57 12月のライブ 3
僕はしふぉんに挨拶し物販を買うために、彼女推しの人が並んでいる列の最後尾に入った。
まだ撮影会はないため、列自体は早く流れていく。僕が買える番になるまで、10分もたっていなかった。しふぉんは僕の顔・姿を見た瞬間、かなり驚いていたようだった。
「え、待って、嘘でしょ?」
彼女は独り言のように呟くが、明らかに僕にも聞こえるような声の大きさだった。もちろん、まだ僕は何も名乗ったり言ったりはしていない。しふぉんはすぐ落ち着いた様子で、僕に向かって話しかけた。
「ちょっと取り乱してしまってごめんなさい! ライブに来てくれてありがとうございます! 何か買っておきたいものありますか?」
平静を保とうとしているのはわかるが、それでもかなり動揺しているようだった。どうしたんですか、と聞きたかったが、後ろにも並んでいる人がいることを考えて聞けなかった。僕は、撮影会の写真を2枚程度に済ませ、そのあと会話した時に聞いてみようと心に決めた。
僕はしふぉんのタオル・本・サイリウム・CDを1つずつ買った。沢山買えば何かもらえるとか安くなるとかはないが、推しのグッズは1つずつはあってもいいかなとは思っていた。
ヘリアンサスの希望は文庫本サイズだが、表紙には青空の下に咲くひまわりの写真が印刷されている。側面・表紙には「ヘリアンサスの希望」のタイトルが印字されていた。
僕はライブステージの観客席に座った。椅子は600ほどあるが、座っている人は多くても20人だ。ただ、まだ13時20分だから、始まるまでにはあと40分ほどはある。僕は、しふぉんから買った本を読み始めた。
(文体という意味ではなく本の材質的に)少しばかり読みにくいが、気にならない程度ではあった。14時20分から消灯されるらしいが、まだ暗くない。僕はゆっくりと読み進めていった。
小説(実話と言った方がいいのかもしれないが、小説の体をとっている)はしふぉんが3年前の夏休みにオーディションに申し込んだところから始まる。7回目に受けたユニットがヘリアンサスガールズだった、という話だ。
あくまで実話がもとになっているということだから、彼女の言っていた通りそこまで(エキサイティングな意味での)面白みがあるというわけではない。しかし分量がまあまあ多いので、読んでいると時間がつぶれるのは間違いないだろう。
周りには徐々に人が来ている。席も徐々に埋まっているが、完全に埋まっているわけではない。あと200人は入れそうだ。周りを見てみたが、部活仲間・クラスメイト含め同じ学年の人はいないようだった。
なっちが昔アイドルやっていたことはバレずに済む。僕はとりあえず一安心した。
今日のセットリストは以下のようになっている。1年半前の夏のライブ(拓也さんがTwitterでレポートを公開していたので知った)とあまり変わらないようだ。
1.希望の花言葉
2.タイムマシン
【1期生の自己紹介】
3.タビソラ
4.続く
5.Departure
【2期生の自己紹介】
6.2つ目の希望
7.道端花
8.サヨナラの先へ
【3期生の自己紹介】
9.大冒険時代
10.???(伏せられている)
全ての曲を聞いたことがあるわけではないが、しふぉん(1期生)が歌っているの(1、2、3、5、7、8、9)はちゃんと覚えていた。ただ、コールは覚えていなかったので、それは周りに合わせることになってしまいそうだ。
僕は本を読みながら、セットリストに目を通し、???ってなんなんだろうと楽しみにしていた。
舞台の電気が消えた。気づけば14時10分になっていた。予定通りならあと10分でメンバーの披露が始まる。僕はスマートフォンの電源を切って鞄の中にしまった。




