過剰な力
「やっとか、黒の野郎……。待たせやがって――」
「久し振りに、あの黒竜を目にできました……やはり、と言わせるほどの流石の迫力ですね。はてはて、私も危うい立場ですね」
ハート、エドワードが遠く離れた建物の屋上から、顕現した黒竜の姿と共に、魔力を全開にした黒の姿を目に焼き付ける。
「ありがとう……コレで、計画の1つが完成したよ。後は、彼らに任せるとするよ」
「……これで、お前達の計画は更に進むのか?」
「あぁ、この先は僕でもわからない。ただ、今の黒竜帝では……足りなかった。だから、場面を整えて力を発揮させる。――人間、ピンチがチャンスと言うだろ?」
「はてはて、アナタは何か壮大な計画の1つに、我々を利用した様に見えますが……逆ですよ――」
ハート、エドワードが武器を構えて、瞳に色を灯す。
「「――利用して、やったんだよ」」
ハート、エドワードが一歩踏み込むよりも先に、2人の前に暁が現れる。
「2人共、頭を冷やしてくれないか? 嫌でも、そうして貰わないと困る」
  
ここで、3人が刃を交えればこれまでの暁達の努力が水の泡になってしまう。
特に、現在のハートの状態は非常に脆い――
その事を告げられ、ハートが渋りながらも刃を収める。
この場で戦えば、十中八九クラト以外の部外者が現れ介入する。
そうなれば、黒、ヘルツ、ティンバー、ローグだけで事を納める事が困難になる。
「この場で、最も優先すべき事は――黒とローグの覚醒だ。ハート、エドワードの2人は裏方でしょ? 忘れたのかな?」
「暁、言われなくとも分かってる。俺は、アイツ――が気に食わんだけだ」
「同感ですね。が、妹の命を救った……その恩は、忘れません」
「……恩だなんて、ただ君らを利用する口実に使っただけだよ?」
「――それでも、ですよ。あの場で、利用価値を見出したから……死ななかった。そうだろ?」
「――好きに、思ってくれていい」
「では、そうさせてもらうよ。……2度と会わないことを祈っている」
一足先にイシュルワを後にするエドワードが、ハート、暁、クラトの前から消える。
ハート、暁がエドワードの魔力を完全に感じなくなったのを確認してから、目の前の戦いを注視する。
「さて、私はここまでお膳立てしました。後は、ローグさんですね……ウォーロックとの一騎打ちですかね?」
「あのローグが、しくじらなければ……の話だ」
クラトの薄気味悪い笑みに、苛立つハートだがすぐに冷静さを取り戻す。
このまま黒だけで、イシュルワを潰しても問題はない。
ただ、ローグが見ているだけとなる。そんな自分をあの男がが許せる訳がない。
少しの時間だけの関係だが、黒と同じで決して曲げない理想の為に生きている様な人物である。
「イシュルワを根本から、変革をもたらす……か」
ハートが、ローグの目的をもう一度言葉にする。
クラトがハートのそんな言葉に足を止めた。
そして、クラトの瞳にローグ映る。
「しかし、予想以上の力ですね……」
「黒のか?」
「……えぇ、あそこまで巨大な魔力――少し、怖いですよ」
クラトが下層部を守る黒竜を目にして、笑みを隠すように手で口元を隠す。
クラトは、敵ではない。だが、味方でもない――
ただ、黒を含めた皇帝と呼ばれるメンバーの能力の底上げが目的である。
その為に、他国へと渡って裏工作の日々であった。
暁と繋がって、裏で色々と作業していたのもその一環である。
――全部、どうでも良い。
ただ、黒やその他のメンバーが確実に強くなる。
過程はどうでであれ、今は黙認している。
なぜなら、クラトと暁の行動の行き着く先は、確実に全ての結果が自分達にとって+になっている。
黒が、力を取り戻す――
ローグが、より高い領域へと至る――
ヘルツが、力を曝け出す――
自分を縛っている。鎖を断ち切る――
何でも良かった。
この結果が――。この後の結果が、より良い方向へと転じるのであれば、過程などどうでも良かった。
黒やメリアナだけでは、太刀打ち出来ない戦力でも近しい同胞が多くなれば、それ以外の場面で活躍できる者達が増える。
戦場へと、友人、同士、親や兄弟を見送る。
多くの民間人から疎まれ、忌み嫌われても――結果か、全てである。
が、少し恐ろしくなる。これ以上の辛い過去と向き合わなければならない。
「ハートくん、今更……怖じ気付いたのかい?」
「……黙ってろ、暁――」
「ハイハイ……」
クラト、暁、ハートの3人がイシュルワでの最終決戦に、部外者の介入を警戒する。
全ては、黒やローグのさらなる進化の為に――
 
 




