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俺にイチイチ突っかかってくる面倒くさい幼馴染に好感度反転催眠術を使った結果wwwww

「ついに ねんがんの こうかんどはんてんさいみんじゅつを しゅうとく したぞ!」


 オッス!オラ工藤光太郎!

 ピチピチの15歳の高校生!

 青春を謳歌している真っ最中のお年頃だ。

 そんな俺にも、実は理解のない幼馴染がいたりする。


 そいつの名前は羽鳥聖奈。

 一言で言えば性格の悪い、クソみたいな女だ。

 なにがひどいかって、俺に対する当たりがとにかく強いのだ。

 特に女の子と話してるときがひどくて、どこで見てたのか会話が終わるとすっ飛んできて言いがかりをつけてキレてくるんだからタチが悪い。

 取り柄といえば人並み外れた可愛さくらいなものだが、それだって俺からすればマイナス要素でしかない。

 顔がよくったって、性格がいいとは限らないってことだからな。

 男の子の幻想を早々に打ち砕いてくれたという意味でも本当に罪深いやつである。


 事あるごとに突っかかってくるわ、反論したら罵ってくるわで俺の聖奈に対する好感度はとっくの昔に地の底だ。

 正直もう関わりたくないと思ってたし、こうも仲が悪ければ高校は別々になるだろうと思ってたのに、気付けば何故か同じ高校に進学していたという事実。


 さすがの俺も、これには心底ガックリきた。

 向こうのほうが俺よりよほど頭がいいのに、なんでこんな普通の高校選んだんだよと問いただしたいくらいだったが、その前にアイツが「高校でもアンタと一緒なんて最悪」なんてクソみたいなセリフを吐きやがったものだから、そのまま喧嘩になって結局うやむやになってしまったことは記憶に新しい。


 そのうえ同じクラスときたもんだから、もはや呪われてるんじゃないかって疑うレベルだ。

 この腐れ縁がこれから最低三年間はまた続くのかと思うと、正直かなり憂鬱だったのだが…


「クックック…そんな悩みも今日までの話だぜ」


 そう、俺はついに手に入れたのだ。

 この状況を打開する力を!その名も好感度反転催眠術という。


 ん?なになに、めちゃくちゃ胡散臭い力だって?

 ……言うなよ。そんなことは俺にだってわかってる。

 なんせ夜中にネットを漁ってたら、たまたま見つけたアングラサイトに載ってたやり方を練習したってだけだからな。

 ぶっちゃけ効果があるかも半信半疑だ。


 なんでこんなアホなことをしたのかと聞かれたら、魔が差したとしか言い様がない。

 きっと深夜テンションでおかしくなっていたんだろう。

 俺だって男だ。催眠術が使えるなら使ってみたい考えちまうのは仕方ないと思うんだよ。

 無理なことは百も承知だけど、これはロマンの問題である。悔いはない。

 ついでに聖奈にギャフンと言わせることができたら、それはそれで儲け物だしな。


 失敗したらきっと思い切り鼻で笑われることになるんだろうけど…そのことは考えるのはやめとこう。

 失敗したときのことを今から考えてもしょうがないだろ、うん。


「つーわけでさっそく…」


 アイツの家に行ってみますか。

 そう考えた次の瞬間、部屋のドアがガチャリと開いた。


「光太郎、ちょっと教科書借りに…なにやってんの、アンタ」


 立ち上がろうと中途半端に腰を浮かして固まる俺に、聖奈が冷たい眼差しを向けてきた。


「え、いやそれはこっちのセリフなんだけど…」


 なんでお前が俺の部屋に着てんの?

 言外にそんな含みを持たせたつもりだったが、聖奈の反応は冷ややかだ。


「学校に教科書忘れちゃったから借りようと思ってきたのよ。アンタの家の方が近いし、どうせ光太郎は予習なんてしないでしょ?」


「ぐっ…」


 それはそうだが、なんつー見下した態度を取りやがる。

 正論だからって借りにきたならもうちょっと下手にでるもんだろ!


「ほら、図星じゃん。そんなんだから光太郎の成績はいまいちなのよ。な、なんなら私が今から勉強見てあげてもいいのよ?」


 思わず声が詰まったところにそんなことを言ってくるから、やっぱり性格悪りぃなコイツ。

 弱みにつけこむつもりだろうがそうはいくかよ。


「うるせーな。余計なお世話だ。教科書ならそこのカバンの中に入ってるから勝手に…」


 持ってけと言いかけたところでふと気付く。


(あれ、これチャンスなんじゃね?)


