何度も申し上げましたよ
「駅の中ではイヤホンをしないでください。思わぬお客様との接触をしてしまう恐れがあります」
駅構内のアナウンスが告げる。
しかし、最近の者はその言葉を聞く機会なく、堂々とイヤホンをつけている。
今回の迷える女性会社員もそうだ。
彼女は、それに加えてスマホで歩きながらゲームをしている。駅員が駆け寄って注意するが、聞く耳を持たない。
「私どもは何度も申し上げましたよ」
そう言って、駅員たちは女性の側から離れていった。
(忙しいのかしら。大変ね)
そう思いながらゲームを続けていた女性は、ある女とぶつかる。その女はガリガリにやせていて、餓鬼のような体系をしていた。
頬もやせこけ、全体からは悪臭を放っていた。
「きっしょ」
女性はあまりの女の異質さを面白がり、写メを一枚撮った。そしてそれをSNSに投降したのだ。
――は――れ……
「な、なに!?」
女は女性の足首を掴むと、駅のタイルの中へと引きずり込もうとした。女の声を聴きとれなかった女性はパニックになりながら、イヤホンを外す。
気づけば周囲に人っ子一人いなかった。
視界はぐらりと揺れて、次第に赤く染まっていく。
――お前は手遅れ……
バキッバキッ。
音を立てて圧縮されていく女性の体。
「いやぁあああああ‼」
駅構内に残ったのは、彼女のスマートフォンだけだった。
後に、それを見つけた駅員が二人で会話をしていた。
「まーた落とし物かよ」
「最近多いよな。何度も申し上げましたよって言ったのに」
「そういえば、今日もこの駅で人身事故出たらしい。さっき連絡来てた」
「うっわ、めんどくせ」
「なんかいるんじゃねえの、この駅」
「いるってぇと、最近イヤホンしたままの客と接触して事故った奴ぐらいしか思いつかねぇわ」
「そのあとの事故。本当に多いもんな」
「何度も注意しなきゃいけないこっちの身にもなってほしいね」
「マジそれ」
「ん。ロックかかってないな。これ」
「覗いちゃいます?」
「ま。いいだろ。落とす方が悪いんだ」
二人は女性のSNSを勝手に見て身震いする。
投稿写真には、血まみれの女性が駅員の背後に映っていた――
「どうして言ってくれなかったの」
その言葉と共にアカウントは凍結してしまった。