最終話 この国は辺境伯国です
父親であるオルテリックからとことん戦って問題なしというお墨付きの手紙をもらったアリシアは、すぐにバーティスにそのことを報告した。
「そんなに上手くいくかはわからないけど、ここで降伏して、隣国に亡命するのも釈然としないしね」
「序盤で徹底的に叩いてやれば、相手を弱気にさせる程度はできます。やってやりましょう」
「アリシア、思ったよりも好戦的なんだね」
「そういうわけではないんですが、王家のやり方は目に余るものがありますので」
こうして、辺境伯家は王家の理不尽な要求に対する抗議を各地に行い、抵抗する旨を各地の領主に通達した。
そこには積極的に辺境伯家と戦う意図のない領主の兵を痛めつけることはしない、あくまでも自分たちの正義をわかってもらうためだけの戦いであると書いておいた。
そして、王家のほうでは兵を集めて、辺境伯領を攻撃するために兵を送ったのだが――
結果は惨憺たるものだった。
主力の兵士数千は決戦の舞台であるはずの平原が無数の雷が落ちまくる状況で、まったく踏み出せなかった。
さらにその雷がじわじわと王家軍のほうに向かうので、彼らは軍規を乱して逃げるしかなくなった。
別動隊のほうも、なぜか戦闘意欲がまったくなくなり、野営地から一か月以上動かず食糧が完全に尽きて、行動不能になった。
次に編成された部隊も同じ目に陥り、進退窮まった王は、辺境伯家を国から除外するという決定を一方的に行った。
つまり表現を変えれば、辺境伯領を独立国として扱うということである。
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「バーティス、このドレス、似合っているでしょうか?」
「もちろんだよ。ただ、肩が少し出すぎているな。露出が多いかもしれない」
「これぐらいは許容範囲だと思いますが、バーティスが気にするなら、上から何か羽織ることにしますね」
本日は、辺境伯国の建国パーティーだ。
王国などではなく、辺境伯国を名乗るのはやむなく独立をしたという意味合いを残すためである。それにうかつに王国を名乗ってしまうと、ほかの伯爵クラスの領主から敵視されかねない。
あくまでも、あなたたちと同格ですが、やむをえず王国から出ることになったという形を取りたかったのだ。
「なかなか気の休まらない日々が多かったけど、やっとどうにかなりそうですね。本を読む時間もできそうです」
「僕は法律を作ったり、いろいろ仕事が残ってるんで、手伝ってくれるとうれしいんだけど」
「バーティスのためなら、しょうがないですね」
長く残っていた雪もようやく新しい国土から消え去ろうとしている。
辺境伯国の出発の時期としては悪くない。そうアリシアは思った。
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