 少なくともわざわざ聖奈の家に行く手間は省けたじゃん。

 なによりここは俺の部屋。やりようはいくらでもあるってもんだ。


「な、なによ…人がせっかく一緒に勉強してもいいって言ってあげてるのに…」


 相変わらずの上から目線だが、それももはや気にならない。

 催眠術をかけるにはまさにうってつけの状況に、俺は思わずほくそ笑む。


(ククク…俺にもようやくツキが回ってきたようだな…)


 鴨がネギをしょってやってきたとはこのことだろう。

 長年の恨みを晴らす絶好の機会の訪れに、身震いしちまいそうだ。


「…なにバカ面してんのよ、バカ光太郎。頭悪いんだから、せめて外見だけでもシャキッとしたらどうなのよ」


「なんだと…!」


 せっかくいい気分だったのに、なんつーこと言いやがる!バカバカ言い過ぎだろ!

 やっぱすげームカつくなコイツ!


「なによ?文句あんの?」


「ぐっ…いや、いい。今取り出すからちょっと待ってろ」


 喉まででかかった買い言葉をなんとか飲み込み、俺はカバンに手を伸ばす。


(落ち着け、俺。怒ったら負けだぞ。コイツはもうクモの巣にかかった憐れな蝶々なんだ…)


 ここでキレて口論になったら、催眠術をかける余裕もなくなってしまうだろう。

 大事なのは冷静に対応することなんだ。焦って感情に身を任せちゃダメだ。

 そう何度も自分に言い聞かせ、カバンの中を覗き込みながら教科書を探すフリをする。


「あった?」


「あれ?おかしいな。確かに入れてたはずなんだが…」


 ガサゴソと手を突っ込み、かき回すように探るが、これももちろん演技である。


「ちょっと、なにしてんのよ。まだ見つからないの?」


「んー、おっかしいなぁ…」


 俺のとぼけた態度に、聖奈は苛立ちを隠せない様子だった。

 だがそれこそがまさに俺の狙いだ。気の短い聖奈が次に取る行動がなんであるか、無駄に長い付き合いで大体予想できるのだから。


(さぁ食いつけ…!)


 内心まだかまだかと待ち焦がれていると、しびれを切らしたのか、聖奈が俺の方に向かって歩いてくる。


「もう、なにやってるのよ!私が探すから貸しなさい!」


 そう言ってかがみ込むと、聖奈はカバンに向かって手を伸ばした。


(よっしゃ!かかった!)


 これこそまさに俺の望み通りの展開だった。

 笑みを噛み殺しながら、俺はカバンから手を引き抜く。

 だけどそれで終わりじゃない。勢いそのままに、引き抜いた手を聖奈の眼前に掲げ、そして―――


「これを見ろ、聖奈!」


 カッと、その手に握っていたペンライトの光を点灯させた。


「えっ、きゃっ――」


 咄嗟に聖奈は目を瞑るが、もう遅い。

 これで第一段階は完了したのだ。眩しさから瞼を閉じているうえに、驚いたせいで尻餅をついているこの状況では、立ち上がることもままならないだろう。

 つまり逃げられないってわけだ。もちろん逃がす気もないし、聖奈だってされたことをあっさり流すようなやつじゃない。

 すぐに目を見開いて怒り狂ってくるはず。

 その証拠に瞼をうっすらと開け始めているが、もはや聖奈にとってはどうあがこうと詰みでしかない。


「こ、光太郎!アンタなにを…!」


「おっと、ほらこれを見ろって言ったろ」


 聖奈が怒りの声をあげると同時に、俺は手のひらのペンライトを再び点灯させた。


「うっ…」


「ほいほいほいっとな」


 そうして上下左右に光の線を描いていく。

 それに釣られるように、聖奈の瞳が動いて線の動きを追いかける。

 まるで金縛りにかかったかのようにその場に固まり、目だけをキョロキョロと動かす聖奈と指揮棒のようにペンライトを振り回す俺の姿は、きっと傍から見れば、ひどく奇妙な光景だったことだろう。


「う、あ…」


 俺が光の線を引くごとに、聖奈の瞳からハイライトが消えていく。

 同時に口数も少なくなり、腕もだらんと垂れ下がる。


(こりゃマジで効いてるのか…?)


