番外編 誕生パーティー 5
観覧車は少しずつ、少しずつ上へと昇っていく。入口がある側の景色は暗く、住宅街といった雰囲気を醸し出している。一方、もう片方の窓から見える町並みは明るく、にぎやかな雰囲気を何となくではあるが感じ取ることができる。
晴れてはいるものの、当然ながら暗く、富士山やスカイツリーは見えなかった。僕は夜空を仰ぎ思いをはせた。
なっちは過去のことを回想して、僕たちに、本当にありがとう、と言ってくれた。
気づいたら観覧車が頂上に来ていた。なっちはガラスの外の景色に息を飲んでいるようだ。C北・南は栄えており光っているが、少し離れたところ(N駅のあたりやK駅のあたり)は人が多くないのか、そこまで明るくない。
外は少しばかり風が吹いているようだ。なっちはベージュの首掛けポーチの位置を調整し、窓の外を眺めていた。僕たちも外に釘付けで、特に何も話さなかった。
観覧車での12分間が終わりを告げようとしている。観覧車ももう3π/2以上回転しているようだった。
そして観覧車はゆっくり出口へと向かっていく。なっちは何かを考えているようでうつむいていた。
気づいたら飛び降りても大丈夫そうな高さまで来ていた。スタッフさんが観覧車の扉を開けるためにスタンバイしている。観覧車が地面に接したと同時に、僕たちはドアを開けてもらい外に出た。
外に出ると春の涼しい風が身体にあたった。花粉を除けば本当に快適な気候だ。僕たちは、店員さんにありがとうと伝えてエレベーターの方へと向かっていった。
「めっちゃ綺麗だった!」
僕は声を抑えながらも興奮したことを隠すつもりのないトーンで話した。他の3人も、また乗りたいと思ったようだった。4人はエレベーターを降りて、M-モールの駅前出口から外に出た。
「じゃあね」
コウ・ひかりは電車で学校まで来ている(最寄りは乗り換え1回のS駅)。僕たちも、じゃあまた明日、といって、なっちと歩いて帰路へと着いていった。
駅前はいつも通りにぎわっており、色々な年代の人が来ているようだ。そんな喧噪の中をふたりは抜けていった。
M-Mallから左に出てまっすぐ進むと橋がある。その橋を渡った瞬間、さっきまでの喧騒が嘘だったかのような暗闇へと出た。なっちは暗いところは昔は苦手だったが、最近は慣れてきたといっていた。
「アイドル時代の誕生パーティーってどんな感じだったの?」
僕はふと思い浮かんだことを聞いてみる。なっちは答えてくれた。彼女は、当時の思い出を話してくれた。
本来は誕生パーティーが予定されていたが、1回はコロナウイルスの影響で中止になってしまったこと、その分2021年のものは感動的だったことを。地方アイドルということもあり特に広い会場を使ったとかはなく、ファンの方と交流したくらいだがそれでも、深い思い出を作ることができたのは間違いなかったこと。
新型コロナウイルスの流行により、1回つぶれてしまっていたようだ。
「そうか、コロナのせいで1回つぶれたのか」
なっちの活動期間は2019年8月~2022年3月くらいだったので、4月19日があったのは2020年と2021年の2回。そしてそのうち1回はつぶれてしまっていたのだ。その分2021年の思い出は深かった記憶がある、と伝えてくれた。
それでもなっちは、仕方ないとはいえ2020年の誕生パーティーもやりたかったと思っているようだった。
なっちは暗いとは思うが気にならないとは言っている。僕たちは暗い道を抜けて公園まで歩いていった。
「結局、四国の方へと戻れるプランはあるの?」
僕はなっちに聞いてみた。彼女は、前向きに見ている、といった趣旨の回答をしてくれた。僕は、いつかライブにも行きたいと思った。
「戻った後、僕となっちとの関係はどうなる?」
僕は少し不安に思い聞いてみた。彼女は、少し考えて話した。
「うーん、ヘリアンサスガールズ自体に恋愛禁止ルールはないとはいえ、どうなるか……。申し訳ないとは思うけど最悪の場合、”彼女”でなくなるということは覚悟しておいてほしいと思ってるかな。
まあ、あと2年あるし、別れたとしても定期的に連絡は取れるだろうから、その点は心配しなくても大丈夫だと思う。こっちとしても、みんなの反応を見て前向きに決めようと思ってるから、そんなに心配しないで」
僕は全面的になっちの考えを支持したいと思っている。僕の勝手な想いでなっちの未来に迷惑を掛けたくない。なっちが戻りたいと思うなら、僕は別れることも受け入れる覚悟はある。
なっちは、僕にありがとうと言ってくれた。




