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難攻不落の黒竜帝 ――Reload――  作者: 遊木昌
序章
102/231

君を想う《Ⅰ》


 自分が初めて、魔物(ギフト)の覚醒に気付いたのは……。両親が倒れた時だった。


 当時、ペンドラゴン家は倭でそう高い地位の人間ではなかった。

 追い打ちとばかりに、母親は体を壊し満足に戦えなくなる。その上、父親は、魔物に覚醒していないただの騎士。


 かつて、ペンドラゴン家は倭でも屈指の実力者を排出する家系と言われていた。

 が、年月と共にその言葉は重荷となる。

 母親は、確かに名実共にペンドラゴンの血を色濃く継いでいた。

 しかし、父親はただの平凡な騎士であった。

ペンドラゴン家に相応しい地位でも無ければ実力でも無い。

そんな血を入れれば、家名に泥を塗ると周囲の者からは言われた。それでも、両親は愛し合った。

 そして、メリアナが生まれると同時に、母親は体を壊した。

 まるで、メリアナという名の呪いにでも蝕まれたかのように……。

 周りの者は、メリアナと父親を激しく罰した。

 ペンドラゴン家の名を汚したと、幼い彼女は周囲の大人の言葉に《恐怖》を幼いながら植え付けられる。

 だが、優しい母と強く有ろうとした父の背中を見て、彼女もまた強くなろうと決心し育った。

 そんなある日、倭の中枢にまで大型異形種が侵攻する事件が起きた。

 運悪く、騎士の配置に穴が出来ていたタイミングをまるで狙っていたかのように、倭は大型の侵入を許した。

 今でこそあり得ないが、あの個体は現在で言う所の――特異型。

 その場の騎士で太刀打ちは出来ない。そう誰もが思った中で、メリアナの父親は勇敢にも単身立ち向かった。

 その姿に見せられ、数多くの騎士が己の恐怖に立ち向かう。

 蚊ほどの攻撃を続け、どうにか異形を退けようと奮闘する。

 しかし、異形の装甲を砕く事は叶わない。


 「……メリちゃんは、みんなと逃げて」

 「…ママ……?」


 病に侵された母親の力で、異形が倭の地から押し出される。しかし、目標は依然として肉体を保っている。

 騎士の殆どが倒れ、両親が深傷を負って倒れる。体を酷使した事で、母親は血を吐き倒れる。

 駆け寄るメリアナが母親の心配をすると同じく。母もメリアナの事を心配をした。

 再び動き出した異形が全速力で倭へと向かう。このままでは、終わる。

そう覚悟した時に、メリアナの魔物(ギフト)は覚醒する――


 異形は蹴散らされ、倭に平和が訪れた。

 しかし、幼い彼女は魔物の力を暴走させてしまう。そこで、止めに入った父親の利き腕を切り落としてしまう。

 その事実に、彼女の心は深く傷つく。人を傷付けた。それも大好きな父親――

 幼い子供の心を破壊するには、あまりにも深い傷であった。


 塞ぎ込んで、数年の月日が経過して――メリアナは部屋の片隅で毎日のようにその悪夢を見ていた。

 飛び散る血を顔に浴びて、激痛に苦しみながらもメリアナの為に笑う父親の顔が、いつの日か憎悪で歪んだ。

 そんな彼女を救ったのが、年齢が近かった未来であった――


 両親の声とは違う声が部屋の前から聞こえる。

 今日はいつもと違うという事に、少しだけ悪夢を忘れれた。

 扉の前から聞こえる。下らない話や外の世界の話――

 英雄譚や物語が扉の前から幾つも聞こえる。興味本位から、扉を少し開けてしまう。

 それが、メリアナの不運であった。

 扉の隙間に未来は手を入れて、嫌がる彼女をその後無理矢理外の世界へと連れ出した。


 「――怖くないよ。だって、誰もアナタを知らないもの。知らない事は、怖い事。だけど、1度でも、経験して知ってしまえば……ヘッチャラだよ」

 「……怖く…ないの?」


 自分の知らない外側の事に恐怖し、外を知る事が出来なかったメリアナはその日を皮切りに未来と外を知る。

 メリアナが知らなかった力の使い方を母親から習い。父親から、剣術を学んだ。

 メリアナは、彼女に返し切れない恩があった。父親に抱いた《恐怖》も外の世界への《恐怖》も、全部彼女が守ってくれた。

 だから、彼女の危機に自分は立ち上がれる存在でありたかった。


 家名に恥じぬ様に、隻腕でも剣術のみの実力ならば最強とまで称された父親の――諦めない心――

 ペンドラゴンの血を引く誇りを背負って、どんな時でも誇り高く誰かの為に立っている母親の――守る心――


 その2つを宿して、彼女は鍛錬に鍛錬を重ねた。いつの日か、メリアナが未来の為に立ち上がれる様に血の滲む努力を重ねた。

 誰もが音を上げる修業も乗り越え、大人と混ざって剣術の稽古に励む。

 養成所で、念願の未来との再会し共に切磋琢磨。

友人となった黒や《王の世代》と呼ばれるライバルとの楽しい学校生活――

それらの経験や鍛錬は、この日の為であった。



 全ては、この日の為――

 

 


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