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難攻不落の黒竜帝 ――Reload――  作者: 遊木昌
序章
114/231

2人は、最高位《Ⅰ》


 黒の放った打拳が空間に歪なまでに禍々しい歪み(異質な魔力領域)を生じさせた――

 凄まじい魔力濃度が込められた打撃によって、生まれた稲妻に大気中の魔力残滓が強い影響を与えた事による極々稀な現象。

並の者では、決して狙っても出来ない。

高濃度かつ高出力な魔力を稲妻(魔力攻撃)に乗せて、周辺の魔力残滓に影響を与える必要がある。それも、一瞬で残滓が反応する濃度で放出しなければならない。


その歪みを作り出す事象の難しさを例えるならば、トランプで巨大な城を作るような神業である。

濃度、性質、速度、たった一撃にありとあらゆる可能性を詰め込む必要がある。


 例え、黒ほどの実力者でも狙った訳では無い。


その攻撃がどれだけ奇跡に近しい物なのかは、その場に要る者に稲妻(魔力攻撃)がいつもより強めに光った。

――と、勘違いさせるほどである。誰が見ても、違いが分からない。

それほど浸透していない魔力攻撃(・・・・)を黒は、たまたま(・・・・)繰り出した。

そして、トレファの肉体に深部に消えない激痛を刻み付けた。

黒の心の奥底から燃え上がる。純粋な憎悪と殺意が、高い魔力量を活用して、むちゃくちゃな出力で周囲に影響を与えた。――ただ、それだけである。


 赤から青へ、青から赤へと瞳の色が何度も変化する。

 魔力特化な《青》と物理特化な《赤》という魔力性質を無意識でありながら、攻撃の度に――。

一挙手一投足の度に、交互に切り替わり続ける。

 高い魔力の知識があろうとも、進んで狙って連続で切り替える事はしない。

無駄に魔力を浪費し、自分の首を絞める事になる。ただ、1つの例外(可能性)を除いて――


 ――魔物(ギフト)とは、宿主(マスター)の心に強く影響される。

 そして、魔力の源は魔物である。黒の怒りに呼応して、内に宿る魔物(バハムート)が魔力を放出し、その放出された魔力がさらなる高みへと黒の背中を押して、新たな領域(人外の域)に踏み込ませる。


 ――刹那、防御の姿勢を取ったトレファの両腕に黒の拳が直撃する。

 腕の骨が軋み、内部から強い衝撃が生じる。

魔力による内部からの攻撃力も増強され、単純な破壊力も今までの比ではない。

破壊力が全体的に増して行く――。それも、数秒後とに段階を上げて増して行く。

何らかの仕組みがあっての芸当なのは、既に見抜いている。しかし、見抜けたからと言って対処出来るかは別の話であった。

漆黒の魔力の渦の中で、暗闇から不気味に光る紫色の眼光(・・・・・)がトレファを捉える。


 (赤でも、青でもない……紫色だとッ!?)


 八雲の再生が何十回と行われた腕が、黒の一撃で吹き飛ぶ。

 八雲は依然としてトレファの手の中だが、肉体はボロボロになっている。

 再生力が強く。更に強まろうとも、その再生対象が脆弱では意味が無い。

 天に轟く稲妻に内部から幾度も焼かれ、肉体が内側から焼かれるのと再生を繰り返す。

 その度に、黒の速度、攻撃、出力が増して行く。

 イカれた黒の魔力量と濃度に、トレファが引き攣った笑みを浮かべる。


 「なら、こちらも正面から相手をしてや――」


 下顎を粉砕する黒の膝蹴りからの脳天を砕くほどの手刀がトレファの頭部を破壊する。


 「正面から相手になるなら、来いよ……細切れにしてから殺しやるよ。何度も何度も何度も――」


 頭部を再生させたトレファがその場から退き、距離を確保した。が、黒の間合いからは決して逃げれない。

心臓目掛けて、黒の正拳突きが稲妻と共に放たれ。上半身と下半身が離れ離れになっても、八雲はトレファを再生し続ける。

 持ち主の意思など全く考慮せず。コレが、常人なら耐えれはしない。

 ――が、既にトレファは頭のネジを失っている。

 痛覚などの感覚は鈍化し、死による恐怖も薄っすらとしか感じられない。

 度重なる再生によって、感覚は既に人間から掛け離れている。


もはや、喋る人形に等しい――


 もう、死ぬ事は無い。例え、世界最高位の魔力量と濃度を有する黒であっても、簡単な事ではない。

 むしろ、黒では不可能であった。

 八雲と呼ばれる妖刀が危険視するほどに、危険な黒では――



 「しねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしねしね―――――死ねぇえぇぇぇぇぇッッッッ!!!!」


