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難攻不落の黒竜帝 ――Reload――  作者: 遊木昌
1章 機械国家の永久炉――【仕掛けられる『皇帝』への罠】
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立ち上がる理由《Ⅱ》


一瞬でも、勝つ未来を夢見た。


それが、どれ程無謀でバカな事なのか――その時の宗治は知らなかった。





















――口から、大量の血液が溢れる。


一撃――。到底、一撃とは思えない重さの一撃が宗治に癒えない傷を与える。


「……終わりか?」


ビフトロを守る筈の男に、腕を捕まれ振り回された。

結界で守られたビフトロの砦の強固な壁に、幾度と叩き付けられた。

黒が宗治の腕を掴んで、まるでヌンチャクを操るかの如く。宗治の体を壁に幾度とぶつけた。

血が壁を赤く濡らし、宗治の腕がぐちゃぐちゃになっても黒は宗治を離さない。


死の間際まで、全力を以て叩き落としに掛かる。


「もう、終わりだな……片腕はぐちゃぐちゃになって、全身血だらけじゃねーか」

「…………」

「会話もできねーか、そりゃそうだよな……」


黒は、宗治にトドメを刺さずにその場を後にしようとする。――が、宗治は立ち上がった。


もはや、勝つ事は不可能――


生きている事すら奇跡に等しい状態でも、宗治は壁に半身を擦り付けながらゆっくりと立ち上がる。

壁から離れた途端に前のめりに倒れて、小刻みに痙攣する片足に力を込める。


「――立つな。もう、戦うのは無理だ」

「……うる……さい……戦えるか、戦えないかは……自分で決める」

「吹けば、飛びそうだが? ……諦めろよ」

「……僕が……諦めの悪さを学んだのは、橘さんからですよ」


フラフラとなりながらも、しっかりと両足で地面を踏み締める。

歯を食いしばって、身動ぎ一つで激痛が走る筈の体で挑む。

そんな宗治を真っ直ぐ見詰めて、宗治から仕掛けるのを待っていた。

覚悟を決めて、叫び声を挙げて宗治は黒へと挑む――


勝つ可能性は、万に一つと存在しない。


それでも、立ち上がって無謀な挑戦に挑む理由がある。


その理由を黒は、知らない。知ろうともしない――

ただ、命よりも大切な何かの為に全力で挑み続ける。

そんな宗治に敬意を評して、その一撃を受ける。
























「――受ける。と、思ってましたよ」



背後から聞こえた不気味な声が、黒へと直ぐ様警鐘を鳴らす。


この場に立てるほどの実力者は存在しない。そんな中途半端な意識から、黒は背後を容易に取られる。


「――アナタの弱点は、その強者ならではの油断(・・)ですよ」


黒の背に、ナイフの一撃が深く突き刺さる。

背中から胸を刺し貫かれ、鮮血が黒を真っ赤に染める。

唖然とする宗治の目の前で、黒が前へとゆっくりと倒れる。

ナイフを手にした男が、数名の仲間を連れて宗治の前に姿を現した。


「流石の仕事ぶりです。王の世代同士の戦いは、手に汗握る見世物(ショー)でしたよ」

「……解放、しろ」

「……」

「……2人を始末したら、僕の役目は終わりだろ。彼女達を……今すぐ、解放しろ!!」

「全く、少しは会話を楽しもうとは思わないのですか? まぁ、良いですけど……そう言う契約(約束)ですからね」


男が、部下に指示を出す。

しばらくして、数十名の部下が銃口を向けたまま現れる。

その中心に、1人の女性がいた。


――否、1人の女性と赤ん坊(・・・)が背中に銃口を向けられていた。


「大切な方ですよね。ご自身の奥さんとお子さん……将来有望ですよね。王の世代が両親(・・)なのですから――」


赤ん坊を抱く女性の顔を隠したフードが乱暴に取られ、涙で目を赤くした――紫苑(・・)が、宗治の前に泣き顔を晒した。



「……ごめん、ね。この子の為に……辛い役……押し付けた」

「良い、良いよ。僕は、大丈夫だから――」


宗治が紫苑と自分の子供の下へと向かうとした。――その時、紫苑の後頭部に銃口が突き付けられる。


「何……を……」

「契約では、2名の皇帝の殺害です。――が、橘黒を仕留めたのは……この私だ」

「――まさか!!」

「はい、契約は無効です。ですが、お子さんは助けますよ。――1名は(・・・)殺しましたらから」


紫苑へと宗治は手を伸ばし、赤子を投げようとした紫苑の手を掴んで自分へと引き寄せる。

部下の銃口から火が吹き出る。紫苑と子供の盾となる為に、飛び出した宗治が銃弾を背中に浴びる。



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