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「いや……食事中にすまないな」



 困ったようにロバートさんが笑う。

 彼の表情は、私に呆れているようにも見えて、居た堪れなさから頭を抱えたくなった。

 それに……周囲の私を見る目がどんなものを含んでいるのか、恐くて他の人の顔を一瞬たりとも見られない。

 もし、蔑むような視線で薄笑いを浮かべていたとしたら、絶対に傷つく自信がある。



「君を護衛するにあたり、隠密の必要性がなくなったので、今後は団員全体で護衛の順番を組んでいきたいと考えているのだが、承知してくれるか?」


「勿論、異論なんてないわ」



 私は、瞬時に即答した。

 守ってもらう立場で、図々しく反対なんて出来るはずもない。



「では、団員がこの場に揃っている今の状況を利用して、軽い自己紹介をしていこうと思う。マリーと面識のない者はよろしく頼む」


「はいっ!」



 ロバートさんが言い終わるなり、元気よく手が上がった。

 その手の主は、クリスさんを大声で呼んだ少年騎士だった。



「騎士になるため田舎からやってきた、コーディ・ベイツです!最っ強の騎士を目指してます!」



 少年とも少女とも言えるような、やや低めの掠れた声が耳に届く。

 コーディさんをよく見ると、シュッとした頬にはうっすらとそばかすが散っている。

 ハキハキと元気良く喋る様は、周囲を明るくするムードメーカーのような存在に見えた。



「歳は十三です!非番の時は剣の稽古や身体を鍛えています!悩みは筋肉が付きづらいことです!尊敬する人はサイムズ団長で、出身地はフロスト地方、家族構成はーー」


「待て待て待てっ!お前の紹介だけで、昼が終わるぞ!俺にも紹介させてくれ!」


「す、すみません!僕のことを知って欲しくて、しゃべり過ぎちゃいました……」



 キザっぽい、髪の長い男の言葉に、コーディさんが頭をかいた。

 わざとらしくキザな男が咳払いをする。



「では気を取り直してっと……。俺の名はテッド・ボナー。見ての通り、ルーデンス一の美形剣士で、俺の美しさに並び立てる者はいない。好きに見惚れて構わんぞ」


「……は、はぁ」



 思わぬ自画自賛に、笑顔がひくつく。

 確かに顔は整ってる方かもしれないけど、自分で言っちゃう所が、何というか……残念だ。

 自信満々な顔で私の言葉を待っている姿に、何と言うべきか困っていると、ズズズズズッとスープを飲む大きな音が聞こえた。

 音の発生源を確認すると、色黒の男が周囲の目を気にしないとばかりに、大きな口で食事を平らげていた。



「おいっ!デューク!俺の完璧で素晴らしい自己紹介に水を差すとは許せん!」


「クソナルシストが……。テメエの紹介なんざ興味ねえんだよ」


「そ、そんな事はないっ!マリーは熱心に聞いてくれたぞ!」


「それはテメエの妄想だ」



 テッドさんが驚きに大きく目を見開いた後、顔が悲しげに歪む。



「なん、だと……。全て俺の願望が作り出した産物だとでも言うのか……!?では、目の前にいるマリーももしや…………妄想っ!?」


「馬鹿は放っておいて、僕の向かって右斜めに座ってる反抗的な態度の人、早く自分を紹介しなよ」



 クリスさんが冷たい目でテッドさんを一瞥し、斜め向かいへ視線をやる。

 視線を受けた当人は面倒そうに鼻を鳴らした。



「ふんっ、クソだりいな。デューク、以上」



 言い終わるなり、デュークさんがフォークを厚切りの肉に突き刺し、一気に噛みつく。

 もう自分は関係ないとばかりに、肉を咀嚼するデュークさんに、座高が低い小柄な少年が注意する。



「おいおい、人間関係において一番初めの印象って大事だぜ?しゃんとしようや」


「うるせぇな。見るからに貧弱で弱そうだし、興味なし」


「はあ……仕方ねえ、代わりに紹介してやるよ。こいつはデューク・ファーガソン。戦いにしか興味持ちやがらねえ戦闘狂だ。いつも誰かと張り合って、戦いを挑んでくる面倒な奴だ」



 …………眼中になくて良かった。

 心からそう思う。

 お陰で戦いを挑まれることもなさそう。


 安堵で胸を撫で下ろしている最中、デュークさんは顔を一気に顰め、乱雑にフォークを皿へ叩きつけた。

 そして、怖い顔で少年を睨みつける。



「……おい。喧嘩売ってんのか?」


「てめえの自己紹介も満足に出来ねえからだろ」


「……ちっ」



 不機嫌そうにデュークさんが舌打ちをして、乱暴にフォークで肉を突き刺し、無言で食べ始めた。

 少年はそんなデュークさんを横目にして、苦笑する。



「見苦しい所を見せちまったな。俺はギルバート、訳あって姓は名乗れねえ。第四騎士団で一番の古株だ。宜しくな、嬢ちゃん」


「はい……って、え?ギルバートさんっていくつなんですか!?」



 私と同い年、もしくはそれよりも下に見える。

 申し訳ないが、歳が上には思えない。

 声変わりがしてない高めの声に、小柄な身体。

 なのに、古株って一体いくつなの……!?


