表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
難攻不落の黒竜帝 ――Reload――  作者: 遊木昌
序章
100/231

終わる世界《Ⅲ》


 トレファが素早く動くのに対して、竜玄(りゅうげん)は依然としてトップスピードではない。

 全力のトレファとは真逆に、竜玄は素の速力ですら優に上回っている。

 その上で、魔物(ギフト)の力で過剰に速度を増している。否、増し続ける。

 一撃、二撃と続く殴打による攻撃の最中ですら、速度は上昇し続ける。

 視界の端ですら、竜玄の影を視認するのは達人の域でなければ不可能となる。

 それほど、竜玄は速かった。そして、武術にも長けていた――


 「クソッ、舐めるな――ッ!!」


 魔力で一帯まるごと吹き飛ばしたトレファだったが、無傷の竜玄が背後に立っている。

 退屈そうに伸びをして、トレファの準備が終わるのを待っている。


 「なぁ、もう準備運動は終わりか? あっ……もしかして、本気か?」


 魔力で木々を薙ぎ倒しながら、邪魔な木々や岩石を視界から消し去る。

 計画は殆ど終わりに近付いている。にも関わらず、何度も何度も何度も邪魔が入る。

 この場に、竜玄だけでなく。倭の防衛組でも増援があったのか、魔力がさらに増している。

その上、結界の硬度が増している。あのまま未来達が、結界の中へと退避すればこれまでの苦労が水の泡に消える。


 (クソッ……!! クラトは、何をしている!? 遊んでいるのか!?)


 追い込まれ、余裕な表情の竜玄の顔がチラつく。それが、より一層トレファを苛立たせる。

 しかし、トレファの脳内ではある仮説が生まれる。なぜ、元より戦いの序盤でこの男は出てこなかったのか――と。

 初めから出ていれば、ここまでの被害も出なかった。そして、黒が傷付き倒れる事も無かった。


 「……時間(・・)か?」


 その単語を聞いて、竜玄が後退する。そして、案の定トレファの仮説が正しかった。

 竜玄の内部から魔力が減少して行く。


 「結界に……細工をしていて、遅れたんですね。であれば、アナタが戦える時間はあと僅かですか?」

 「さて、何の事だか……」

 「倭の結界は、非常に強力です。しかし、あのレベルの強力な物は最低でも皇帝クラスが3人は必要不可欠です。そして、私の知識からして、アナタとアナタの母君しか――構築する人は、今の倭には居ません」


 トレファの言葉通り、倭の全体を覆い隠す程の強力な結界術式の構築に竜玄は魔力の半分を注ぎ込んだ。

 そして、母親である(あずさ)は、結界の維持で動けない。

 この事から、竜玄の強さは本来の半分以下である。そして、結界術式に魔力を回している為に、結界の効果範囲から遠くには行けない。

それらの事実から、トレファは未来の確保を諦める。その対価に――全てを無へと帰す。


 「さぁ、終わりの――始まりだ!!」


 竜玄が攻撃を仕掛けれない範囲まで逃げてから、全魔力を1つの魔法に注ぎ込む。

 その魔法は、遠く離れた地点で激戦を繰り広げる。クラトとメリアナにその危機を知らせる程であった。


 「メリアナさん。申し訳ない……どうやら、互いに危機な状況な様だ」

 「これも、お前の計画の範囲内だろ……逃さない。絶対に――」


 憎しみを込めた眼差しを向け、メリアナは聖剣の刃をクラトへと向ける。

 が、クラトの視界に既にメリアナは入っていない。正確には、余計な真似(・・・・・)をしたトレファだけが映っている。


 「ホントに、勝手な事をする人だ……」


 クラトが懐から取り出した端末を指先で叩いて、何処かの誰かへと連絡する。

 そして、計画の一部に問題が起きた事を告げてから、メリアナに《超回復》の魔法を施す。

 肉体、魔力、その2つの要素が全快となる。

少しばかりの非礼のお詫びと思ってほしい――そう告げて、クラトは何処かへと消える。

 呆気に取られたメリアナだが、トレファの魔法が完成に近付くのを感じて急いで動き出した。

 完成阻止には間に合わないが、魔法の発動を妨害する事は出来る。

 空気を蹴って、真下からトレファ目掛けて聖剣を振る。


 「なぜ、あの虫けらが居る!? まさか、クラト。アイツ……しくじりやがったのかッ!!!! 」


 体を放たれた斬撃で切り裂かれながらも、魔法を発動する。

 メリアナが魔力で防御し、竜玄が残りの魔力を注いで魔法の破壊から倭を守ろうとする。

 しかし、眩い閃光の後に破壊の痕跡は1つも無い。

それどころか、クラトの放った魔法は周囲一帯どころかその真下の地面すら消し飛ばせる威力では無い。

 だが、メリアナはその魔法の恐ろしい効果を知る事となる。


 「――まさか、魔力を抑え込んだ!?」


 竜玄はその場の誰よりも速かった。娘の碧、茜を掴むと未来共々メリアナの方へと投げる。

 言葉は無い。が、メリアナも竜玄の思惑をいち早く理解する。

 トレファが発動した魔法の効果範囲が如何ほどか、メリアナも知りはしない。

 だが、空中のメリアナと地上の竜玄とでもその効果は恐ろしいほど雲泥の差があった。

 その証拠に、結界を覆うガゼルの防壁が崩れ、梓の結界を残して全ての結界術や魔法による防壁が軒並み崩れる。


 魔力を抑えた――。言葉にしてしまえば、些か迫力に乏しい効果ではある。

 しかし、使い方によってはメリアナや黒ですら完封する事が可能であった。

 今回のように、魔力が全快していた事と効果の主とした影響を地面に触れていた人物に絞っていた事から、メリアナ達がその魔法の影響が少なかった。

 未来が両翼を羽ばたかせて、メリアナの隣に移動する。碧、茜の2人を連れてメリアナの4人がトレファと対峙する。


 「コレで、結界を守る人が消えた。後は、異形に任せて……お前達の相手をしてやる」

 「随分と余裕だね。私は、影響を殆ど受けていないが?」


 メリアナが聖剣を構えて、トレファに魔力砲を浴びせる。

 地面を吹き飛ばし、トレファの肉体を消し飛ばす。が、トレファは八雲の力で肉体を再生させる。

 その度に、トレファは万全な状態となる。未来が姉妹を連れて、更に高度を上げる。

 それに比例して、トレファが未来へと手を伸ばす。

 伸ばした腕を切り落として、単身でトレファへと挑むメリアナには、奥の手がある。

 故に、単身で挑んだ。周りの者達に被害が及ぶと分かりながらも、彼女はトレファと鍔迫り合いながら海上へと移動する。


 「碧ちゃん! 茜ちゃん! ここで、待ってて!」

 「駄目です、姉様!! 今ここで、姉様が傷ついたら、兄さんに合わせる顔がない」

 「私も碧(ネェ)と同じ意見だよ。このまま行かせれないよ……」


 反発する2人を前に、未来は小声で謝る。

 そして、2人に触れたと同時に倭の結界内部へと無理矢理転送(テレポート)する。

 光の細剣を手にして、両翼を再び広げて飛翔する。メリアナとトレファの元へ。


 もう2度と自分が後悔しない様にする為に――



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