 正直ダメでもともとというか、9割方無理なんじゃないかと思ってたんだが。

 この反応を見る限り、効果は本物なのかもしれない。

 だとすれば…その先を想像し、思わず生唾を飲み込んだ。


(ようし…それなら、このまま…)


 散々人を馬鹿にしてきた聖奈が俺の罠にかかる。

 これを意趣返しと言わなくてなんというんだ。


「……よし、それじゃあ聖奈。お前の俺に対する好感度は、これから反転するんだ。嫌いだったなら好きになる、好きだったら嫌いになる…いいな?反転するんだぞ?」


「……はい」


「よし、それじゃあ俺が手を叩いたら、そこで切り替えるんだ。1…2…3…ハイ!」


 パンッと乾いた音が部屋に響く。

 それを聞いた聖奈の肩が一瞬震え、同時に瞳に輝きが戻っていくのが見て取れた。

 ここまでサイトに書いてあった通りに実践したわけだが、今のところは上手くいっていると思う。


(ならこの後は俺に対する好感度が反転して、俺のことを好きになるはずだ)


 聖奈が俺を嫌っていることは明白だし、好感度が反転したら態度を一変させるに違いない。

 すなわち俺のことが嫌いなら好きに、大嫌いなら大好きになるってことだ。

 どういう反応を示すかによって俺への好意の度合いが測れるうえに、嫌いなはずの俺にすきすきオーラを飛ばしてくる様子を動画にでも撮っておけば、聖奈の弱みを握ることができるだろう。

 まさに一石二鳥の策ってやつだ…マジで嫌われていることがわかっちゃうのは、さすがにへこむだろうけどさ。


(まぁこの催眠の効果は半日くらいらしいし、これくらいなら大丈夫だろ)


 一生好感度が変わらないっていうなら、さすがに俺だって催眠をかけやしない。

 それくらいの良心は一応ながら持ち合わせてるつもりだ。


(こっちとしては聖奈に恥をかかせることができれば満足だしな)


