無計画と計画《Ⅱ》
きっと、その事を人は《無計画》と言うのだろう。
それを前に、人はどんな対応をせざるを得ないのか――エドワードは、自分の実力が試されている事に、気付いていない。
「さて、話をしようか……」
クラト、ウォーロックの客人としてある程度の自由が約束された。
この有利さを利用して、エドワードはイシュルワの中で情報を集める。
もはや黒やハートに伝える時間も無いので、倭とビフトロに関する情報は噂程度に調べる。
今、必要なのは――王の世代についてである。
「なぜ、奴らはウォーロックなどと言う格下の指示で動くんだ? ソコが知りたくてな……」
「知らない……ホントに、知らないんだ! 俺達は、ただの一般兵だッ!!」
椅子に両手両足を縛られて、顔から血を流す男の前でエドワードはキックボクシングなどで扱われるグローブを取り出す。
尋問する場所が、格闘技のジムだった事が幸いしてグローブが床に転がっている。
既に劣化しており、所々が傷んでいる。とは言え、人を殴る上では申し分無い。
適度な痛みを与えて、長くじっくり話を聞くにはこのグローブで事足りる。
「はて? 黙ってしまったな……」
椅子の上でぐったりする男を椅子から退かして、別室に監禁していた男を引っ張ってくる。
椅子の上に固定して、眠気覚ましの水で男を叩き起こす。
起きてすぐに事態が飲み込めないのは当然なので、必ず時間を用意する。
冷静さが生まれた所で、質問を始める――
「――が、お前の名前であっているかね?」
「……貴様、何者だ!」
「下層部の子供を攫って、無抵抗な相手に――暴行、強姦、殺人、殺人の強要、殺人の隠蔽……擦り付け。上げたら切りが無いな――」
「ッ……私の質問に、答えろッ――!!」
憤慨する男の鼻先に、エドワードの殴打が無慈悲にも叩き込まれる。
殴打で後ろへと椅子もろとも転倒し、男は後頭部を打ち付ける。
喚く男の無駄に油がのって、よく回る舌を黙らせるにはエドワードの一撃は重すぎた。
鼻骨の砕ける音と共に鼻の穴から流れる血の滝を見て、エドワードが男の顔を掴んで無理矢理視線を合わさせる。
「1つ、勘違いを訂正しよう。質問するのは、コチラだ。お前は、ただ適した言葉で話せば良い――」
椅子を立たせて男の頭から手を離して、今度は蹴りが折れた鼻先をさらに酷い物へと仕立てる。
椅子が倒れ、後頭部を打ち付けて悶絶する男の顔を踏み付けた。
「さて、1つ目の質問だ……王の世代が、ウォーロックに従うのはなぜだ?」
「……」
「あぁ、そう……答えられないか」
ボギッ――
倒れた男の足首を魔力を集中させた状態で踏んで、骨をへし折る。
痛みから叫び声を上げた男の椅子を起こして、向かい合う様にエドワードが近くの椅子にもたれ掛かる。
男が喋る気になるように、再び時間を置いてから再びエドワードは質問する。
――答えない。
――曖昧な返答をする。
――適当に誤魔化す。
この3つの要素が少しでも含まれている――と、感じれば、エドワードは容赦なく痛みを与える。
痛みを以てして、その者の記憶から適切な情報を抜き出す。
この一連の作業を何人も繰り返して、一致した情報を整理する。
「あぁ、少し待ってろ……情報の整理をする」
椅子から立ち上がって、手帳を広げるエドワードの背後の椅子でぐったりとする男が――殺してくれ――と、遂に懇願する。
だが、エドワードは決して殺さない。質問が無くなれば、後は必要以上に痛め付ける。
これも、因果応報である。
無抵抗な子供や女性、老人を遊び感覚で痛め付けてきた報いである。
エドワードの独自の調査から、イシュルワの上層に住んでいる軍人の7割が下層部の住民を遊び感覚で殺害している。
年頃の女性であれば、貞操を弄んだ上で惨たらしく惨殺する。
老人であれば、目の前で家族を弄んで殺して、その絶望に満ちた表情を満足そうに楽しむ。
子供であれば、死ぬ気で逃げる子供達との鬼ごっこと題して死ぬまで追いかけ回す。
「……ウジ虫が、虫酸が走る」
椅子の上で、顔面を砕かれた男が上半身を真っ赤に染める。
自分の顔や首からの流血で、その体はトマトのように赤くなっている。
手に入れた情報を元に、エドワードは自分の心のままに動く。
真っ赤に濡れたグローブが幾つもの床に散乱し、ボロボロになった椅子の近くでは息をしなくなった人間が転がっている。
「来世では、せめて真っ当な人生を歩むんだな――」




