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第5話 会見の場

「当主に魔力がない?」



 アリシアの言葉に父のオルテリックは首肯する。



「別に異常ではない。両親が高い魔力を持っていても、魔力を持たない子供が生まれる可能性はある。お前たちが幼い頃に亡くなった母さんの一族はとくに魔力において一目置かれていたが、それでも魔力を持たぬ者はいる。私の叔父にも魔力のない者はいる。統計はとってないが、三人や四人に一人は魔力がない者が生まれる」



 たしかに、辺境伯家の現当主は緊急で当主になったわけだし、魔力がないのがおかしいということはない。



 魔力があるからといって、赤の他人を連れてくるわけにはいかない。



「それでも……魔力の高い女性を探すほうが自然ではありませんか? 子供も魔力を持たない確率は高くなるわけですし」



「それはもっともだ。だが、先方が魔力を持たないことも承知で、一度お会いしたいと書いてきているのだ。会って損はないだろう」



 オルテリックの言うとおりだとアリシアは思った。



 理屈が通らないことを誰もやらないわけではない。



 実際、元婚約者の王子は理屈の通らない婚約破棄を行って、危機的な状況にある。



 それに、顔合わせをした時点で結婚が確定するわけではないのだ。



 先方は婚約可能性のある女性とはとにかく会ってみようというつもりなだけかもしれない。それなら、アリシアに会おうとしても、理屈は通る。



 しかも、オルテリックは娘の縁談を見つけてくると豪語して、それを実現させたのだ。



 これで怪しいから会いもしないというのは親不孝だろう。



「わかりました。相手が何者かということも顔を見せないとわかりませんしね」



 オルテリックがうんうんと楽しそうにうなずいた反面、ラスターはうさん臭そうな顔をしている。



 アリシアは再度、相手の名前を確認した。



「バーティス様……ですか」




● ● ●




 馬車で五日も揺られたところにある教会の部屋を借りて、アリシアは辺境伯バーティスと会うことになった。



 王都に行くことはあっても、自分の所領からさらに東に何日も移動することは、アリシアは一度も経験がなかった。



 単純に用事が何もないのだ。もし信心深い性格なら、各地の教会や神話の伝説の地を巡ることもあったかもしれないが、そんな時間があれば部屋で各地が舞台の話を読むほうがアリシアの性に合っていた。



 五日も走ると、景観も変わる。



 全体的に自分の領地よりも寂れている気がする。



 もっと移動時間の短い場所で会見したかったが、新たな辺境伯はアリシアの移動してきた距離よりも遠い距離を移動してくるという。



 アリシアは目的地の近くに到着すると、一日を休養にあてた。



 疲れた顔で会見するのはよろしくないという父親のオルテリックの判断だ。



 礼節を失うことは貴族として許されない。それなりの態度で接さないといけない。






 そして、いよいよ会見の時間となった。



 会見の部屋は南北に入口があり、中央に大きなテーブルがあるという構造だ。

 辺境伯側はすでに着席して待っているらしい。



 アリシアと父のオルテリックは会見場の一つ南の部屋で待機している。相手方は北の部屋を待機室にして、そこから会見の部屋に入った格好だ。



(ものすごく粗野な人が待っていたら、嫌ですね……)



 想像も追いつかないほどの東の果てから来た領主がどんな人間なのか。



 考えてみると恐ろしい。



 貴族階級は礼節として王都の言葉を必ず習わされるはずだが、王都に参上したことがあるかもわからないような人物なら、まともに言葉が通じるかすら怪しい。



「緊張しているのか? 王子に初めて会う時よりはマシだろう」



 オルテリックが声をかけてくれる。やはり親だ、自分の心情はすぐにバレてしまうなとアリシアは思った。



「あの時の緊張とはまた種類が違います。それに辺境伯がどのような容姿なのかも聞いたこともありませんし」



「私も会ったことはないな。取って喰われることはないだろう。喰われそうだったら守ってやる」



 そして、オルテリックがゆっくりドアを開けた。



 正面に座っていたのは文人のような痩せぎすの青年だった。



 武人としてはやけにほっそりしているし、この青年は辺境伯の側近だろうか。



 肌も武人はよく日焼けするものだが、やけに白っぽい。髪が銀色なので、余計にそう感じる。まだ僧侶のほうが健康的に見えるだろう。



 だが、この青年は堂々と中央に座っている。



 どういうことだろうという疑問が浮かんだ時には、その青年が立ち上がり、さっと貴人への礼をした。



「はじめまして。辺境伯のハッシュランド=バーティスと申します」



 アリシアは少しぽかんとしつつも、礼を返した。



「聖騎士伯クリーディア=オルテリックの娘、アリシアです」



 ほかの関係者も礼を終え、お互いに着席する。自然とアリシアはバーティスと目が合った。



「十八歳の今年になって急に家を継ぐことになって、体面のためにも妻を迎えなければならないと老臣に言われましてね。それで婚約者募集というお知らせを見て、渡りに船と声をかけさせてもらったんです」



 きれいな王都の言葉でバーティスは話す。辺境伯が田舎者というのは、実質から離れた差別というか事実誤認だったようだ。



「さて、あまり気の利いた話も得意ではないので、本題に入りますね。この私と結婚していただけませんか?」



 単刀直入にバーティスが言った。



 もちろんそのためにこの土地まで出向いたのは誰もが知っているが、それにしても気が早い。



 もっと豪傑のような見た目の男なら、それでも違和感もないが、重いものも持ったことがないような華奢な身なりだ。



 なので、その言葉がなんともそぐわない。



「辺境伯、質問させていただいてもよろしいでしょうか?」



 アリシアは右手を少し上げた。



 これは交渉だ。


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