 聖奈はどうだか知らないけど、俺としてはいくら性格最悪だろうと幼馴染は幼馴染だ。情が全くないわけでもない。

 どん底に突き落とすなんて悪趣味なことはするつもりもなかった。


「ん…」


 何度か大きく瞬きすると、聖奈は俺をぼんやりとした目で見つめてくる。

 どこかふわついた、まるで夢から覚めたばかりのような力のない眼差しを受けて、何故か少したじろいでしまう。


「……聖奈?」


「…なに?」


 戸惑いながら声をかけたが、返事は返してくれるようだ。


「お前、俺のこと好きか?」


 ならばと思い、試しに聞いてみることにしたのだが、自分で口にした言葉に思わずビビってしまう。

 こういうことに慣れてないせいか、あまりにも直球な言い方になってしまったからだ。


「はぁ?」


「わ、わり!今のはナシで…」


「なにいってんのよ、アンタ。そんなの…」


 咄嗟に訂正しようとしたのだが、聖奈が口を開く方が早い。

 そして―――



「大っ嫌いに決まってんじゃない。私、光太郎のことなんて死ぬ程嫌いなんだけど」



 聖奈にそんなことを言われるまで、口を挟む余裕もなかった。



「…………え」


「なに見てんのよ、最悪。ていうか、私なんで光太郎の部屋なんかにいるの。全然落ち着かないし臭いし、存在自体がマジで有り得ないんだけど」


 思わず固まる俺に、畳み掛けるように悪口のマシンガントークを繰り出してくる聖奈。


「え、いや、おま。俺のこと、好きになったんじゃ…」


「はぁ?誰がアンタのこと好きだっていうのよ。寝言は寝て言いなさいよ。頭おかしいんじゃないの」


 そのままスックと立ち上がると、文字通り俺を見下してくる。


「う…」


 その目のなんと冷たいことか。

 まるで氷のようであり、とても人間を見る目とは思えない。

 寒気が走り、背中に一筋、つぅっと汗が伝っていく。


「アンタが幼馴染とか、ほんと最悪。死んじゃえばいいのに、この…クズ!」


「うおっ!」


 叫ぶと同時に繰り出された蹴りを咄嗟に受け止めたはいいものの、体勢が不安定だったのもあって勢いに押され、思わず倒れ込んでしまう。


「ってえ…」


「ふん、これに懲りたら二度と不愉快なことを言うんじゃないわよ。それと、もう二度と私に話しかけないで頂戴」


 痺れる腕の痛みに顔をしかめる俺を見て多少溜飲が下がったのか、聖奈はひとつ鼻を鳴らすとそのまま部屋を出て行った。


「…………好感度、反転したんじゃなかったのかよ」


 その背中をただ見送ることしかできず、なにが起きたのか整理するまで、俺はしばしの時間を要したのだった。









「要するに、あのサイトはやっぱ嘘っぱちだったってことだよなぁ」


 迎えた翌日。

 俺はシャツに袖を通しながら、盛大にため息をついていた。


「催眠術にかけることはできたっぽいけど、そこどまりで結局暗示はかけられなかってわけか…蹴られ損じゃん、俺…」


 一晩経ってようやく落ち着いた頭でもう一度考え直してみたものの、出た結論は催眠術は失敗したんだという、常識で考えればごくごく当たり前のものに落ち着いた。

 てかまぁ、そりゃそうだわな。普通催眠術なんてかけられるもんじゃないし。


 なんせ態度がまるで変わらなかったのだ。正気だったのは確かだろう。

 さすがに蹴られたのは初めてだったが、嫌ってるだろう相手に俺のこと好きか?なんて聞かれたら、そりゃキレるわ。

 チラリと二の腕を見ると、青あざがくっきりと浮かんでいる。


(よっぽど嫌だったんだろうなぁ…)


 聖奈が本気で蹴ってきたのは明白で、それがまたなんとも言えない気分をいやがおうにも加速させた。



 ピンポーン



「ん…?」


 制服に着替え終わったタイミングで、下からチャイムの音が聞こえてくる。

 こんな朝から誰だろうと思いながら階段を降りると、再度チャイムが鳴らされる。


「おいおい、せっかちだなぁ」


 何度も鳴らされても迷惑だ。

 本当ならインターホンで確認したいところだったが、ここはさっさと出て応対することにしよう。



 ガチャリ



「はい、うちになんの用で…え…」


 そうして玄関のドアを開けた先に待っていたのは、予想外の人物だった。


「…………」


「聖奈…?」


 俺を嫌っているはずの幼馴染、羽鳥聖奈が顔を俯かせながら、何故か俺の家の前に立っていたのだ。


「どうして俺んちに…」


 昨日あれだけ嫌ってきたというのに何故…そんな疑問に口にしようとした時だった。


「違うの…」


「え…」


 ポツリと、聖奈が小さく呟いた。


「その、違うの…あんなこと、するつもりなんてなくて…」


「あんなこと…?」


 どんなことだ?心当たりが多すぎるんだが。


「えと、あの…昨日、光太郎のことを、私蹴っちゃって…」


「あー…」


 まぁ確かに蹴られたな。自然と蹴られた二の腕に視線がいってしまうが、それを見て聖奈は顔を僅かに曇らせる。


「……ごめん」


「いや、気にすんなよ。昨日のことは俺も悪かったし」


 本当ならここで弱みにつけこんでも良かったのかもしれないが、俺にも催眠術をかけてしまったという負い目があった。

 だけど、聖奈は首を横に振る。


「ううん…私、ほんとにあんなことするつもりじゃ…いつもなら絶対あんなの…」


 なんだろう、聖奈のやつなんかめちゃくちゃへこんでるぞ。

 そこまでいつもと変わりなかったと思うんだけどな。


「だから気にするなって。俺は全然気にしてないから。聖奈だっていつも通りだったし…」


「違う!」


 慰めるつもりもなかったが、とりあえず気休めの言葉をかけようとしたところで、割って入る切り裂くような大声。


「うおっ!」


「違うから!私、あんなこと絶対しないもん!」


 何故か聖奈は必死に否定してくるが、俺からすればちんぷんかんぷんだ。


「えっと…」


「私が光太郎に暴力振るったことなんて、一度もなかったじゃん!そんなこと私するはずがないもの!」


 怒りを顕にして聖奈が叫ぶ。

 その迫力に、俺は思わずたじろいだ。


「そ、そうだったか?」


「そうだよ!?だからお願い、嫌いにならないで…」


 聖奈は目を潤ませて俺を見る。

 それを見て、俺は一瞬言葉が詰まってしまった。


(う、やべ。可愛い…)


