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難攻不落の黒竜帝 ――Reload――  作者: 遊木昌
1章 機械国家の永久炉――【仕掛けられる『皇帝』への罠】
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油断


ウォーロック・ザムザインは、今世紀最大のピンチを迎えていた。

死にかけて、もはや動かないと判断していた男が立ち上がった。


「不死身か、あのバケモノ(皇帝)は……――」


足元の化け物へと指示を飛ばして、再び魔力砲を下層部へとはなった。

だが、どれ程高出力であっても、バハムートによって阻まれる。

コレにより、完全に下層部が黒の手によって守られる。


「……《難攻不落》、その名の通りよ」


咆哮を上げて、漆黒の稲妻がウォーロックの下へと降り注ぐ。

バハムートの魔力攻撃を受けても、ウォーロックの化け物は怯みはしない。


「へぇ、硬い……な」

『むぅ、硬い――とは、少し違うぞ。魔力が効かぬ』

「――つまり?」

『マスターや妾と同じ――と言う事じゃ』


再びバハムートの稲妻が化け物へと落ちる。だが、表面を軽く焼く程度で、芯には届いていない。


黒、バハムートと同様に高い魔力量に物言わせた高い防御力――

その防御力の高さから、バハムートの魔力攻撃を以てしてもダメージは与えれない。

下層部の守護と攻撃の2つに魔力を回した状態で、このまま無駄攻撃に転ずるのは愚策と判断する。


「――バハムート、守りに専念するぞ」

『むぅん? じゃが、そうなれば……勝てぬぞ?』

「良いんだよ……戦うのは、俺じゃねーからな」


バハムートが守りに入ったのを見計らって、ウォーロックは魔力攻撃に力を入れた。

下層部へと降り注ぐ魔力攻撃がまるで嵐でも来たかのように、絶えず地面を削る。

傷を負ったティンバーが子供達の為に盾となり、魔力の余波で倒壊した瓦礫や飛んで来た木材から守る。


「……もう少し、耐えて――」

「――ティンバー!!」


ティンバーと子供達の前に、シスターの肩を借りてヘルツが合流する。

そんな2人の魔力に気付いて、黒の回復魔法が離れた位置のヘルツとティンバーの2人に施されされる。


「ティンバー、ヘルツ……子供達を連れて下層部から脱出しろ。下層部の北側を奥に進めば、下層部の住人がイシュルワ脱出に使った通路がある。上がって、逃げろ」

「その後は――」

「ヘルツ――その後は、自分で考えろ……。もう、何にも縛られない世界だ」


バハムートの咆哮が轟く。


イシュルワと言う国家が崩れ、人が完全に消えた都市の中で、まるで怪獣映画のような世界が広がる。

巨大な黒竜と肌色の化け物が、曇天の空の下で戦う。


ティンバー、ヘルツが子供達とシスターを連れて、北側へと向かう。

崩れた瓦礫や建物を避けて、逃げて行く。

それを見送った黒が、ティンバーとヘルツの呪縛が解かれた事に安堵する。


「それじゃ……後は、田村(たむら)斑鳩(いかるが)か――」

『あの2人は、ここには姿を現さなかったな……』

「まぁ、どこに居るかは……何となく分かる。てか、ソコしか狙う場所はねーからな」


バハムートの防御に集中させていた意識を魔力感知へと僅かに回して、戦闘予想区域からティンバー、ヘルツが脱出したのを確認する。

これで、もうイシュルワと言う国に対して加減の必要がなくなった。


「さて、始めるぞ――」


黒の呟きを合図に、バハムートが下層部から飛び立った。


咆哮を轟かせて、漆黒の稲妻がイシュルワ全域に降り注ぐ。化け物が魔力障壁を展開して、黒とバハムートの魔力攻撃を防ぐ。

雷鳴が鳴り響く。大荒れな悪天候の中で、2体の巨大な力が衝突する。


化け物の魔力砲を稲妻で相殺し、バハムートの口から溢れる漆黒の炎がイシュルワを燃やした。

まるで、灼熱地獄とでも言えるほどの大火力な炎が大地を焼いた。

燃え盛る火柱が、化け物の体を焼き焦がす。さらに、追撃とばかりに上空から天を貫く漆黒の雷が、ウォーロック諸共化け物の体に叩き落される。


天変地異――


その言葉を体現するかのように、バハムートが扱う魔法の尽くが空を切り裂く。大地を揺るがす。海を蒸発させる。

自然災害を発生させるその力の膨大さに、ウォーロックは目を輝かせる。


「元々の高い魔力量……それに比例するほどの、強大な魔物の力――天は二物を与えん。とは言ったが、紛うことなき……天が与えし、神の《贈物(ギフト)》……欲しい、欲しい――ッ!!」



