に広がるのは――真っ赤な大地であった。


総勢、数千の軍団が一瞬で鮮血に染まる。



ガチャ――ガチャ――!!


共に笑いあった仲間の躯が足元に広がっており、兵士の背中に生暖かい感触があった。

全身を真っ赤に染めたかつての同僚が、血を吹き出して絶命する。

肉片が足元を埋め尽くし、血と臓物の生臭い匂いは刺激臭となっている。

自分へともたれ掛かる同僚の肩に触れ、その仲間の名を呼ぶ。だが、既に事切れた者達にはその名前は届かない。


すると、鋼鉄のような重量感を感じさせる音が遠くから聞こえる。それは、自分の後方から迫っていた。

――ビフトロ方角から音が聞こえ、音の方へと勢い良く振り返る。

1人の兵士を除いて、後方の軍団ですら消し飛んだ中で自分以外の生存者だと一瞬でも思った。

だが次第に近付くその影の周囲から、立ち昇る真紅の蒸気を目の当たりにして、彼が敵だと認識する。


立ち込める不気味な蒸気が、直ぐに血液が蒸発した物だと分かり、その中からその影が見える。

全身が血の蒸気によって湿って、湿度の上昇と熱の暑さから汗が滴り落ちる。


ゆらりゆらり、と――その影が迫る。


『答えろ……ウォーロックは、どこだ――』


蒸発の中から、2メートルは超える巨体が真っ赤な眼光を自分へと向けている。

その威圧に負けて、股下を濡らして恐怖に染まる。


「……あっ……ち……」


指を指した方角へと、巨人は歩いていく。


ガチャガチャと、鎧でも擦れているのかと思う音を上げて、蒸気を纏って消える。

自分が生き残った事に安堵すると、後方からさらに蒸気を纏った人影が見えた。

それを見て、気付いた。今のは――魔物(ギフト)だと、そしてコイツが宿主(マスター)だと。


男が腰を抜かして、ワタワタ――と、している隙に、その体は蒸発する。

肉体の表面が炙られるかのように、真っ白な蒸気が兵士を包み込む。

そして、真っ赤な蒸気となって、消える。

高温と高濃度な魔力によって、骨すらも残らず高熱によって蒸発する。


ゆっくりと歩み進めて、ビフトロへの迫る巨大な肉の化け物を睨む。

その足元に、次々と吸収される人と形をした肉塊と目が合った。

まだ人としての意識があったのか、何かを告げようとしているかのように人であった頃の手を伸ばした。

その手が、彼に届く事はなく。

ウォーロックへと吸収される。



「あぁ、もう……奪いたくないんだね」



もしかして――と、彼らの気持ちを察する。


自国がそうであった様に、ビフトロにもそうなって欲しくはない。

その想いが、蒸発(空気中の魔力)に混じって伝わる。

その想いが、強ければ強い程――この一撃は重く深く突き刺さる。





一方、単身ウォーロックの背中で魔力を叩き込むローグの焦りは、エスカレートする。

既に自分の小さな魔力程度では、この巨体は止まらない。だが、何もしないよりかはマシだと拳を振り上げる。

幾度も振り上げて、分厚い鋼以上の硬度を持ったウォーロックへと攻撃を続ける。


「クソ、クソ!! クソ――ッ!!」


黒が攻撃を行っていた時点では、ウォーロックからの妨害があった。

が、今では妨害すら起きていない。それほどまでに、脅威になり得ない存在だと認識されていた。


悔しい以前に、情けない――


この程度の力で、誰を守ろうとしていたのか――。そう、自分に問い掛ける。

拳から血が滴り落ちて、痛みと共に徐々に迫るタイムリミットがローグの心臓跳ねさせた。


この巨体が、ビフトロを意図も容易く呑み込む光景が目に浮かぶ。

巨体もさることながら、最も脅威となり得るのは――魔力である。

その魔力は、黒以上と言っても過言は無いほどの内包量に加え、膨大な魔力に引けを取らない破壊力を有する巨体から放たれる出力と言うとんでもない化け物――


現在の皇帝クラスを総動員しても、退けるので精一杯かもしれない。


半ば諦めかけた。その時、大気中に高濃度な魔力と高温の蒸気が立ち込めるのに気付く。

蒸気が視界を覆って、ウォーロックの肉体を包み込む。


「何だ……コレ?」


ローグの疑問に応える様に、この蒸気の発生元がローグとウォーロックの視界に現れた。

2人の目前に蒸気を身に纏った巨人が、大気中の蒸気を一点に圧縮する。


「――退け。さもなければ、死ぬぞ」


魔力に乗って、脳内に直接声が聞こえる。

その声の出所は知らない。だが、ローグの直感がこの場は危険だと告げる。

その場から飛び出して、高温の蒸気に皮膚が僅かに焼ける。

蒸気に触れ、熱湯を浴びたかのような痛みの後に訪れる。凄まじいまでの乾燥――


「水分が、消えてるのか――!?」


ローグがウォーロックから離れる。

が、その退避距離が足らないと分かると、残る魔力を爆発させて肉体のダメージなど構わずその場から吹き飛ぶ。


地面を跳ねて、転がった先で炸裂する水蒸気と凄まじい熱風の衝撃がローグとビフトロを包み込む。



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