ノートの条件
「おはよう」
私が教室に入ると、既に皆がいた。
「千晴、おはよう。」
「今日は、みんな来るの早いね。」
「あはは、まあ、寂しかったからね。」
「俺も。家に帰ったら、電気はつかねえし、水は出ねえし。」
「スマホも使えない。」
皆も寂しかったんだ…!ちょっと安心。
だけど、仲岡達也が愚痴を言っている時にずっと、端山の肩に腕をかけているのは、少し笑う。仲岡も寂しかったんだ…!
「とりあえず、話し合いを始めようか。」
紗矢の言葉で教室内に少し緊張が走る。
自然と話し合いの中心は紗矢になっていた。
「あっ!話し合いするの?だったら一つ提案。」
木村颯斗が声を上げた。
「颯斗?どうしたの。」
「話し合いで決めたことや、出てきた案を黒板に書こうよ。忘れないようにさ。」
「いいね!黒板だったら皆が見ることができるし。」
「ありがとう。颯斗。」
彼は軽く手を上げて答えた。
「よし、何か言いたいことがある人、いる?」
「はい。」
「はい、花音。」
「昨日、家に帰ったら家族が居たんだけどね。やっぱり同じなの。意識ないの。どうにかできない?どうすれば治るの?」
「うーん。わかんないや。」
「じゃあ、今度は僕。」
「はい、端山。」
「カブトムシが持ってきたノート、どうする?最初、何やる?」
「あー。なんか考えることこと多い。やだなー。」
「とりあえず、水でしょ。」
「いや、電気でしょ。」
「建物直そうよ。」
「皆の意識、戻せないの?」
皆、それぞれ話し出してしまった。
「あー、もう。ちょっと待って。とりあえず、千晴は?」
「何でもいいよ。」
「それが一番困るんだけど……。本っ当、機械的。感情がないな、千晴は。」
「えっ!何?」
声が小さくて聞き取れない、紗矢の言葉。それがなんとか?何と言ったのだろう?
「何でもない。とりあえず、ノートに書くことを決めよう。」
そうして私たちは、ノートに書く、解消したいことを話した。それが以下の通りだ。
・水関係
・電気関係
・壊れた建物
・道路
・皆の意識
「さてと、どうしようか?」
「うーん。やっぱり水?水なきゃ生きていけないし。」
「ってか、腹減ったー。俺、朝から何も食べてない。」
「仲岡、ガマンしろ。」
「えー。」
「食べ物の確保も必要だね。」
「うん。」
「でも、水かな。皆はどう?」
「水〜。」
「俺、食べ物。」
「私、スマホ〜。」
「あー。多数決とりまーす。」
水,17人 電気,12人 食べ物,6人
「はい、じゃあ水。ノートに書いてー、千晴。」
「了解。」
「ちょっと待て、千晴。」
「何?仲岡。」
「俺、ヤバイことに気がついちまった……。」
「なっ、何?」
仲岡は少し間を空けてから、こう言った。
「“この世界を元どおりにして下さい” って書けば終わりじゃん。」
『……。』
「わー!」
「確かに!」
「気がつかなかった!」
「私たちはバカなのか?!こんな簡単なことにも気がつかないなんて。」
教室内は大騒ぎ。皆、興奮気味だ。
「ちょっ、早く書こう!」
「紗矢、ちょっと落ち着いて。」
「落ち着いてられないよ。もういいや、仲岡書け。」
「えっ、俺?」
「仲岡が気がついたんだから。」
「これ、シャーペン?ペン?どっちで書いたほうがいい?」
「そんなのどっちでもいいよ。」
「小谷、興奮しすぎー。笑えるww。」
「笑うな。いいから書け。」
「はいはい。」
「書くぞ。いいか皆?」
仲岡は皆が頷くのを確認してから、ノートに書いた。
“この世界を元どおりにして下さい。”
仲岡の字を皆が見つめていると、だんだん文字が薄くなってきた。
ゴクリ。
文字がノートに吸収されていく。
ドキドキ。
文字が消えた。が、何も起こらない。
『……。』
シーン。それしか、今の状況を上手く言い表せる言葉がない。
「何で?」
「できないってことですよ、皆さん。」
「その声はもしかして!」
『カブトムシ〜』
「やめろ、そのコールの仕方。気持ち悪い。……それはさておき、おはようございます。皆さん今日は全員いますか?」
カブトムシこと株野太郎がやってきた。手にはバインダーを持っているが、相変わらずカブトムシの格好をしている。
「できないってどういうこと?」
「大雑把なことはできないのです。もっと具体的に書かないと。」
「具体的に……。全世界で水が使えるようにして下さい、みたいな感じ?」
「そうですね。ただ、いくらこのノートがすごいと言っても書いてすぐに出来る訳ではありません。毎回午前0時ごろに直ると思います。」
「えー。時間かかるじゃん。」
「逆を言えば、それくらいの時間さえあれば世界を変えられるってことです。」
「カブトムシさんは、それだけを言いにきたの?」
「いいえ、あと一つお伝えしなければならないことがあります。それは、ノートは、1日1回しか使えないということです。今日は、それだけを伝えにきました。
あっ、ちなみに私は毎日来ますので、よろしくです。では、また。皆さん、頑張ってください。」
そう言ってカブトムシは去っていった。
「何なの?あのカブトムシ……。」
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