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難攻不落の黒竜帝 ――Reload――  作者: 遊木昌
1章 機械国家の永久炉――【仕掛けられる『皇帝』への罠】
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強い想い《Ⅱ》


――誰かが、助けてくれる。


正直に言えば、そう思った事は何度かあった。

王の世代ともてはやされても、所詮はただの学生上がりの騎士だった。

大人の世界の汚さや卑怯さを知らずにスクスクと育って、腐った大人達が利用できるレベルに仕立てる。

イシュルワと言う国が、何で皇帝の数が多いのか――。学生時代の時に、誰かに1度だけ聞かれたことがあった。


「単純な話ですよ。……世界各地に、見込みのある人材を無理矢理留学させてるだけ。それで、本人不在の間に親や兄妹を人質にして、従わせる……根が腐ってるんですよ」

「……じゃ、お前もか? 宗治――」


その後、何て返したのか覚えてはいない。ただ、自分はそうじゃない――とでも言ったのだろう。

同情されたくなかった。助けてやる――と、上から言われるのが嫌だった。

助けてくれるとしても、失敗して家族が危険に晒されるのも嫌だった。




「同情――そんな物、最初からなかったんですよ……」





もしも、自分(田村宗治)がこういう奴だったら――学生時代に、幾度とも思った。


誰よりも強くて、誰よりも仲間想いで、誰よりも正義に愛された人――……。

きっと、自分のような状況でも、大切な人を守った上でこの暗闇から逃げれた。

そんな事を考えてしまうと、もっと自分の嫌な側面を目にする事になった。


そして、そんな自分の弱さを幾度と――呪った。


仲間に知られないよう。

顔に出ないように、感情を押し殺して作り笑いを作って、幸せな奴を演じて誤魔化していた。


だから、頼む――!!


「――頼むから、立つなよ……」

「……ブッ! ……ゥッ……」


顔面を真っ赤に染めて、鼻や口から大量の血を流したふくよかな見た目とは裏腹に、強靱な肉体と精神力を合わせ持った。


かつての(仲間)――


ここで、死んだフリでもしていてくれれば楽だった。――そう願って、儚い願いは砕ける。

幾度と願い目前で砕かれ、現実が嫌でも歪な光を放っている。


目を逸らせば、幾分かはマシになる。


だが、前には進めない――


「ここで、死んで下さい。……ルシウスさん」

「……申し訳……ないが、死ねない。大切な人(・・・・)が居るからね――」


――それは、同じだ。


――と、言葉が喉で止まる。


飲み込むようにして、目前に立ちはだかる敵を前に覚悟を決める。


通る為には、倒さなければならない。

守る為には、倒さなければならない。


互いに、互いの大切な人の為に――かつての友達は刃を交える。


それが、どれほど辛い事なのか――ルシウスは、知っている。


宗治の覚悟は、本物で生半可な覚悟ではない。ルシウスとて、手加減できる相手ではない。

養成所時代の記憶が、ルシウスの心を締め付ける。

共に学び、鍛え、背中合わせに戦って、あの時を生き抜いた。



――だからこそ、許せなかった。



ここまで追い込まれ、逃げる事も助けを呼ぶ事も出来ない彼らの姿を見るのが――

悔しくて、ならなかった。


なぜ、頼らなかった。なぜ、自分にだけは吐き出してくれなかった。

心の奥底に隠して、抱いて、この数年間も暗闇に囚われていた。


「……黒も君たちも……私では、頼りないのか? 力に、なってあげれないのか?」

「……」

「答えて、くれ……。なぜ、仲間である私や黒くんを頼らなかった……」

「……」

「宗治くん、答えてくれ……。答えてくれよ、宗治くん!」


――うるさい。


「答えろや、田村ァ――!!」


――うるせぇ!!


「私や黒では、頼り無かったんだよな!? 黙って無いで、答えろ――!!」

「うるせーんだ!! 黙ってろ――!!」


2人の拳が衝突する――


激しい火花散って、互いに体が吹き飛ぶ。

凄まじい魔力によって、簡単に体が吹き飛ぶ。

大気中の魔力に呼応して、衝突で生じた砂塵がさらに砂塵を生み出す。

視界全域が砂塵で見えない。そんな砂埃の中を駆け抜け、互いの居場所を察知して攻撃を仕掛ける。

ほぼほぼ勘だよりの経験と感覚だけで、視界が遮られたまま2人は戦う。

怒りをぶつけるように、それぞれの(理想)を貫く為に――拳を握る。


「少しは、頼れ!!」

「誰をだよ……お前をか!? 心さんを失くして、気力が無くなっていたお前に――助けを頼めるとでも、思ったのかよ!!」


ルシウスの動きが――一瞬、止まる。


その隙を突いて、宗治の拳がルシウスの顔面を捉えた。

正面から叩き込まれる宗治の一撃は、重たかった――

ルシウスの思っていたよりも凄く重く。

一人で何もかもを背負って、苦痛の道を進んだ男の覚悟の拳――


――ルシウスと黒の心の痛みを理解して、田村は手を引いたのであった。


――なぜ、頼らなかった。


頼れる状態ではなかった。


だからだと、今更気付いて――宗治と紫苑の優しさに甘えていた人物が悔しかった。

自分の事で精一杯で、周りを見ていなかった。

それでいて、ただ目の前で立ち上がれない黒の為にあの日は――動いた。

だが、もっと頼りたかった人物のサインに気付いてあげれなかった。

その気になっていれば、異変の1つや2つに気付けた筈だった。

きっと、覚悟を決めて助けを呼びに来たかも知れない。


にも関わらず、そんな彼の存在にすら気付いてやれなかった。

そんな人間に――頼れ――などと言われたくはない。



ルシウスが、自分の不甲斐なさに悔しさを噛みしめる。




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