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番外編4 大学で 6

「しふぉんって本当に何でも話せる気がするわ」


 宮田はそう言った。あだ名のしふぉん呼びにも抵抗が一切ないらしい。


「話しかけやすい人って本当によく言われる。悪い意味じゃないのは解ってるし、話しかけにくいという印象より全然いい、というか嬉しいんだけど」


 しふぉんはそういった。男子からは男子と話してる気分で話せて気が楽だと言われるとも言っていた。


 しふぉんはそんな話をしながら、カバンの中にあった力学のテキストを取り出した。今は自由落下の内容を扱っている。速さの2乗に比例する空気抵抗を扱っているところだ。


「空気の2乗に比例する抵抗ということは、最終的には一定の速度に収束するってことかな。微分方程式の形的に場合分けがいりそうだけど」


 しふぉんは話す。


「その辺、全然理解できてないんだよね」


 僕はそうリアクションした。微分方程式の解き方はあまり理解できていないが、この形は逆双曲線関数が出てきた記憶がある。いずれにせよ計算が大変なのは間違いない。


「投げ上げだったら、落ち始めるまではタンジェントになって、落ち始めてからはチャンジェント……って読むのかな?になりそうだね」


 チャンジェントとはtanh関数ハイパボリックタンジェントのことらしい。シャイン(sinh)・コシャイン(cosh)と来たら次はチャンジェントだろうという謎の推測で彼女が作った言葉とのことだった。


 僕は宮田と一緒にしふぉんの教科書を見ながら講義の予習を行っていた。そんな中、ページの右下に「1+1/4+…=$π^2/6$」という数式が書かれているのが目に留まった。


「これ、バーゼル問題じゃん」


 バーゼル問題とは、平方数の逆数和はいくつになるか?という問題であり、問題提起から100年近くもの間解かれていなかった難問である。答えは円周率を2乗したものを6で割った値になる。中学生のころこれを知ったとき本当に驚いたことを今でも覚えているのだ。


「あーこれね、高3のときにネットで面白い証明見つけてね、それが確か積分を使うものだったんだよね。cos x と$x^2$ sin xの0からπ/2まで積分して漸化式出すやつなんだけど。これ面白いなって思って、理系の友達にDiscordで電話で『寝てるときふと思ったんだけど……』って言いながら証明読み上げたら『は?』って言われちゃってね。深夜2時だったっけ」


 正直な話、2時にいきなり友達から電話がかかってきて出た瞬間に数式を言われたら誰でも「は?」となるだろう。しふぉんは、でもその友達は最後まで話聞いてくれてうれしかった、といっていた。

 

 僕は思わず笑ってしまった。


「ちなみに、その証明って今持ってる?」


 僕はしふぉんに聞いてみる。しふぉんは、とっさには出てこない、見つかったらTwitterのDMで連絡する、といってくれた。


「しふぉん、本当に数学好きなんだね」


 宮田はしふぉんが数学好きなのを理解したようだ。僕は、しふぉんを改めて尊敬するようになっていた。


 他にも最近証明をウェブ上で見つけた無限積(1×(1+1/4)×(1+1/9)×……=sinhπ/π)の証明についても話してくれた。僕たちは、しふぉんの知識量に圧巻され、ただただ話を聞いていることしかできなかった。


 アイドル時代の放送では、理系と明言はしていたもののここまで話をしてはくれていなかった。視聴者とか他のメンバー(しふぉんとなっきぃ以外の1期生は文系らしい)が理解できない可能性があるからなのだろう。今こうやって数学の話ができているのが幸せに感じられた。


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