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難攻不落の黒竜帝 ――Reload――  作者: 遊木昌
序章
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笑い声《Ⅰ》


 異形が着地と同時に橘領地の豊かな自然を破壊する。

 その巨大な足で全てを踏み荒し、思うがままに破壊して進む。

 橘の領地を侵す異形を前に、梓が一歩前へと踏み込む。魔力を纏った指先が空に軌跡を描く。


 「碧、茜。領地全域の避難を急ぎな。藤乃、文乃の2人は、異形の進行を結界の修復まで食い止めなさい」

 「梓様……。異形だけ(・・)でしょうか?」

 「……2人は視界に入った大型を全て任せる。それ以外の異形は、その他の戦士と腕に覚えのある門下生で対処させる」


 藤乃と文乃の2人が音もなくその場から消え、前方に迫っていた大型異形を手に持った刀で一刀両断する。

 腕、胴体、頭部と強固な異形の魔力障壁をものともせず。2人が武器を振るう度に異形が体を崩して倒れる。

 2人の手に握られている刀がただの刀ではないのは一目瞭然、並の刀匠が打った名刀とは訳が違う。


 「お姉ちゃん……全部切って良いよね」

 「文乃、怒りで冷静さを失っちゃだめよ?」


 2人が腰を落として、抜刀術の構えで異形の群れを薙ぎ払う。

 鞘から抜かれた刀身から、地面や木々が紙のように容易く両断する斬撃が放たれる。

 風を切って、2人の前に広がる異形の群れが一瞬で切り裂かれる。

 2人が放つ斬撃は、斬撃を元に魔力を飛ばしている。その為、2人の魔力を超える魔力でないと、この斬撃攻撃を防ぐ事は出来ない。


 異形の乏しい知性では、この斬撃への理解も対策も出来ない――


 抜刀術の姿勢から、その場を高速で移動する2人の音速からの抜刀は異形の体を瞬時に塵へと帰す。

 小型には目もくれずに、2人は獰猛な獣の様に目の前の大型にだけ狙いを定めている。

 魔力の残量など気にも止めず、ただ目の前の異形を切って切って切り捨て続ける。


 「……ハァ…ハァ」

 「……ハァ……フゥー…」


 息を整えている藤乃と文乃の前に、見慣れない異形の影が遠くから迫って来るのに気付いた。

 同じ異形である筈なのに、その影は邪魔だと言わんばかりに手に持った刃で小型や中型を斬って直進してきた。


 「――文乃!!」

 「――お姉ちゃん!!」


 2人が息を合わせて、放った魔力の斬撃を怪しい影は紙一重で躱わす。

 驚愕する2人。自慢ではないが、2人の剣術は橘でもトップレベル。

 その2人の斬撃を紙一重で避けた。そんな異形はこの個体が初めてであった。

 2人の前に降り立った異形の姿に2人は、今までにない危機感を覚えた。

 和風の鎧武者を思わせる姿に加えて、手に見える太刀は怪しげなオーラを纏っている。

 小型異形種の中でも、特に危険視すべきだと判断する。この個体を前に2人は抜刀術の構えを維持する。

 2人から見てもこの個体の速度は2人を凌駕する。その上、間合いや構えから見ても剣術も2人以上――


 「……行くよ」

 「うん、私が……合わせる」


 足裏に魔力を込めて、藤乃が一歩で鎧の特殊個体へと肉薄する。

 異形の特徴として『大型』『中型』『小型』と、小型になればなるほど知性が高いと言う特徴が存在する。

 鎧武者の姿で、他の小型と異なる事から知性は今まで相手にした小型とは比べ物にならないと理解していた。

 ――が、その個体の知性の高さは2人の理解の範疇を超えていた。


 「――え」


 藤乃が肉薄した異形が、手に持っていた刀の1つを目の前の藤乃ではなく。離れた位置にいた文乃の腹部へと投擲した。

 刃先が腹部を貫き、激痛の後に口と腹部から大量の血液が溢れる。

 そのまま倒れた文乃が自分の未熟さを悔やんで、地面の土を力強く握る。

 文乃が倒れた事で、一瞬の隙が生まれた藤乃が少し遅れて刀を振り下ろす。

 正面から迎え撃って来た異形の兜の下の眼光が光る。



 「よくも、妹を――」


 藤乃が目の前の異形が笑った様に見えたのか、思わず冷静さを失う。

 そして、背後へと迫っていた。もう一体の異形の存在に気付くのが遅れる。

 同じ鎧武者の個体が背後から迫り、驚いて力が弱まった藤乃を前後から強力な斬撃が容赦なく振り下ろされる。

 2体の異形によって、藤乃は瓦屋根を転がる。下の塀に背中から落ちて塀を赤く染める。

 2体の異形がその場を後にした直ぐ後に、大型異形種が好機とばかりに攻め入る。

 塀にもたれ掛かった藤乃が、刀を杖代わりに立ち上がる。フラフラとおぼつかない脚で敵の背中を睨む。


 行かせるものか――


 歯を食い縛って、立ち上がり魔力を纏う。だが、もとより魔力が減少していた事と傷の深さからその場で力尽きる。


 嫌だ。負けたくない――

 家族を、みんなを守りたい――


 地面を這ってでも藤乃は異形の元へと動く。


 黒様が不在の橘を守るのが、私の――

 私達の役目なのに――


 涙が溢れる。激痛と自分の無力さを噛み締めて、涙が止まらない。

 背後からニタニタと笑う小型異形種が藤乃の脚を掴んで、藤乃を引き摺る。

 抵抗する藤乃が地面を掴むと、異形の一体が藤乃の顔を踏む。

 藤乃が手を離すまで、何度も何度も何度も――

 紙留めが壊れ、結んでいた髪が解ける。涙と血と土でぐちゃぐちゃになった藤乃の顔を見て、異形が再び笑う。

 力が無くなった藤乃を異形が引き摺って、避難して人がいない家屋に投げ飛ばす。

 家屋に潰され、全身ボロボロになった藤乃様を見て異形はさらに笑みを浮かべた。

 手を叩いて、笑う。足で地面を踏んで、笑う。腹を抱えて大きな口を開けて、笑う。


 「……わら…うな。………わら…な」


 階段を転がり落ちた文乃が大量出血したにも関わらず。刀を持って、姉を笑う異形を睨む。

 だが、その傷で何が出来る訳でもなく。姉妹揃って、異形の手でボロ雑巾となる。

 異形の笑い声が木霊し、悔しさと惨めさから2人の頬から涙が溢れる。



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