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「えっと……どうしてですか?」



 わざわざ親が頼んでくるくらいだ。

 もしかして、芸術に没頭し過ぎて友達がいないとか?


 一人で壺作りに勤む王子を想像する。


 自己完結の世界作ってる人って話しかけづらいよね……。


 王は相変わらず、真剣な瞳で訴えかけてくる。



「込み入った事情があって、息子は人から避けられており、私も簡単に会うことが出来ぬ立場。しがらみのないマリーならば、息子の良い友人になってくれるのではと思うたのだ。もちろん無理にとは言わぬ」



 つまり、芸術にのめり込み過ぎた王子は、うんちくばかり垂れるので友達が出来ず、部屋に篭ってばかりいるので王も中々会いづらい、ということか。

 でも、"しがらみのない私ならば"って何?

 ……あれ、もしかして王子と同類だって思われてる?なんでぇ!?


 "しがらみのないマリー"という言葉が、脳内で勝手に"同類のマリー"に変換される。


 困ったな……。興味ないから、芸術には全くもって詳しくないんだけど……。


 私が頭を悩ませていると、王が慌てるように口を開く。



「いきなり友人とはちと早急過ぎたな。気が向いたらでいいのだ……」



 捨てられた子犬のような健気な瞳で懇願されると、断れない気持ちになっていく。

 自然と口からは承諾の意を唱えていた。



「……まあ、会うだけなら」


「良いのか!?感謝する!」


「手土産に自作の壺とか持っていきましょうか?」


「壺……?いや、不要だ。身一つで構わぬ」



 話題作りに良いアイディアだと思ったけど、断られたのでやめておく。



「後で案内を寄越すので、気が向いた時にでも話し相手になってくれたら嬉しく思う。息子の名はアルバート、この国の第二王子だ。どうか名前で呼んでやって欲しい」


「第二王子?王って子供が何人いるんですか?」


「息子二人だ」



 勝手に子供は一人だと思い込んでいた。

 今まで第二王子のことを聞いたことがなかったから。



「今日はこの部屋の資料を読みたいのと、気持ちの整理をしておきたいので、明日に会いに行きますね」


「よろしく頼む。今後のことを含め、関係者には伝えておく。私はもう行くが、何かあれば遠慮なく言ってくれ」



 そう言い残して、王は部屋から出ていった。

 一人になって、改めて部屋の中をぐるりと見渡す。

 本棚に囲まれた部屋は、何処から手を付けて良いのか迷ってしまう。

 悩みながら、目を滑らせていく。


 適当でいいか……。


 目の前にある紙束を取り出して、机に座る。

 パリパリになった古い紙を破らないよう、慎重にめくっていく。

 報告記とタイトル付された紙束は、文字通り、日々の事柄を日付と共に記すだけのものであった。



 ブラッグ地方で重度の犯罪が多発。組織的な関与が疑われる。早急な対応が必要ーー。


 ゴルボン鉱山では、質の良い青い石がよく獲れる。磨けば、光り輝くように見える石はルーデンスの特産物であり、他国から見て希少性が高いーー。


 ルーデンスでは、独自の風習を持つ村が多い。村同士の対立も目立っており、最低限の意識的統一は必須ーー。



 紙の文字をなぞりながら集中して読んでいると、部屋のドアが突飛なく叩かれ、そこへ目を向ける。



「僕だけど、お昼ご飯の時間だから、休憩しない?」



 扉越しに声をかけられ、私は慌てて立ち上がり、その人物の方へ近付いていった。

 扉を開けると、笑顔のクリスさんが目の前に立っている。



「もしかして、ずっと扉の前に居たんですか?」


「それも仕事の内だからね。君、朝から何も食べてないでしょ?時間が過ぎたら、また食べ損ねちゃうから、早く行くよ」



 付き合わせてしまって申し訳ない気持ちになりながら、クリスさんの横を歩く。

 たどり着いた食堂は、大勢の人で溢れかえっていた。

 こんなに人が集まっている場を見たのは初めてかもしれない。

 知らず知らずに圧倒されてしまっている。

 がやがやとうるさくも活気ある場は、楽しげに見えた。



「何ぼんやりしてるのさ。何頼むか決まった?」


「ま、まだです!すぐ決めます……えっと」



 メニューにはよく分からない品書きがずらりと書かれていた。

 正直どんな料理が出てくるのか、よく分からない。

 メニューを凝視して悩んでいるとーー。



「取り敢えず、無難なAセットにしたら?」



 そうクリスさんが提案してくれたので、今日はそれに乗る事にする。



「じゃあ、Aセットにします」


「Aセット二つね」



 クリスさんが、食堂の人に声を掛けると、食堂の人は皿の上に料理を盛り付けていく。



「Aセットお待ち」



 出来上がったAセットを持って、クリスさんの後をついて行くと、大きな大声が彼を呼んだ。



「あっ、ブレアムさ〜ん!ここですっ!!」



 元気に手を振る少年は、大勢の人が賑わう中で一際目立っていた。

 少年と食事を取り囲む一員を見てみると、ロバートさんとクライドさんの顔がある。


 もしかして、第四騎士団員の人達?



「相変わらず、元気だなあ……うちの新人騎士は」



 クリスさんの影から顔を出して、まじまじと顔触れを確認していると、呆れたようにクリスさんが声を発した。

 新人騎士と言われた少年の顔つきは何処となく幼く、同い年くらいに見えた。

 少年を凝視していると、少年の視線がクリスさんから私へ向けられた。



「その人は……?」


「あれ?話、伝わってない?この子は僕たちの護衛対象だよ」


「マリーです。これからよろしくお願いします」



 私の話になったので、簡単に挨拶をした。

 じっと私を見つめる複数の視線に、少し狼狽えると、グラスの中の飲み物が跳ね、慌ててお盆の方へ意識を向ける。


 ……危ない。もう少しで溢すところだった。



「ずっと立っているのも何だ。好きに座ってくれ」



 ロバートさんの好意に甘え、隣の席の人に軽く会釈をしてから空いている席へと座る。

 同じく席に座ったクリスさんが無言で食べ始めたので、私もAセットを食べ始めた。


 ……おいしい!流石王宮!ご飯に外れがないわ!



「ーーどう思う?マリー」



 食事に夢中になっていると、いきなり会話を振られ、我に返る。

 どうやら、知らぬ間に会話が弾んでいたらしい。


 食事に夢中で聞いてなかったとか恥ずかしい。

 絶対、食い意地張ってるとか思われた。


 自然と顔に熱が集まってくる。



「もう一度……言ってくれる?」



 人の話はちゃんと聞こう……。

 そう心に刻み込んだ。







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