番外編2 卒業後のライブ 4
軽音部だったころは良く隣で歌っているところを見ていたが、こうやってアイドルとして活動している彼女を(リアルで)見るのは初めてだ。僕は、なっきぃを見て少し凛々しいと感じた。
なっきぃには申し訳ないが、僕は推しのそかかの列に並んだ。笠山爽花というのは、素直に読める(名前、2文字とも音読み)があまり頻繁にある名前ではないだろう。いつだったかのブログで、彼女が名前の由来について書いていたことを覚えている。
本当は、名前を湯桶読み(1文字目訓読みかつ2文字目音読み。いわゆる『重箱読み』の反対)の「さやか」と読ませる予定だったという。「上から読んでも下から読んでも『かさやまさやか』」と、マタニティーハイになっていた母親が提案した名前とのことだ。
しかし落ち着いて考えてみると、「かさやまさやか」は逆から読むと「かやさまやさか」になり、微妙に回文になっていないことに気が付く。「爽花」という字面自体は気に入っていたようなので、それは変えたくないという思いから、名前を音読みさせて「そうか」という名前に決めたようだ。
「そかか」という名前は小学校のころから呼ばれているあだ名らしい。語呂が「おかか」に似ているが、本人曰く結構気に入っているとのことだ。
僕は彼女の列に並び、緑色のタオルとサイリウム、そしてCDを買って会場のホールへと向かっていった。小説風日記はしふぉんだけがやっていることであり、他のメンバーはやっていない。彼女は物販で本を売っていたが、それは特例(といっても、申請すれば多くの場合認められる。しかし、そもそも申請するもの自体少ない)とのことだった。
今日は新曲の発表はない。単なる定期公演だ。それでも、僕は非常に楽しみだった。いつかは行かねばと思っていたライブに来ることができて良かったと思っている。
僕はスマートフォンの電源を切って鞄にしまった。そしてしばらくしてから、プロデューサーさんが出てきてこういった。
「電子機器類は電源を切るかマナーモードに設定し、鞄の中にしまっておいてください。また、撮影・録音等、他のお客様に迷惑がかかる行為はご遠慮ください」
プロデューサーは7年ほど前にブレイクしたお笑い芸人(すぐに名前を聞かなくなってしまったが……。)だ。前になっちに言われた気がするが、思い出したのは久しぶりだった。もちろん、今の彼の表情は真剣だ。
彼は高学歴系芸人(千葉大学理学部卒)だが、今はヘリアンサスガールズのプロデューサーを務めている。彼曰く、「人生何があるかわからない」とのことだ。正直彼のマヨネーズネタ(上半身裸で、かなりの声量でシャウトするあのネタ)を見てみたい気持ちもあったが、今の主役は彼ではないので仕方ないだろう。
彼が注意を行うと同時に、ヘリアンサスガールズ1,2期生の7人(2期生の一人が学業を優先するため脱退)が舞台上に登場した。今回のMCはなっきぃのようだ。
「今日はヘリアンサスガールズのライブにお越しいただき誠にありがとうございます。今回のライブでMCを務めさせていただくのは、1期生のなっきぃです!
それではさっそく曲行きましょう! まずは1曲目恒例になっている『希望の花言葉』です!」
彼女はそう言い終わったあと、7人で希望の花言葉を歌い始めた。
3年前の7月、僕と彼女とふたりでカラオケに行ったことを思い出す。このことは周りには秘密にしておくつもりだが、その日を思い出してふと泣きそうになってしまった。それなのに彼女は3年の空白期間がなかったかのように歌っている。そのせいなのか、涙が出かけてしまった。
7人は無事に1曲を歌い終えた。僕は拍手を送る。周りの人も拍手を送っていた。




