神々の思惑
クラトがVIPルームを後にし、残された色彩神とクラトの従者――《ロロ》が主の話に付き合う。
すると、別室でシャワーを浴びた女神2人が裸でロロ達の前に現れる。
直ぐ様、ロロの指先が主であるリムの眼球から得られる情報を遮断する。
ソファーから転げ落ちて、床の上でもがき苦しむリムなど他所に、女神2人に新しいバスローブを用意する。
「ありがとう、ロロ……あの変態などでなく。私の元に来ないかしら?」
「姉様、ロロは私の子でしてよ。ロロ、私の元に来ない?」
女神の誘いに戸惑いつつも、その申し出を断る。大変名誉な事ではあるのに間違いない。
だが、自分の役目を見失う訳にはいかない。
「……そう、なら諦めるわ。でも、気が変わったらいつでもいらっしゃい」
「私も歓迎しますわ。それと、リム様……よろしいのですか?」
「……何が?」
目を押えたリムが立ち上がって、フラフラとソファーの元へと向かう。
テーブルのワインを2つのグラスに注ぎ、2人に提供する。
リムの両隣に座った女神がリムの腕に絡み付く。その姿は、絵画に収めれるほどに美しく色鮮やかなモノであった。
あまりの色に、ロロが視線を切る。
「《メトローズ》、《ミリアイラ》――。2人共、実に美しい。メトローズの薔薇のような赤色の髪は宝石のようで、大人な女神ならではの仕草一つ一つに胸が踊る……。ミリアイラの小柄とは思えない、大人な色気とその安らぎすら覚える瞳の輝き……」
リムの瞳に色が宿る――
「……いい色だ。クレイトスやモルベンのような、野蛮で戦いしか興味のないバカ共とは違う。だが、これからの遊戯はつまらないか?」
「もう少し、刺激が……欲しいですわ」
「私も、姉様と同じです」
グラスのワインから色が消え、無色透明の液体がリムの前に残る。
ソファーや壁、天井のシャンデリアや高価な装飾の金細工が無色透明に変わる。
ロロが一歩二歩下がって、ただ黙って時間が過ぎるのを待っている。
そんなロロを見て、リムはロロの心を見透かした。
「ロロ、クラトが心配か?」
「……いえ、心配はしておりません」
「嘘を付くな……クレイトスとモルベンの機嫌を損ねたんだ。今後は、妨害が本格的になる。それに、あの3人は元々はモルベンの糞からの提供だ」
「……では、リム様の恩恵持ちではないのですか?」
リムの発言にロロが驚いた。
黄、ユーナ、エレメナの3人は、気付いたらクラトの側に居た。
その為、リムからの指示で動いていたとばかり思っていた。
リムの言葉が真実であれば、クラトの管理運営する遊戯にモルベンの手が既に加わっている事になる。
「クラト様は、既にご存知で?」
「多分だが、気付いているだろう……気付いている上で、黙認している。万が一でも、彼らを経由してモルベンが本気で動けば……考えたくはないな」
リムが目を閉じて、奪われた周囲の色がもとに戻り始める。
このゲームに対する情熱の矛先について、クレイトスとモルベンとは明らかに異なる。
だが、それもこのゲームの楽しみの1つでもある。
異なる思想を有する者達が集まり、その1つの世界に全てを注ぎ込む。
そうやって、混沌とした世界の中から物語を紡ぐ。
いつしか、自分達の描く物語や脚本が、塗り替えられるその瞬間を期待して――
「……モルベンやクレイトスがオモチャを手にしたのなら、私達も欲しいですわ」
「えぇ、姉様のおっしゃる通りです。リム様は、クラトを指名しました。クレイトスやモルベンは、トレファや彼ら3人を指名しました……私達は、誰も指名しておりません」
「2人共、拗ねないで欲しい……ただ、クラトの描く物語をもう少し待ってくれないか? その後なら、幾らでも、指名しても構わない」
不敵な笑みを浮かべるリムの目を見て、ロロは気付いた。
あの方の不敵な笑みは、誰よりも勝ち誇った時の笑みだ――と、クラトの物語が完成すれば、この場の神3人が描く脚本や物語にあの箱庭世界は翻弄される。
だが、リムが主体なら問題はない。クレイトスやモルベンと違って、この神は下手に手を出さない。
ただ、その世界に生きる者達に委ねて、描いた脚本や物語が塗り替えられる時を待っているのだから。
神々が描いた黙示録が塗り替えられ、人の可能性をその目に焼き付ける事に全力を注ぐ。
「……流石は、我らが――父様です」
ロロも、自分を生み出した創造主の前で抑え切れない笑みを浮かべる。