 まさか聖奈のこんな姿を見ることになろうとは。

 いつも気の強い一面しか見ていなかったから、こんな表情ができるなんてことも知らなかった。


「光太郎…」


「き、嫌いじゃない…」


 だからだろうか。

 気付けば、俺は口走っていた。


「え…」


「俺は元々、聖奈のことをそんなに嫌っているわけじゃなくて…むしろ嫌われてると思ってたっつーか…」


 実際、俺は聖奈を心から嫌ってたわけじゃない。ただちょっとだけでいいから、態度をマシにして欲しかったっていうか…くそ、上手く言えないな。

 しおらしい聖奈を前にしどろもどろになりながら、自分の本心を打ち明けていく俺に、聖奈はゆっくりと首を振った。



「私、光太郎を嫌ってなんてないよ…」


 その言葉が、俺には本当に意外だった。

 だからか、思わず聞き返してしまう。


「ほんとか…?」


「うん、だって…」


 そして聖奈は一度大きく息を吸い、


「わ、私…光太郎のこと、好きなんだもの…」


 そんなことを、告白してきた。




「…………へ?」


 一瞬、俺はなにを言われたのかわからなかった。


「だ、だから!光太郎のことが好きだって言ってるの!何度も言わせないでよ!」


 ぷいっと顔を逸らす聖奈。

 その横顔は真っ赤だ。それが聖奈の告白が事実であるということを如実に示しているようで、なんだかこっちまで照れてきてしまう。


「え、ま、マジで…?」


「う、うん…」


「だ、だってお前、これまであんなに俺のこと馬鹿にしてただろ。それなのに…」


「あ、あれは照れくさくって…ほんとはあんなこと言いたくなかったんだけど、口が勝手に…いっつも後悔してたんだけど、どうしても治せなくて…」


「そ、そうだったのか…」


「うん…」


 ……どうしよう。すごい微妙な空気になってしまった。

 ていうか、マジかよ。俺のこと好きって…これまで素直になれなくて、あんな態度取ってたってことか?


(つまり聖奈はツンデレだったわけか…)


 衝撃の事実が判明したわけだが、ツンデレとかリアルでやられるとわかんねーよ…

 ていうか伝わらないツンとか、ただの性格の悪いやつじゃねーか。

 呆れのほうが上回り、生憎と俺の聖奈に対する好感度が反転することはなさそうだが、それでも真実がわかるとなんというか、脱力しちまうものがある。


「そ、それで、どうなの…?」


「へ…?」


 え、どうとは…?


「わ、私と付き合うのかって聞いているのよ!?」


「え、あ、ああ…そういう…」


 キレ気味に言われてようやく気づくも、どうしよう。

 そもそも俺は聖奈のことをよく思っているわけじゃないし、付き合いたいかって言われると…


「あの、その…」


「付き合うわよね!?」


 え、ちょ、圧がつよ…


「今思い出したんだけど、あの時光太郎なんか変なことしてきたわよね!?あのせいで私、もしかしてあんなことしちゃったんじゃないの!?」


「ぎくぅっ!」


 げ、コイツ、無駄に勘がいいぞ!

 実際催眠術をかけたのは事実だから変なことをしたのは確かなんだが、俺は蹴りを食らったわけで、どちらかというとマイナスでしかなかったんだが…


「ほら、動揺してる!なに企んでたのかしらないけど、あんなことしてきた責任は取ってもらうんだからね!」


 ビシッと俺を指差してくる聖奈の顔は真っ赤だったが、引くつもりがないことが伝わってくる。

 俺が頷かない限り、この場から動かないと、そう言っているように思えた。


「わ、わかったよ…」


「その返事、私と付き合うってことでいいのよね?」


「あ、ああ…」


 結局、俺は聖奈に屈した。

 強引に頷かされる俺と、満足そうな表情を浮かべる聖奈。


「ふふん、さっさとそう言っておけばよかったのよ♪」


「ううう…」


 これが本当にこれから付き合う男女の構図なんだろうか。

 なんだがこれから先、聖奈の尻に敷かれる未来が既に見えてしまっているようで、なんか早くもつらいんだけど…

 うなだれる俺に、聖奈は手を差し延べてくる。


「ほら、じゃあ早速だけど、手を繋ぎましょ」


 笑顔を浮かべている聖奈は、なんだか楽しそうだった。


「……ここでデレを見せられてもなぁ」


 もっとわかりやすかったら、もっと助かったんだけど。

 盛大にため息をつきながら、俺はその手を握り締めるのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] くろねこさんの短編集で1番これが好き
[一言] あれ?ツンデレ幼馴染みとうまくいってる? …おかしい。この作者さんの作品でそんなこと、あるはずが… ツンデレが素直になったのなら、いっか!
[一言] バッドエンドかと思いましたが催眠とけて助かったな主人公 まぎらわしいツンデレも解除されていい方向に…… でも催眠とけなかったらバッドエンドだから危ない綱渡りでしたな
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