 私の疑問にクリスさんが口を開く。



「ギルさんの年齢は僕らも知らないけど、団員の中で一番の年長者であることは間違いないかな」


「ええっ!!」



 思わず、周りを見渡してしまう。

 この中だと、ロバートさんが一番歳上に見えるんだけど……。

 ギルバートさんって本当にいくつなんだ?



「なんだ?そんなに俺のことが気になるのか?」


「気になりますけど……」



 だって、どう見たって未成年にしか見えないのに、確実に成人しているであろうロバートさんより上ってことは、ギルバートさんも成人してるってことでしょう?

 肌だって、フクフクでモチモチッとした柔肌に見える。

 どうやってその若さを保っているのか、すごく気になる。



「……へえ?お前って変わった趣味してんだな」


「いやいや、みんな気になると思いますよ。その若さの秘訣は歳をとるにつれて、全人類が知りたがる程の情報です!誰だって、若くて健康でいたいはずですから!」


「その意見、俺も同意する。俺の美しさが損なわれでもしたら、国の……いや、世界の損失だからな!是非、俺にも秘訣を聞かせて下さいっ!!」



 会話に入ってきたテッドさんの熱量は凄まじいものがあった。

 彼の真剣さに、ギルバートさんが身体を退け反らせる。



「あのなあ……そんなのねえよ。背が小せえのも、顔が幼ねえのも、完全に体質だ。なんだったら、テッドと身体を交換してえぐらいだぜ」


「……なに!この美剣士の身体を狙っているのですか!?」


「はあぁ……?」


「そう思ってしまうのも無理はない……!俺の身体は完璧かつ美しく、人類の憧れ!たとえ、微生物であろうとも生きとし生けるものは俺を羨み、俺と身体を交換したいと思っていることだろう……」



 テッドさんがぶつぶつと自画自賛しているのを苦笑いで見ていると、突然、手を叩く大きな音が響いた。

 大きな音の参入に流石のテッドさんも喋るのをやめ、場が水を打ったように静かになった。

 そして、手を鳴らした本人ーーロバートさんが口を開く。



「以上、総勢7名がウチの団員だ。何か聞きたいことはあるか?」


「皆さん、仲がいいんですか?」



 自己紹介してもらって確信したけど、みんな特徴があって、存在が濃い。

 一緒にご飯を食べてるくらいだから、仲は悪くないんだろうけど、一応本人達に聞いてみたくなった。

 私の質問に、いち早く反応したのは、色黒のデュークさんだった。

 食べ終わった皿に、持っていたフォークを呆然としながら落として、次の瞬間には明らかに同様した様子で捲し立てた。



「馬鹿じゃねえの!?別に仲良くなんてない!俺は誰とも馴れ合わないからな……!」


「そういう割には、いつも僕たちと食事してるよねえ?一人で食べてる人も多いのにさ」


「う、うるせえっ!」



 揶揄うように口角を上げたクリスさんに、デュークさんが顔を真っ赤に染めながら怒鳴る。

 大声で騒いでいるからか、食堂にいる周囲の目を集めてしまい、その視線が痛くなって来た頃、今まで一言も発さず、静かに食事をしていたクライドさんが口を開いた。



「……クリス、あまりデュークを揶揄うな」



 空気を読んだのか、クリスさんが揶揄うのを止めると、邪気のない笑顔でコーディさんが元気に答えた。



「仲はとても良いです!僕は団員のみんなが大好きですっ!」



 彼らの仲はコーディさんの言葉に集結しているように思えた。

 口論はしているが、何処か楽しそうで、まるで友達同士の戯れのようだ。

 佇まいを素早く正して、私は団員達に向き合った。



「改めまして、マリーです。よろしくお願いします。みんなの和の中に私も入れてくれると嬉しいです」




 ***




 食事を済ませた私とクリスさんは、仕事部屋に向かうべく、元来た道を歩いていた。

 食堂では彼らの雰囲気に呑まれ、何度も笑ってしまった。

 自然と足取りが軽やかになる。



「凄く賑やかな食事でした!私、あんなの初めてです」


「そう?僕らはいつもあんな感じだなあ」


「楽しくていいですね」


「……まあね」



 そう呟いたクリスさんの顔は穏やかに微笑んでいた。

 その表情だけで、彼が仲間を大切に思っていることが伝わってくるようだった。






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