――その力を、寄越せ。


ウォーロックは、油断していた。


ティンバー、ヘルツ、ハート、もはや誰も自分の邪魔はしない。

そう、決め付けていた。

目の前のバケモノである。皇帝(黒竜帝)――橘黒を除いて、誰も自分の邪魔は出来ない。

そう思い込んだ故に――油断し、目の前の事しか見えていなかった。


さらに、付け加えるとすれば、バケモノの操縦を分担させていたAIの発言を不許可にしてしまった事も原因の1つであった。

AIであれば、ウォーロックの見えていない死角の全てに目を光らせる事が出来た。

だが、AIを「うるさい」と言う理由で、その発言権を奪った事が、ウォーロックの油断の1つに繋がっていた。



――誰も、そうは思っても実行はしない。


――例え、実行できても思い付きはしない。



だが、この男は思い付き――実行した(・・・・)



燃え盛る炎の大地を全速力で駆け抜け、全身を業火に焼かれてもその歩みを止めない。

全ては、この一撃を叩き込む。その為だけに、全速力で燃え盛る地を走り抜けた。


脅威なのは、業火だけでない。


頭上から見境なく降り注ぐ漆黒の雷に、貫かれる《恐怖》すらもこの男には存在しない。

たった一撃、その一撃の為に――彼は、自分のすべて(・・・)を込めた。








「ずいぶんと、楽しそうだな――」

「――!?」


突如、背後から声がした。

ウォーロック自身の脳内で導き出した筈の勝利の法則が、一瞬で砕けて跡形もなく消えた。


たった1つのピース――


小さく、弱く、儚い。


今のウォーロックにとって、脅威として数えられない存在が脳裏にチラついた。

そして、その1つのピースによって、ウォーロックの全てが破綻した。


大気に呼応する漆黒の魔力――


周囲一帯からは、あの男の魔力は感じられない。

黒とバハムートが展開した《高濃度魔力領域》によって、魔力感知が上手く機能していない。

魔力感知の殆どが、黒の高い魔力に引き寄せられている。

その上、魔力領域の効果と思える《魔力妨害》によって、感知に様々な魔力が干渉して、感知の対象が簡単に絞れない。


「クソッ、やられた!! おい、貴様も探せ!!」

『――命令、承認。一帯の高濃度魔力によって、魔力感知の精度に多大な障害アリ――……感知、精度減少。感知不可――感知不可――』

「クソッッ!! この、ポンコツがァァァッ!!」


足元の肉塊を何度も踏み付けて、危機的状況の回避に思考を巡らせた。

だが、一歩遅かった。


「この魔力領域の効果は、魔力感知に対する《魔力妨害》って、思うだろ? 少し違っててな……簡単に言えば、発動した魔力に様々な魔力残滓が影響を与えるんだよ。――この意味、分かるか?」


黒の言葉が頭上から聞こえ、ウォーロックがその言葉に意識が向いた。

その瞬間、僅かに黒の方へと視線を向ける。つまり、上を向いた(・・・・・)――


そのタイミングを狙って、全身の魔力を1点に、凝縮させたローグの一撃が放たれた。



「――《漆黒の魔力》ってのは、様々な魔力が1つに集中した状態の事を指している。ソイツ自身の魔力、大気中の魔力の残滓、戦いの中で漏れ出た自分と相手の魔力――そのすべて(・・・)を1点に、凝縮する魔力技術の最高位――」


黒が、イイモノを見たように笑みを浮かべて、ローグが放った一撃を評価する。


「俺の魔力領域は、魔力に影響(・・・・・)を与えた。……漆黒の魔力(・・)に影響を与えたって、事だよ」


腰を入れて、片腕に凝縮された一撃が放たれた。

凄まじい雷鳴の様に、大気中の魔力に影響が及ぶ。空気が割れ、大気にガラスのヒビ割れのような現象が生じる。

高密度な魔力が、1点に凝縮された際の破壊力など、並の皇帝でも無傷に抑えるのは不可能である。

あの黒ですら、至近距離であれば片腕を持って行かれる。


それほどの一撃が、ウォーロックの顔へと放たれた。




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