第11話 王太子没落 ~王太子視点~
王太子視点です
アリシアとの婚約破棄を一方的に行ったマリティア王国第一王子カルストラは、そのせいで立ちどころに窮地に陥っていた。
彼は一週間後、父である王に召喚され、事の経緯の説明をさせられた。
魔力に乏しいことを理由に婚約破棄をしたことを述べたが、その間、王はまったく笑わずに聞いていた。
「では、カルストラよ、今のおぬしが愛している女というのはよほど魔力に満ちた者なのだな?」
冷たい声で見透かすように王が言った。
「そ、それは……」
カルストラが口ごもる。
王の側ではすでにカルストラを召喚するまでに調査を終えていた。
カルストラが廷臣の娘とねんごろになっていて、アリシアを追い出そうと画策した。そんなこともすべてわかっている。
無論、廷臣の娘に魔力などないことも王は把握済みだった。
「もし、今、おぬしが懇意にしている女が魔力を持たない場合、おぬしは道理に合わぬことをしたことになる。いずれ王になる者の資質がないと言わねばならぬな。王とはすべての民の親として生きねばならぬ存在であるのだから」
カルストラは言葉が出ない。
こんなに事が大きくなるとは思っていなかったのだ。
元々、アリシアとの婚約が決まった時から、カルストラはアリシアのことが好きではなかった。
読書好きのアリシアはずいぶんと学のある女性で、さらに聖騎士伯家という武人の家柄でもあったので、乗馬も巧みであった。
当時のカルストラはまだ乗馬が得意ではなく、勉強もサボりがちだった。
勉学を一切拒否するような態度であれば、あっさり廃嫡されることになるので、常識の範囲内でのサボり癖ではあったが、とにかく優秀とは言えなかった。
そこに、教養のあるアリシアがやってきた。気位の高いカルストラはこのアリシアが気に入らなかったのだ。
アリシアは普段は聖騎士伯家の領地にいるので、頻繁に顔を合わすわけではないのがまだ救いだったが、結局カルストラとアリシアとの間の溝が埋まることはなかった。
その間にカルストラは同世代の悪友たちと羽目を外して遊んだりして、廷臣の娘ともそこで知り合った。
そして、東部の情勢も平穏になったから聖騎士伯家との関係が悪化しても問題なかろうと、ついに婚約破棄に踏み切ったのである。
もっとも、カルストラだって、王の反応を想像しないほど愚かではない。
「その……私は父上が婚約破棄を容認なさるという話を聞いていまして……それで大丈夫だと思って……」
これは作り話ではない。
カルストラは王の反応をそれとなく伺い、婚約破棄を問題として取り上げないという意向だという話を聞いていた。
そもそも大きく問題視するなら、婚約者の女が十七歳の時に婚儀の日程がまったく定まってない時点で、なんらかの話が出たはずである。
しかし、その間、王は静観していた。
だから状況証拠的にも婚約破棄に至るのは自然な流れだ――とカルストラは判断したのだ。
「その話というのはどこから出たのだ? おぬしがワシと会って、そう聞いたのか?」
カルストラの顔が青くなった。
そういえば、王が容認しているという話だというのは、誰が言った言葉だ? それすら思い出せない。
情報に確定的な要素がどこにもないのだ。
もしや自分を廃嫡しようとする勢力にハメられたのか?
「お前には愛想を尽かした。去年も婚儀を一切進めようとせんかったな。ワシはまだまだ元気だから、どうするものかと様子を見ていたが、本当に一年何もせずに過ごしおったわ」
ようやく自分が見放されていたことにカルストラは気づいた。
信頼できない情報が自分のところにもたらされていた……。
弟を王太子にしようと目論む者たちだ。そうに違いない……。
「父上、これは陰謀です!」
「カルストラよ、しばらく謹慎せよ」
冷酷に王は言った。
それは事実上、廃嫡の前準備ではないかとカルストラは思う。
だが、そんなことをカルストラが尋ねられるわけがなかった。
謹慎中のカルストラの元にも出入りする人間はいるので、いくつか話は入ってきた。
それは彼にとっては聞きたくないようなものだった。
王太子の地位を剥奪して、ほかの弟にその地位を授けるのはほぼ確実である――というのだ。
しかも同じような情報は、別の人間たちからも繰り返し告げられた。
さらに、もっと恐ろしい情報まで彼の耳に届いた。
もし、弟のうち誰かが王に即位すれば目障りな兄は理由をつけて処刑されるだろう、と。
もはや、王都にいること自体が危険である。進退は窮まったと。
恥も外聞もなく逃げるしか道はないと。
彼はその情報を信じた。
そして高価な調度品を持ち出して、王都を脱出した。
目的地はない。とにかく、王都にいてはならないのだ。
そして謹慎期間が解かれる前に王都を脱出したことにより、カルストラの政治生命は完全に断たれた。
彼に情報を持ってくる連中が誰かの差し金かもしれないと確認する術は彼にはなかった。
なにせ、謹慎中で出歩けない彼が宮廷の人間に真偽を聞いて回ることなどできるわけもないし、人間というのは同じような話を聞かされ続ければ、それが真実と誤解する生き物だからだ。
彼はわずかでも縁のある人間を頼りに王都をさまよう。




