番外編4 大学で 7
今日はもう授業はないが、僕たちは近くのベンチに座って雑談を再び開始した。
「そういえばさ、TeXってどういうきっかけで覚えた?」
僕はしふぉんに聞いてみる。しふぉんは、高校のときに「Wordじゃ無理があるのかな」と思い始めてTeXに移行したといっていた。それ以来WordはDocx形式という指定がある場合以外は利用していないらしい。
僕は、大学の合格発表から今までの1か月で覚えた。それまではWordでも問題ない、まぁまぁきれいに作れると思っていたのだが、TeXを覚えてから考え方が180度変わった。今となっては数式が出てくる文書をWordで作るなど到底考えられないとさえ感じるようになっていた。
「俺、TeX覚えてないんだけど……。やっぱり覚えた方がいいのかな?」
宮田は僕たちに尋ねる。実際、何か新しいことを始めるにはそれなりの労力が必要だろう。物理の演習の授業もあるが、あれは提出の形式は指定されていない。(手書きで作成する人が多いが、Wordで提出する人もいるし、TeXを使って記述する人も少なくない割合で存在しているらしい)。
2個上の先輩から、自分が目指している学科の2年次の授業にTeX指定がある授業があるから、それまでに覚えておくとよいとは言われていた。春休みに覚える必要はなかったのかもしれないが、何かと役に立つ可能性は高いので覚えて損ということはないだろうと認識している。僕は、そんな感じのことを宮田に伝えた。
彼は納得してくれているようだった。
「あれ、しふぉんって現役?」
宮田は尋ねる。彼女は、現役だよ、と答えた。宮田は私立大学の経済学部で仮面した末にここに来たと話していた。
2024年の入試問題は数学の問題の大問2の難易度が異常であり、終わった瞬間の絶望感が半端なかったという。その問題は、典型題に見えるが実際に手を出すと沼にはまるタイプの問題だ。他の問題も全体的に難易度が高かったとされ、合格者でさえ120~130点代が普通だったらしい。200点を超えていれば数強といった難易度だったようだ。
2025年は、昨年の反省を受けたのか全体的にやりやすかった。もちろん、難問もあったが、絶望するほどではなかった。完答は厳しくても部分点を取れるタイプだった。自己採点でも195点と出ている。成績は5月末に郵送されるが、今年の合格最低点は422点とのことだった。2024年の合格最低点が377点だったことからも難易度の推移がわかるだろう。
「あれは事故だったなぁ」
宮田は回想する。僕は、その大惨事を想像することしかできなかった。
正直、自分が浪人していた世界を想像てきていないというのはある。確か大学は4つ受けた。優先順位は設けていたが、どれかに引っかかればそこに行くくらいの気持ちでいた。仮面浪人していたかまではわからないが、少なくとも、受かっている大学がある限りは普通の浪人はしていなかっただろうと考えている。
しふぉんも同じ方針だったようだが、仮面浪人をしていた可能性はあると話している。しふぉんの親が浪人だったらしく、「しないに越したことはないが、してもいい」みたいな方針だったようだ。弟は芸術大学を目指しているらしいと聞いているが、自分にとっては正直未知の領域すぎてイメージができなかった。
「関西というよりは関東に来るつもりでね、そこで理系の大学としてここを第一志望にしたってわけ」
しふぉんは話す。僕は、理系という使命を持って生まれてきた人間を自称する彼女にとって、ここはいい大学なのかもしれないと思うようになっていた。




