知らない光景
私、小谷 紗矢は、夢を見ていた。
それは、私の周りの人が、どんどん消えていく夢。
見えない何かが、近づいてくる。
それに触れてしまったら最後。
消えてしまう。
私は必死に逃げた。学校内を走り回った。
息が上がる。後ろを見る。友達が暗闇に消えていった。
『紗矢!紗矢、助け…あっ。』
また一人、暗闇に消えた。
逃げるしかない。とにかく、遠くへ。
私だけでも、助かりたい。
そんな思いで懸命に走っていた。
気づけば、周りの人がいなかった。みんな消えた。
振り向くと、暗闇も消えていた。
『紗矢、助けて!』
頭の中に響く、友達の声。暗闇に消える友達の顔が脳裏に焼き付いて離れない。
それを取っ払いたくて、私はずっと走り続けたー
「っ!」
へんな夢を見ていた。妙にリアルな夢だった。
じんわりと汗をかいた背中。
皆はまだ、寝ている。
まだ夜が明けていないが、私はもう一度寝る気にはなれなくて、教室を出た。
屋上へ向かう階段を上る。
少し怖かった。薄暗いし、一人だし。
でも、今は一人で居たかった。
屋上に出る扉を開ける。
冬の冷たい空気が私を包む。それが、私の心を穏やかにした。
屋上のフェンス近くに行くと、この街全体を見渡せた。
まだ、開け切っていない夜。
壊れている街。
街が紫色に染まっている。
言葉が悪いかもしれないが、その光景が幻想的だった。
別世界のように思えた。
まるで、私以外の人がこの世からいなくなったみたいだ、と思った。
突然、風が吹いた。
髪の毛と制服をなびかせる強い風。
「っ!はあ。」
息苦しい。突然、言いようのない息苦しさに襲われた。
足元がふらついて、まっすぐ歩けない。
ガシャン!
フェンスにもたれかかる。その瞬間、一つの光景が頭の中に流れた。
フェンスの外側に立つ一人の少女。
日焼けのしてない白い肌。
短く切りそろえられた髪。
顔も見えないその少女は強い風と共に消えていった。
知らない光景。記憶にもない。
「何、これ。」
乾いた唇からはそんな言葉しか出てこなかった。
自分を落ち着かせるために、その場にしゃがみ込んだ。
すると、足元で光る何かを見つけた。
手に取り、目の高さまで持ち上げるとそれの正体がわかった。
ネックレスだ。
同じ大きさの小さい正方形が四つ。
真ん中の正方形に少し重なるように左上、右上、右下についている。
左上の正方形だけ、青い色をしていた。
ネックレスは、だいぶ汚れていて、刻まれた名前が読めなかった。
私はとりあえず、それをポケットにしまい、屋上を後にした。
その後、いつも通りカブ太郎が来て、話をして帰った。
そしてまた、みんなで株谷浩介を探した。
今回は電気が直ったので九時くらいまで頑張った。
だが、資料が多すぎて、見つけられなかった。
ノートに“ スーパー、コンビニを使えるように” と書き、みんなで談笑した。
私はその間、誰にも今朝の出来事を話さなかった。
あの夢と、知らない光景はなんだったのだろう。
今回も読んでいただき、ありがとうございます。
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