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難攻不落の黒竜帝 ――Reload――  作者: 遊木昌
1章 機械国家の永久炉――【仕掛けられる『皇帝』への罠】
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強い想い《Ⅲ》


紫苑が砦へと到着して、結界に拒絶される少し前――


紫苑の向かった結界とは別側では、多くの化け物がビフトロの兵隊と交戦した後で、広場は負傷者で溢れていた。

その為、一時的に砦を完全に閉鎖して結界の強度を高める措置がなされた。

対皇帝用に使用されるレベルの強力な結界に切り替わった事で――紫苑でも、そう簡単には突破出来なくなる。


――本気(・・)を出せば、突破は可能であった。


だが、赤子を抱いた上で、片手のみで突破するのは先ず不可能。

紫苑なら無事であるかもしれないが、抱いている赤子に影響が無いかと言われれば定かではない。

様々な不幸が積もりに積もって、紫苑に押し寄せた。


結界を叩いて、大声で叫んでも聞こえない――


地面へと涙が落ちて、彼女の悲痛な叫びは届かない。



誰か、助けて――



彼女の願いは、誰の耳にも届かない。

かに見えた――




「今の、紫苑ちゃんの……声?」

「嘘、未来(みらい)ちゃんも聞こえたの!?」

「うん、なんて言ったかは聞き取れなかった……でも、泣いていた(・・・・・)


強力な結界に阻まれても、分厚い鋼の砦の向こう側であっても、その魔法の言葉(・・・・・)は――届いた。


未来、(こころ)の2人がビフトロで治療にあたっている。

その地から見上げる灰色の空を眺めて、荒れ始める空模様に2人の胸は酷く締め付けられた。













紫苑が結界を叩くのと同時刻――


――1人の男が、自分を許せずにいた。


悔しいな……。


凄く、悔しい……。


頼れって、大口叩いたのに……本当に、頼りたかった時に力になってやれなかった……。


男が、硬い地面を指先で抉る。

握りこぶしを作って、泥だらけの全身に加えて顔は流血の影響で真っ赤に染まっている。


「痛くない……痛い、訳が無い……」


鼻が折れても、歯が砕けても鼻や口から血を流しても痛みはない。

外傷は、魔力で治療すれば何とでもなる。――だが、心の傷は癒える事は、ない。


「……痛いのは、キミじゃないか――」


地面を叩いて、自分の惨めさに可笑しくなって笑ってしまう。

戦いを好まず。平和を愛して、同胞達の幸せを願った。

にも関わらず、その幸せを奪った。

下して無くとも、手を取らなかった。手を差し伸べなかった時点で、ルシウスにとっては同じ事である。

その手が、汚れていなくとももはや関係ない。


仲間の手を取って、助ける事をしなかった人間に――その資格は無い。


《騎士》は、誰かを守る為の存在である。

《異形》を倒すだけであれば、皇帝やその他の力を有する者達に任せれば良い――


それが、ルシウスの貫く《正義》である。

力を持っていようが無かろうが、誰かを守る為にその力を振るう。

そう、誓った。


《奪う》為ではなく《守る》為――

《倒す》為ではなく《託す》為――


その力は、その為にのみ(・・)ある。それが、この様である――


誓っておきながら、助けを求めたその手を掴もうとしない。

まして言えば、そのサインにすら気付いていなかった。

黒に立ち上がる手を差し伸べた。それより先に宗治を助けれた筈であった。


その後に、2人で黒に――手を差し伸べていれば結末は幾分か変わっていた。


そんな事にすら、気付かなかった――。それが、どうしようもなく許せなかった。


誓った覚悟が揺らぐ。


――だからかもしれない。


宗治の最後の魔力が大気中の微小な魔力に溶けて、混ざり合って、その託した想いがルシウスの魔力へと溶け合う。





そして、すべてを理解する。









――なぜ、助けたかったのか。


――なぜ、逃げなかったのか。


――自分1人ではどうしょうもなくて、挫けそうな心で縋るような思いでルシウスを頼ったのか。



――今更、理解した。



そして、耳に届く。


地面へと落ちる紫苑の涙の弾ける音が、紫苑と宗治の想いが――ルシウスに最後の願い(魔法)を届けた。


遅すぎるほどに、今になってルシウスの心臓が奥底で跳ねた。体の奥から燃えるように心臓が爆ぜるように熱くなる。

飛び跳ねる様に、何度も心臓が脈打つのを感じる。

煮え滾る熱湯のように、凄まじい蒸気が心臓から全身を満たす。

細胞が震え上がり、叫ぶように立ち上がる。一つ一つの細胞がそうして目覚める。

沸き立つ熱量に乗せて、全身に駆け巡る魔力が――


――ルシウスの想いに、応えた。


何から何まで遅い。そんな自分が悔しくて許せない。

だから、コレは贖罪なのかもしれない。

そう、勝手に思ってしまった。

きっと、黒や他の者達に聞かれでもすれば、自己満足だ――と、文句の一つでも言われてしまうだろう。


――が、今はそれで良い。


ただの自己満足であれば、尚の事良い。

――で、あれば、命を賭しても構わない筈である。






ただの自己満足なのだから――……。




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