 八雲を力任せに振るう。黒の頬や服にすら掠りもしない。

 両目は正面を見失って、互いに違う方を見ている。口元からヨダレが垂れ流され、動きは完全に理性を失っている。

 黒のつま先がトレファの股間の諸々を叩き潰し、激痛に悶えるトレファの頭に全力の拳を幾度も振り下ろす。

 ぐちゃぐちゃになって、鼻や頭蓋骨が砕け中身が露出する。それでも拳を止めはしない。

 脳髄がぐちゃぐちゃになって、再生力を上回る黒の猛打がトレファの動きを完全に停止させる。


 ドンドンドンッッッ!! ドドドッドンッッッ!!!!


 陥没したトレファの頭部が再生を初め、息を荒くしながらも少し再生を待ってから再び拳を力任せに振り下ろす。

 地面が亀裂を生み、魔力の衝撃と共に地面が捲れ上がる。

 トレファのつま先が黒の背中を蹴って、馬乗り状態を崩す。


 「ゴミ風情が、ふざけたマネを……」

 「はぁ? テメェが弱いから、馬乗りでボコられるんだよ。俺に殴らたくなきゃ……本気を出せよ」


 地面を蹴って、肉薄しようとするトレファに合わせてカウンターで鳩尾に拳をめり込ませる。

 トレファの口から大量の空間が抜ける。カウンターで体を前のめりにしたのを利用して、黒の掌底がトレファの下顎を再び粉砕する。

 骨の砕ける感触と音を響かせ、砕けた下顎に指先を突き刺す。

 喉仏、肉、骨の破片などを掴んで、そのまま持ち上げて力任せに地面へと縫い付ける。

 地面に体を突き刺したトレファが、反撃とばかりに黒の下顎を伸ばした腕で殴る。

 そこで、トレファは驚愕する。魔力によって強化されたその異常な耐久性によって、黒は少し仰け反るだけに留まる。


 「いいパンチだ。蚊でも止まってたか?」


 地面に突き刺さったままなトレファに向けて、黒の爆炎を纏った拳が火柱を上げる。

 魔法によって、トレファの肉体が外側から焼かれる。上半身が焼け爛れる。

 しかし、それも八雲はどんな傷でも何事も無かったかのように完治させる。どんな傷でも、一瞬で再生する。

 だが、再生するのは肉体だけである。


 ――精神までは、再生しない。


 幾度も拳を受け、幾度も稲妻を受け、幾度も黒の《恐怖》を体に刻み付けられた。

 それによって、トレファの中でふつふつと蘇る1つの感情があった。

 何度も再生させられ、失ったと錯覚していた筈の感情――《死への恐怖》が――


 「なぁ、何で……俺だった?」

 「――へ?」

 「何で、俺の魔力が欲しかった……」

 「……当時、我々の中で最も優れた実験体(モルモット)の1人が、お前だった……。だから、その魔力を奪って……私が更に優れた実験体を――」


 顔を青ざめながら、説明をする。しかし、黒の聞きたかった言葉はそんな物ではない。


 「じゃあ……メリアナの体力(・・・・・・・)が奪われたのは、ナゼだ?」

 「……そ、それは――」


 トレファの首を掴む。ギチギチ――と、徐々に苦しめられるトレファが息を吐いて、黒の腕や頬を爪で引っ掻く。

 黒の怒りの矛先は、自分を狙った筈なのに――他の者達にも苦しみを与えた事であった。

 トレファの手を叩き砕く。叫ぶトレファの口を手で覆い、その口に黒の魔力が注ぎ込まれる。


 「欲しいんだろ……やるよ。ほら、食えよ――こんな魔力が欲しきゃ、幾らでもやるよ」


 「ゴボッゴボボッッ――ッ!!」

 「だがな……お前は、選択を間違ったんだよ。俺1人を狙えば楽だった筈なのに、大勢の仲間を同胞を……家族を傷付けたッ!! 俺らから、奪ったんだよッ!! 金にも名声にも代え難い――時間(幸せ)を――ッ!!」


 トレファの体内から黒の魔力が弾けた。体を爆散させ、肉片が辺りに散らばる。

 全身の返り血を魔力で蒸発させ、怒りと憎しみに歪んだ眼光を肉体の再生を終えたトレファに向ける。


 「――殺す。だが、先に教えといてやる……」


振り向き、異形達が並ぶ大陸を睨む。


 一体、誰を敵に回したのか――。その一言で、世界最高位の皇帝が動く。




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